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情報は全てを握る盾となる


情報は全てを握る盾となる。表面的に動いても、欲しいものは手に入らない。それならば複数の仮面を被りながら、周囲を揺さぶっていくのが一番の手法だ。一度、敵対関係になってしまうと、私は人間の心を捨て、鬼となる。


「お前は化け物だ。お前程の恐ろしい存在はいない」


母は私の性質を理解していなかった。自分のしてしまった事に後悔しながら、許しをこう事しか出来ない様子。一度、崩壊を辿ってしまった関係性を整える為には、どちらが主導権を握っているかを見せつける事だ。長い年月をかけ、相手の懐に入る。相手は私を上手く騙せたと思うだろう。


その感情が全ての崩壊の始まりとも知らずにーー


「やりすぎだ、自分が何をしたのか分かっているのかい?」

「何が言いたいんだ?」

「いくら親がお前にした仕打ちがあると言っても、両親を支配するとは……。ある意味、才能だな」

「はっ、その言葉は嬉しいよ。記念に記憶に保存しとこうか」


祖母は悲しそうに呟くと、涙を浮かべながら、話を続けていく。私の表も裏も、全てを熟知しているからこそ、ここまで介入出来るのだ。何度か敵対関係になってしまったが、互いの敵が合わさると、簡単に協力者へと格上げされていった。


「これでこの家は安定する。全ては祖父の意思なのだから、貴女は踏み込む権利はない。そうだろう?」

「言葉一つで、親子の立場を逆転させるなんて、子供が出来る事ではない。お前をそんなふうにしたのは、私達の責任なのかもしれないね」

「あんたはよく耐えたよ。それでも私の邪魔をするなら容赦はしない。知っているだろう? あんたは敵に回っていたから余計に」


立場を持っている人達の罪を正す為に、私はこの家の子供として存在している。全ては祖父の思いと遺言を守る為だ。悪意に染まってしまったものは、徹底的に壊さないと元に戻す事は出来ない。だからこそ、その為に有効なのは言葉の力でもあった。それを使う為には、最低十年の年月が必要となる。


それは内部から全ての情報を引き出す為の時間が必要だからだ。最初は家族として信じてやまなかった。しかし蓋を開ければ、自分の事しか考えていない奴らばかり。


「虫唾が走る。結局、あいつらと同じなんだよ」


父の立場を利用し、複数の人脈に入り込む。それは全ての信頼を勝ち取る為の下準備として、作法と礼儀で相手を立たせていく。目的の為に動いているとは思わせないように、全く違う思考を切り分けながら、二人の自分を作り出していく。それを繰り返したら、全ては浸透し、偽りは真実へと姿を変えていくのだ。


「暴力は無くなっただろう? 父さんだって仕事に集中出来る環境になったんだ。それはいい事だろう? 何故、そんな顔をする」

「……お前は表に出てはいけない。その立ち回り方は闇を引き入れてしまう要因になるだろう。お前には黒幕の才がある。両親が暴走をしないように、全てを管理し、自由に行動をさせないようにするなんて……普通は出来ない。本人達は自分が構成したと勘違いをするだろう。それもお前の計画なんだろう、雪」


年月はかかったが、ここまで上手くいくなんて、自分でも想像していなかった。両親は私の奥底に眠る素質と闇に気づいていない。だからこそ、私の正体を見抜けなかったからこそ、この結果になったのだ。


「次は、兄だ。数年は様子を見てやる。しかしこの家を潰す要因になると判断したら、分かっているな?」


祖母に対する視線は冷たくて、空間さえも凍らしていく。見たくないものを見てきたからこそ、人に失望し、家族に対しての憎しみと抑えきれない程の怒りが渦巻くようになってしまった。祖父に命を救われたあの時から、私は全ての裏切り者を排除する役割を演じている。


「お前が自由になる為には、この家を捨てるか、潰すしかない。もしお前の判断で終わりだと判断したのなら、父は勿論、兄諸共、潰しにかかれ。それがお前の人生を、命を守る唯一の方法なのだだから」


私を庇った祖父は、悲しそうに微笑んだ。あの時から、私は本当の意味の生き地獄を知っていった。今でも覚えている。あいつが祖父を突き飛ばす瞬間を。私を守る為に、命を捨てるはめになった存在の事をーー


兄の発言をずっと観察してきた私は、我慢の限界をとうに超えていた。私と母を騙し、全ての財産を自分のものにした兄は、それ以上に私の存在を逃さないように、周囲の人間関係に噂を流し始めた。二度と逆らわないように、利用価値の残っている私を手放すつもりはないようだった。


「……もう少しだ」


微笑んでいた表情がスッと消えていく。そこに新しく顔を出したのは、人間の皮を被った狼そのものだった。

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