裁判記録
正反対の素質を持つ私達は
互いがトゲのような存在と認識している
交わる事なんて決してないはずなのに
本当は似たもの同士だった事実が隠れていた
ビリビリと破れていく。余計なものはこの世から最初からなかったように潰していく。何の書類か分からないくらい切り裂いたそれ達は、彼らが用意した炎の中でチリになっていく運命を受け入れようとしている。
「一部は燃やした。後は検察が入る可能性を見越して、別の場所へ移動させとくのが安牌だと思う」
「そ……そうね」
「これは決して表に出してはいけない。全てがひっくり返る可能性があるからな」
私は兄を含め、近い関係性のある親戚達の様子を見ている。何も知らない私は蚊帳の外だ。他の人達はどんな状況なのかを理解しているようだった。
「話って何?」
その場の空気なんてどうでもいい、余計な事に巻き込まれるなんてうんざり。だったら最初から聞かなかった事にするのが一番だった。チリチリになっていく書類の欠片が風に運ばれていく。この時の私は、何も考えずにその光景を見つめていたんだ。
「お前は何も知らなくていい。関わるな」
忠告してくる兄の姿が今でも脳裏に焼き付いている。何度消そうとしても、浮き上がって現実へと繋がろうとしていく。ハラリと風が悪戯をする。宙に舞った秘密が記されている一枚の紙が私の掌へと落ちてきた。
ふっと目を通してしまう。見ようとして見た訳じゃない。それはただ瞳に焼き付いて離れなかったんだ。
「それを渡せ。お前は読むな」
全部を見た訳じゃない。でもその書類の一枚に描かれていたのは裁判記録のようだった。そうしてそこに隠れているもう一人の人物の証言が描かれている。目を通そうとした所で、これ以上読まれてはなるものかと、回収されてしまった。何の裁判記録なのかは、まだ分からない。少し、調べる必要があるなと思いながら、呼び出された要件を聞き、空間の流れに身を任せた。
「監査が入るかもしれない。今の状態じゃどうなるのかも分からないから、お前を呼んだ」
「私に関係はないよね」
「直接的にはな。親父の仕事は知っているだろう。そこの重要な機密が記されているんだ、これには。いわゆるスキャンダルに近いな」
「そうなんだ。それがどう私と関係があるの」
「親父もそこに関わっていたらしい。後は法律が改定されて今まで許されていた金の巡りが罰せられるようになったそのタイミングで、やらかしたってのもある」
苦笑いをしながら、口早に説明をしてくる兄の様子を見ながら、自分の事ではないのに、私にも兄にも何かしらの影響があると言う事実が目の前にある。
「政治家がよくやる手なんだけど、規制が厳しくなったからな。全て払ったんだが、立場が立場だろ知事はマスコミに流そうとしている」
「そうなんだ、それ私の生活にも影響出るよね」
「そうだな。ある情報を親父が握っているから、見せしめもあるんだろうな。あの世界ではよくある事だろうな」
「その情報とは?」
「俺だって全てを知っている訳じゃない。この書類はその一部にしか過ぎないから、困ったもんだ」
「踏み込み過ぎたか……」
なるべく会話をスムーズに流していく。いつもなら私の事を見下して、粗探しをするのに、余程参っているのだろう。私には知る必要がないと言い切った癖に、ボロボロと溢して、止まる事がない。
聞いてはいけない情報を持つ事がどういう事かを把握出来ていない私は、他人事のようなストーリーを楽しむ事に専念している。なかなかこういう話は聞けないから、余計に。