侵食
夢の中で漂っている瞬間が一番好きだ。余計な事も、重たい現実からも離れる事が出来る唯一の空間だからかもしれない。
「お前の考え方は周囲から理解は難しい。だから時が来るまで『偽物』として複数の仮面をつけて生きる事を進めるよ」
私の将来の為、人間を憎む事しか知らなかった闇落ちした自分を否定するかのように、祖母は言った。優しかったお前が……と泣きそうな表情を堪えて、肩を震わせていた光景が頭に過る。あの時のワタシは、その姿を見て、笑い続けた。
『君たちが望んだ事じゃないか、今更『綺麗事』を言われても何も響かないよ』
「……お前をそんな風に歪ませてしまったのは私達の責任だ。私達を憎むのはいい、お前の気が済むまでこの家を潰すのなら、それも止めない。しかし他の人は違う。お前の人生に関わる未来の人達は、私達とは違う。一緒にしてはいけない」
『……てめぇがそれを言うか? それを言えるのはその人達だけだろうが。お前達のしてきた罪は消えないんだよ。言ってはいけない言葉だろ、それは』
私は力がなかった。誰も守れなかった。相手を大切にしようとしても、それを全て奪ったのは権力と金に溺れた人間達。私は全ての光景とこの身を知って、呆然と立ち尽くす事しか出来なかった弱い自分のままでいられなかった。
「お前は誰も守れない」
ある人は倒れ込み、口から血を吐き続ける私を見て、鼻で笑いながら言う。
「お前には力がない。しかし私達は全てを手にしている。分かるだろう? 私とお前の立場は違うのだよ。お前は一生私達の『奴隷』として生きればいい。暴力は全てを制する。それが露見する事がなければ、私達はいつまでも勝ち組なのだよ。まぁ、例えマスコミにこぎつけられようと『金』と『重圧』で終わらせばいい事。簡単だろう?」
『……間違ってる』
何時間この状態が続いているのか分からなくなっている。私はただ人間としての自由を求めただけだった。どれだけ闇に染まったとしても、まだ引き返せる。それはこの人に対してもだ。
「お前は利用価値がある。金のなる木だ。その役目を終えるまでお前に自由はない」
あの人はそう言うと何度も何度も私の頭を踏み続けた。私の心が折れるのを待つように、試すかのように。動く力なんて残っていない私に残ったのは『悲しみ』と『憎悪』だったのだ。
夢の中まで汚さないでくれ。
心の声は現実へと滑り込んでくる。何度も何度も、痛みとアザが私の体を覆い、うめき声をあげていた。