加奈姉のオトコ遊び
このお話は『マリッジブルーの蕾は美しい花を咲かせます』の翌月のお話となります。
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合わせてお読みいただければ幸いです。
「でね! 賢ちゃんは絶対ジュエリーを贈って来るに違いないんだから!」
「まあ、そうだろうね。賢兄は何かにつけて贈りたがるから……“ジュエリー都築”とはすっかりお友達だもんね」
私がクツクツ笑いながら言葉を返すと加奈姉も吹き出し笑いで言葉を繋いだ。
「そりゃ、贈られて嬉しくない訳はないのよ。でも、毎朝迷っちゃうのよ。どれも素敵だから今日はどれを付けていこうかな?って!! 私個人としては嬉しく幸せな時間なのだけど、これ以上時間を費やすようだと、“会社”としては損失だわ」
「あはは、“箭内統括”は相変らず厳しい!!」
「そりゃそうよ! これからは“孝太”や“あかり”も育てていくんだから、時間は貴重よ! 冴もせめて新規開拓の方はもっと仕事量を減らして時間を作らなきゃ!!」
「そうなんですけど…どっちのお仕事も楽しくて楽しくて!!」
「ダメよ! そーゆーのを“ワーカーホリック”って言うんだからね!」
「は~い!」
「で、冴の方は『ホワイトデー』はどうなの?」
どちらかと言うと“食べづわり”の私は今も“グミ”を摘まみながら話していたので
「私はキャンディとかもらえたら素直に嬉しいんですけど」と答えたら
「冴はピアリングとか、また欲しくないの? それ、ずっと付けてるでしょ?」
と加奈姉に訊かれた。
「だってこれは初めて貰ったクリスマスプレゼントなんだもん! お気に入りのお気に入りです!!」
「そっか、でもまた英にプレゼントしてもらいなさい! そのピアリングはヘビロテになってるから少しは休ませてあげないと」
「えへへへ。ヘビロテなのは分かってるんですけどね」
「じゃあまあ、それはそれとして……私はホワイトデーに『オトコ遊び』を要求しようと思っているのよ!」
「えっ?!」
聞き違えた?と戸惑う私に加奈姉は顔を寄せて
「冴にもひと肌脱いでもらうからね!」
と耳打ちされたその内容に……
私は「ええええ!!!」と耳まで赤くなった。
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ホワイトデー翌日の水曜は商店街もお休みの店が多く、お客様の出入りも少なく比較的暇なので私達4人は揃ってお休みを取り、朝早くから『ていぼう釣り部』をやっていた。
ジャリメと言うウネウネした虫をちぎったり釣り針に差したりなんて私達は当然NGなので、すべて英さん任せ。
私達は仕掛けをちょいと投げ入れるところからのスタートだ。
「サビく」って引き摺るって意味らしいのだけど底に着いたらズリズリと引きずりながら探って行く感じだ。
手もとにクッ、クククッと来たら一呼吸置いてリールを巻きあげ…
やがて白く光るナイフの様な魚体が波間から見えて人生初のシロギスとのご対面!!
「おお!! 冴ちゃんやったね!!」
既にポンポン釣り上げている英さんと賢兄もパチパチと拍手をくれて……
「えへへへ ビギナーズラック!!」と竿を差し上げてそれに応えた。
そうなると負けず嫌いの加奈姉が黙っていない。
「ちょっと!スグル! どこを狙えばいいの??!!」
英さんはクーラーボックスをひょいと跨いで加奈姉のところへ
「姉ちゃん!さっき藻を釣り上げてたろ?」
「悪かったわねっ!!」
「いやいやそうじゃなくてさ! その少し手前を狙って! キスの群れがいる可能性が
高いから」
「キスの群れ~?!」
と竿を構えながら加奈姉は
「キスだったら、賢ちゃんに束でしてるんだけどねっ!」と仕掛けを投げたが、なかなか狙い通りには行かない
「あ~!! 的外れ!! スグル!! 手取り腰取り教えなさい!!」
加奈姉が“ちょっと凄い事”を言っているので、私が釣った魚をトングみたいな物で掴んで針から外してくれている賢兄に声を掛ける。
「ねえ!賢兄! 加奈姉と英さんが……」
「おう! スグルに任せておけば安心だ。」
なんてそっちも見ないで賢兄は言うけど、英さんは加奈姉を抱っこするみたいな“二人羽織”で竿を振っているので、私はゴニョゴニョ口籠る。
「そりゃまあそうだけど…」
そんな私を見て吹き出し笑いの賢兄は
「ほい!外れたよ」と竿を返してくれる。
「ヤキモチか?」
「う~ん……賢兄は気にならないの?」
「オレか? オレは見てて加奈ちゃんもスグルも可愛いなって思う」
「さすが!賢兄はオトナだね!」
「冴ちゃんも可愛いぜ!」
「えーっ!! そういう事言う??」
ちょい照れの私は、ふと、このあいだ見た夢を思い出した。
「私……実は、賢兄の事を好きだったみたいなんだよね。あかりや英さんに出会う前は。今さら気が付いて笑っちゃうんだけど……賢兄! こんな私を見捨てないでいてくれて……英さんの元へ届けてくれて本当に本当にありがとう」
「バカヤロウ、惚れた女を見捨てるわけないだろ? そっか、冴ちゃんもオレの事、好きでいてくれたのなら……冴ちゃんを嫁さんにして二人で“あかりちゃん”を育てていけたのかもしれないな。でも、冴ちゃんのお腹に来る前の“あかりちゃん”が、冴ちゃんとスグルを引き合わせてくれたから……オレは愛して止まない人をたくさん持つ事ができたんだ。加奈ちゃんやスグルや義父を……そして持つ事は出来ないと諦めていた自分の子供……孝太を持てるんだ。こんな幸せな事はない!! 冴ちゃん!大切な人達との縁を紡いでくれてありがとう!これからもオレを兄にしてくれるか?」
私はもうただ、頷くばかりでポロポロ涙を流したら、それに気付いた加奈姉が
「あー!! 賢ちゃん!! 冴、泣かせたらダメでしょ!!!」
と英さんから離れた瞬間
ググググと手に持った竿が大きくしなった!!
