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12話 いざ、本番!


 残念ながら抽選に漏れてしまった人たちが、とても悔しそうな顔で帰っていく。

 私なんかとの握手に、そんな価値があるのかな?

 だけど、(カティナ)がそんな不安を出すわけにはいかない。


「また絶対に握手会するからねーっ!」


 精一杯両手を振ってお見送り。そしていよいよ握手会だ。


「よしっ」


 裏に戻って、私はパンッと両頬を叩く。気合入れである。

 しかしイシュテルに怒られてしまった。


「こら、顔が腫れちゃったらどうするの⁉」

「そんな強く叩いてないって……」


 そりゃあ、顔も商売道具かもしれないけど……。でも少しくらいいいじゃないか。

 私はまた今から三十分、ずっとアイドルを演じ続けるのだから。


 イシュテルに簡単に化粧を直してもらい、私は再び礼拝堂へ戻る。すると残ってくれた三十人が列をなしていた。平民も、貴族も、優劣なく順不同。まずは平民の少年からだ。


「お小遣い一年分と誕生日プレゼント、前借してきました」


 顔を真っ赤にして手を差し出されると、私まで恥ずかしくなってしまう。


「ありがとう。でも無理しなくていいのに」

「無理なんかじゃありませんっ! カティナがいたから、おれはクラスメイトからいじめられてもがんばって学校に通えているんだ!」


 いきなりの大声に驚くものの、奥で並んでいる人たちは「うんうん」と頷いている。


 そ、そんなこと言われても……。


 だけど、私は笑みを作る。


「すっごく嬉しいな。私のほうが元気出ちゃう。これからも全力で愛しちゃうからねっ」


 私は両手で彼の傷だらけの手を握りながらも、心に浮かぶ気持ちは罪悪感でいっぱいだ。


 すべて、ウソなのに。

 この笑顔も、伝える言葉も、すべてがウソ。


 本当の私は、婚約者を義妹にとられるような、そんな情けない地味で根暗な女なのに。


 それなのに、どんどん列は進んでいく。

 みんな、私にたくさんの感謝と愛を伝えてくれる。


 それが嬉しくて、申し訳なくて、それでも私が「私も大好きだよ」とウソを吐いていると、見覚えのある紳士の番になった。


 桃色髪がチャーミングな公爵様である。だけどこないだのパーティーとは違い、今日は頭にバンダナを巻いて、なぜか袖のないジャケットを着ていた。ちなみにライブの時はいつもこの恰好である。露わな二の腕はたくましいけれど、改めてみるとこう……。


 少々二の腕を見すぎたのだろう。ラルシエル公爵は苦笑してくる。


「奇抜だとお思いでしょう? でも、かつてはこれがライブの正装だったのですよ。これは古文書の図説に載っていた小さなファンの恰好を真似て作らせたものです」


 なんたるお金の無駄遣い……⁉

 だけどそれを口にするわけにはいかないので、私は「すごくステキです!」とウソをつきながら握手をする。すると公爵は両手で私の手を包んできては感涙していた。


「この手は一生洗いませんっ!」


 ――いや、洗って?


 その後ろは、いよいよ水色髪のエヴァン様である。

 エヴァン様はいつも普通の恰好をしていらっしゃる。まぁ、公爵が特別すぎるだけで、エヴァン様も普段の騎士のような恰好とは違い、シャツとベストというラフな出で立ちなのだけど。


 そんなエヴァン様はズボンで何度も何度も手を擦ってから、俯いたまま手を差し出してきた。 


「い、いつも応援しています……」

「私こそ、いつも華麗な打ちに元気もらってます。これからも応援してくれると嬉しいな!」

「そんな、カティナは……俺の命の恩人ですから」


 私が手を握ると、すぐに手を離してしまうエヴァン様。そしてか細い声で「ありがとうございました」と言ったかと思えば、そそくさと去って行ってしまった。


 あの……一度も目が合ってないのですが?

 それに時間も、あと四十秒は余っていると思うのですが?


 しかしエヴァン様だけ呼び戻すのもおかしいだろう。私は礼拝堂の端で「緊張しすぎだろう⁉」と公爵に笑われているエヴァン様を尻目に、「次の人どうぞー」と握手会を捌いていく。




 たった三十分。されど三十分。

 ただ握手をするだけというイベントがどうやら反響を呼んだらしい。


 その翌週のライブは今まで以上の観客が集まっていた。もう礼拝堂もいっぱいいっぱいで、外で音だけ聞きに来ている人もいるらしい。


 会場の広さを考えるのは、支部長とイシュテルの役目である。

 私ができることは、外に居る人にも声が届くように割れない程度に声を張るくらい。


 しかし私は、今日も全力で歌って踊っている中で、とある人物を見つける。


 観客のほとんどが席を立っている中で、後ろの方で腕を組んで座っている眼鏡の青年がひとり。その人物は見間違うことなき、私の元婚約者・ジオウ=クロンド様であった。



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[一言] まさかの後方彼氏面!
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