現在と過去の自分
私のいる場所は普通ではないのかもしれない。その世界にズッポリと浸かってしまった私は、どれが普通でどれが歪なのかを理解出来なかった。目の前に入る情報は人間の闇を示すものばかり、表は煌びやかに見えるが、その裏には思惑が隠れている。
日常的に感じている違和感を否定する事は出来ない。それは自分の生きてきた世界を否定する事にもなるからだ。大人達は全ての書類を親戚の金庫に隠し、読んでしまえば自分の未来さえも潰れる情報は全て焼き払った。そうそって証拠を隠滅しながら、自分達の日常を守っていたのかもしれない。
「本当に嫌になる」
あの家に生まれたせいで、自分の道さえも選んで歩く事もままならない。自由を望んで行動を起こせば、その周囲が権力で潰される。そして私の友人達に友達をやめるようにと金をばら撒く始末。両親が決めてしまった私の将来の設計書通りに進まないと、沢山の犠牲が生まれてしまうのが現状だった。
周囲の人達を見て、羨ましいと何度も感じていたが、口にする事さえも許されない。全ては自分の生まれた境遇が原因だろう。祖母も最初はあの人に似ている子供の私を憎む対象として選んでいた。毎日毎日、すれ違う度に、あちらの子供だから出ていけと、生まれてくるのを間違えたと言われてきた。
それでも、自分の希望だけは捨てれない。そう思いながら向き合おうとすると、やっと関係が改善されたのは5年後の事だった。父は仕事を選び、引き抜かれテレビに出る事が増える。そして母は全ての人間を憎みながら、暴力に溺れたんだ。
そこには幸せなんてなかった。あるのは残酷な現実だけ。泣き叫んでも、血を吐いても、あざだらけでも、火傷を負わされても、助けてくれる人なんていなかった。そんな私に手を差し伸べたのは、祖父母だったんだ。
「お前の親は役割を放棄している。お前さえ良ければ両親を捨てて、私の子供にならないか」
祖母も祖父の話を理解しているようだった。母の事は嫌いだが、私に対してはだいぶ柔らかく変わったから。だから話が通り、それが二人の前に姿を表すと、息子を取り上げないでくれと泣く父と、自分のおもちゃを奪われないように発狂する母の時刻絵図が完成した。二人はそうやって、自分の要望を伝えるだけ伝え、私の本当の気持ちを理解しようとはしなかったんだ。
「挙句の果てに、こんなおっかないものを置いていくなんてね」
成長した私は呆れたように呟くと、昔の面影をチラリと見せてしまう。全ての話を終えた私達は、車で目的地へと向かおうとした。