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動物ハンター 「健(ケン)」〜KEN〜

作者: ファンタスティック池田

 俺の名前は園崎健。動物園の飼育員をしている。今日は日曜日という事もあり、いつもは寂れた当園にも、数十組の親子連れが見受けられる。

 「わー!見てー、キリンさんだよー!」

 無邪気な声は、仕事をするモチベーションを与えてくれる。初めは夢を持って始めた飼育員も、やってみれば地味な仕事が多く、現に今もキリンの排泄物を掃除していた所だ。この小屋の掃除が終われば、次はカピバラ、その次はチンパンジーの小屋へ向かい、排泄物をかき集めなければならない。

 動物園の営業時間が終わり、オフィスに戻ると、園長がやけに深刻そうな顔でみんなを集めた。

「みんな…落ち着いて聞いてくれ、当園の全ての動物が脱走した。」

 数秒間、従業員一同が固まった。

「園長ったら〜冗談キツイですよ〜」

「そうですよ園長、今日はエイプリルフールじゃありませんよ!」

 その言葉に一同がそうだそうだと固まった顔から笑顔を取り戻し、園長の次の言葉を待つ。しかし、園長の顔は曇ったままだ。

「すまない…DXを導入しようとして全ての檻の鍵をデジタル化したのはいいものの、パスワードを3回間違えて全ての鍵がアンロックされてしまったのだ」

 一同が再び言葉を失う。

「だが心配するな、こんな事もあろうかと、全ての動物に位置情報を発信する発信器を付けておいたんだ。ここに、動物の居場所を把握するためのiPadがある。全員分用意しておいた。この事がバレたら大問題になる。明日の開園時間までには、全ての動物を捕獲し、檻に戻してほしい。」

 園長から一枚ずつ配られたパッドには、動物の名前と共に位置を示す点があちこちで動き回っている。」

「そんな、無茶ですよ園長」

「そうですよ、大人しく自首しましょう」

 従業員の必死の説得も聞き入れられず、従業員全員による園の存続をかけた大捜索が始まった。

 

「はぁ…はぁ…やっと最後の兎を捕まえたぞ。」

ウサギ小屋から脱走した20匹のウサギをレーダーを使って何とか見つけ出し、網を使って捕獲した所で、リーダーから次はカバを捕まえてくれと指示が下った。カバはカバの池で飼育していたので、池からは出ない筈だと踏んでいたところ、案の定レーバーが示すカバの位置は、カバの池にあった。だが、その時レーダーが指し示すカバ以外の二つの光を見たときに、目を疑った。

「ワニと…チーター…?」

 進まない足を引きずり、何とかカバの池まで到達すると、そこには一触即発のピリピリとした緊張感が漂っていた。池の中にはワニとカバが、陸からはチーターが両者を見下ろし、三つ巴の状態になっている。切り立った岩の上に立つチーターは、ライオンキングのワンシーンを彷彿とさせた。

「嘘だろ…なんでこんなことに。ワニはワニの池、チーターはサバンナエリアで飼っていた筈なのに!」

 三者は鋭い目を尖らせ、睨みをきかせあっている。数分の沈黙の後、チーターがその肉球を池に差し出し、突如ワニの鼻先をペチンと叩いた。

「!?」

ワニはそれで怯んだのか、後ずさって距離を取る。狙った獲物は逃がさない肉食のチーターは、そのままカバの背に降り立ち、カバはその意を察したのか、そのままワニの方に進軍を始めた。先にワニから潰しておこうという作戦だろう。

「まずい…チーターもワニも海外から借りている高価な動物だ。どちらを失っても国際問題になるぞ…」

 その時だった。バシャバシャと池を横切ってこちらに向かってきて、ヒョイと空いていたワニの背中に飛び乗る影があった。そう、ゴリラだ。

 「ゴリラ!?」

 4者は向かい合い、騎馬戦の騎馬のようになっている。

 時間帯は夜、月光だけが照らす池の中には、その光を受けて、普段は絶対に邂逅しないであろう4体の動物が睨み合っている。

「まずいぞ…この戦い、絶対に止めなければ」

 その時だった。空から飛来する影があった。影はゴリラの背に飛び乗り、翼をしまい、相対する敵を見下ろした。そう、コンドルだ。

 「コンドル!?ワニの上にゴリラ、ゴリラの上にコンドル、ブレーメンの音楽隊ですか、これは」

 その時、またもや空から漆黒の翼が黒光りしてその姿を表し、チーターの背に乗った。そう、カラスだ。

「カラスに関してはうちの園で飼ってねぇよ」

 陸、空、海から三者が揃い、双肩する三者が向き合う神秘的な情景を目の当たりにしていると、声が聞こえてきた。

「こんな不毛な争いはもうやめるんだ!」

 向き合う壁の両側にまたがり、園長が腕を組んで立った。

「園長ッ」

「全て私が悪かった。この顔に免じて許してほしい」

 しかし、園長の搭乗により、両タワーのバランスは崩れ、バシャバシャと音を立てて動物たちは池に落ちた。


「園長ッッッ!」こんな園もう閉園だよ!!」


「諦めたらそこで試合終了ですよ。」

「その声は!」

「そうだ、私がキリンだ。いつも世話をしてくれてありがとう、ケン。お前はいつもこんな筈じゃなかった、とか、何やってんだろう、とか言ってるけど、お前の仕事で救われてる奴がいることを忘れるなよ。今日からお前が、この園の動物マスターだ。」

「キリンさん…ありがとう。俺、頑張って生きるよ。」


 夜が明け、日が登ってくる。周りでは動物たちが踊っている。俺はキリンの背に乗って、朝日が昇るのを達成感と共に眺めていた。

 

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