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プロローグ

黒江くろえちゃん。僕と結婚しよっか」


 夕陽をバックに満面の笑みを浮かべているのは玖蘭くらん すばるくん。

 場所は海が見える崖の上。私達は今日、二人で旅行に来ていた。


 彼の両手には彼の上半身ほどの大きさのキャンバスがあり、今まさに私が見ている夕陽をバックにした崖が描かれていた。


「――うん」


 何も考えず、私は思わず返事をしてしまった。


 私――北山きたやま 黒江くろえは、とある中小企業で営業をしている、どこにでもいるありふれたサラリーマンだ。


 二十代も後半に差し掛かったけど化粧は下手だし、セミロングくらいの髪の毛は後ろでまとめただけの地味なスタイルで、眼鏡も安売りの黒縁眼鏡。

 普段は生活の殆どをスーツ姿で過ごしているけど、今日ばかりは少しオシャレな白いワンピースを着ている。


 押しに弱い性格なのもあって仕事の営業成績は悪いし、家では新聞を五つ取っている。


 これと言った特技もなければ、仕事の手際も悪いからいつも残業ばかりで、趣味どころか家事をする時間もない。



 一方で、昴くんは私の家で同棲している黒い短髪で優しい笑顔が似合うイケメンだ。


 普段も今日も適当なTシャツとジーパンだけなのに物凄くオシャレに見えるし、細身の体型は本当に絵になる。


 何歳かわからないけど、言動が子供っぽいから多分私より年下だと思う。


 何故詳しく知らないかというと、何となく聞くタイミングをしっしてしまって、そのまま聞けないでいるからだ。


 あと、問題があるとしたらなかなかの風来坊ふうらいぼうで、気がつくといつもどこかへ行ってしまう。


 昴くんは、そんな私の返事に対して微笑ほほえみ返してくれた。



「――よかった。じゃあ、死んでね」


「えっ!?」


「ちょっと痛いけど我慢してね」


「えっ!?」


「幽霊っているじゃん?」


「い、いるね。ん? いるのかな?」


「幽霊ってさ、肉体が死んじゃった人のうち、精神だけが生き残った状態なんだ」


「そ、そうなんだ。詳しいね」


「で、実は僕も幽霊でさ。もう肉体は死んでるんだよね」


「えっ!?」


「だから、黒江ちゃんも幽霊になってほしくてさ」


「な、なんで!?」


新婚旅行しんこんりょこうに行きたいじゃん?」


「えっ? あ、うん。行きたいね?」


「せっかくなら別の並行世界に行こうかなって」


「えっ!?」


「幽霊になるとさ、こことは違う並行世界に行けるようになるんだ」


「そ、そうなんだ。ん? そうなの?」


「だから、黒江ちゃんも死んだら僕と一緒に並行世界を旅行できるじゃん」


「そ、そうだね?」


「――というわけだから、死んでね」



 こうしてそのまま崖から突き落とされて命を失うこととなり、自らの肉体を捨て、精神だけの存在――つまり幽霊となってしまった。


 あぁ……。なんだろう、私ってやっぱり押しに弱いのかなぁ……。


 実際、崖に押されて落とされるし……。

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