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【完結】アイドル聖女の幸せなウソつき新婚生活~義妹に婚約者をとられた腹いせにアイドル始めたら、実は熱狂的ファンだった氷炎の貴公子と契約結婚することになりました~  作者: ゆいレギナ
最終章 アイドル、愛を歌う。

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20話 合法的なストーカー


 イシュテルからの提案は突然だった。


「ライブ、しばらく休止にしない?」

「どうして?」


 だって今日のライブも大盛況だったし。最近はあまりに人が集まりすぎて、事前に整理券を配ろうかなんて案も出ている始末だ。支部長曰く、もう改築費用も十分に貯まってるらしい。ただ工事中のライブ会場のあてがないから着手に踏み込めないのだという。今度ファンクラブ会員一号さんに相談してみると言っていた。


 あの公爵にお願いしたら、とんでもない会場を貸してくれそうな気がしないでもない。というか、チラッと二号のエヴァン様にそんな話をしてみたら『うちの屋敷を開放するか?』と真顔でおっしゃっていたくらいだ。即座に断ったけれど。


 そんな絶好調なのに、どうしてそんなことを言うのだろう?


「もしかして、またご実家のほうが?」

「いやいや、サラに疲れが溜まってないかな~って思っただけだよ」


 すぐにイシュテルは笑って「サラが元気ならいいんだよね~」と話を逸らしてくるけど、私は心配だった。


 ――なにか、私に隠し事があるのかな?


 だけど、今日もチケット代を数え始めるイシュテルをよそに、私は汗を拭くことしかできなかった。


 だって最近ライブが楽しいんだもの。


 それに、家に帰ってからの楽しみもある。

 いつもエヴァン様がお茶に誘ってくださり、今日のライブの感想を語ってくれるのだ。


 最初はとても恥ずかしかったのだけど、あまりに嬉しそうに話してくれるものだから、なんだか私も悪い気がしなくって。いつしかヨシュアさんにニヤニヤされることにも慣れてしまった。


 派手な金ぴか花柄のお揃いカップで飲む、優しいルイボスのミルクティー。

 今日も早く、あなたに会いたい。




 馬車に揺られながら、私は鼻歌を歌っていた。

 さっきまで散々歌っていたのにね。一応お勤め後なんだから、多少は疲れた様子を演出しないと。あまりにお茶の時間を楽しみにしていることが筒抜けだと、恥ずかしいもの。


 ――だって私たちは愛のない契約結婚なのだから。


 それでも、あれだけ良くしてもらえているのだ。なんて優しい方なのだろう。

 たとえ『愛』ではなくても、このままゆっくり『情』を育んでいければいいな。


 そう――あまい夢に浸っていた時だった。

 馬のいななきと共に、ガタンッと急に馬車が止まる。御者をしてくれている人は協会と提携している憲兵さんたちだ。たいていのことは大事になる前に解決してくれるはずだけど。


「聖女さま、出てこないで――⁉」


 言葉の途中で、うめき声に変わる。


 ――盗賊? それとも……。


 夜も遅く、人気のない道も通る。それゆえ、このような襲撃事件は少なくない。

 それでも、今まで貧乏支部の低能聖女なんて狙われることなかったのに。


 ――私も何かしなくっちゃ!


 治療でも、結界でも。最低、身を盾にしてでも。

 私が馬車から飛び出そうとした途端。


「出てくるな!」


 その怒声は、とても聞き覚えがあるものだった。

 同時に、馬車の外が真っ青な炎で包まれる。その幻想的な光景に、思わず私の腰は椅子の上に落ちていた。


 ――エヴァン様⁉


 炎の爆ぜる音で、外の音は聴こえてこなかった。

 だけど私の胸の鼓動は別の高鳴りを見せていく。


 なぜ、ここにエヴァン様が?

 もちろん今日のライブもエヴァン様は最前列で魔光棒(コンサートライト)を打っていたけれど、観客はとっくに帰っていたはずなのに。


 青い炎がしぼんでいくのに、そう時間はかからなかった。

 外から馬車の扉が開かれる。


 そして覗き込んでくる水色の髪の青年は、息も切らしてないのにとても不安そうな顔をしていた。


「大丈夫か? 怖い思いはしなかったか?」

「エヴァン様、どうして……?」


 エヴァン様に怪我がないことにホッとしつつ、そんな疑問を零せば。

 彼はバツが悪そうに頬を掻いていた。


「やはり帰り道が心配で、いつも尾行をしていた」

「…………」

「尾行がバレないように、いつも直前で猛ダッシュで屋敷に駆け込んでいてな。平然ときみを出迎えるのが実はどんな訓練よりもけっこうハードだったのはここだけの話だ」


 その話、ここでも他でもする必要がなかったのでは?


「……すまなかった」


 私がスンと無表情でいたからだろう。しょげたエヴァン様が謝罪を口にする。

 そんな旦那様が妙に可愛くいて。


「氷炎の貴公子が……ストーカー……」


 思わずクスクスと笑い出すと、慌てたエヴァン様が顔を真っ赤にする。


「ストーカーとは言いがかりだろう⁉ 仮にも夫婦になったんだ。妻の身を危険に晒す趣味がないだけで――」

「では、本当の御趣味はなんですか?」


 エヴァン様の口癖のような物言いに少しからかってみれば。


「アイドル聖女カティナの応援だな」


 彼は真顔で、私の胸を抉ってくる。


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― 新着の感想 ―
[一言] おぉぉ クリィミーマミからずっとある王道のあれや
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