『「あっ!!」』
加奈姉と英さんが同時に叫んで、そこから魚との格闘だ!!
最後は波間に踊る大きな魚体を賢兄が網で掬って見事ゲット!!!
「すげえ!! 姉ちゃん、これクロダイだよ!! この堤防でこんなサイズ見たこと無い!!! あとで魚拓を取らせて!!」
「へへへ!! 私が本気出せばこんなものよ!!!」
鼻高々の加奈姉にみんな拍手喝采で、誰も『ビギナーズラック』とは言わなかった。
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今日の“オトコ遊び”の第二会場は“湯の町温泉ホテル”の並びにある“花賀乃”という温泉旅館だ。
英さんは私達が釣り上げた魚を旅館に持ち込んだ後、いったん一甫堂へ戻り、私達は私達で“湯の町温泉ホテル”の社長に先日の結婚披露宴の御礼と“まろやか音”の全室設置という商談をしていた。
社長室の壁には何組かの披露宴での写真が掛けられていて、一番目立つ場所に私と英さんの写真が飾られていた。
「冴ちゃんの花嫁姿がとても可愛らしくて、こうして飾らせていただいています」
との社長の言葉を受けて加奈姉が
「うん! スグルもカッコよく写ってる! ねっ!冴!」と話を振って来たので、私は照れ照れで……皆の笑いを誘った。
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キスは(英さん曰く)そこそこの釣果があったので天ぷらとお寿司に、魚拓を取った後のクロダイはお刺身へと、夕食の膳に加えていただいた。
「美味しい!!」
「やっぱり自分で釣ったものは格別ね!」
と私達は感嘆しきりだった。
「キミたちはこういう“お楽しみ”も含めてオトコの子の遊びを満喫していたんだ! ちょっとズルい!」
二人の男たちをちょっと睨んだ加奈姉は最近つわりが楽になって来て、今日は少しだけお酒にも口を付けている。
「マズいなあ」と言う顔をした男達に吹き出して加奈姉は言葉を継ぐ。
「ん?! 大丈夫よ!! いつもはオトコの子の聖域は侵さないから! たまにこうやって接待してくれるのならね!」
テンションアゲアゲの加奈姉に微笑みながら、私はさっき釣り上げた魚たちに思いを馳せていた。
この子たちの命をいただいて私は“あかり”や自らの命を育んでいるんだ。
ありがとうございます。
大切に、残さずいただきます。
『失礼します』
表で声がして
「どうぞ」との加奈姉の返事で宿の女将が入って来た。
「本日は当“花賀乃”へお越しいただきありがとうございます」
英さんがささっと座り直した。
「こちらこそ先程は厨房にお邪魔して申し訳ございませんでした」
「いえいえ!一甫堂様や両和システム様には何かとお世話をいただいておりますから。それから加奈子様! 用意が整いました」
「女将さん、無理を言って申し訳ございません」
「とんでもないことでございます。どうぞごゆっくりお過ごしください」
と笑顔で応えて女将さんは下がって行った。
仕切り直しとお銚子を手に取った賢兄に
「賢ちゃんストップ!! これからみんなで露天風呂入るよ!!」
との加奈姉の爆弾発言が振りかかった。
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「私には看護師として10年のキャリアがあるからさ! 否が応でも見慣れているよ。だから私に任せてなさい!」
口ではこんな風に言ってる加奈姉が、脱衣籠の向こうで手のひらに『人』の字を書いて飲み込んだ。
加奈姉のドキドキと私に対する気遣いが痛いほど伝わってくる。
「私達、先に行くから後から来て! もしバックレたら後で酷いよ!」と男二人に釘を刺して貸し切りにしてもらった露天風呂にオンナ二人が先に入る。
そう! これからが『オトコ遊び』の第二ステージだ!!
カラカラとガラス戸の開く音がして湯気の向こうからタオルで前を隠した男二人が入って来たので私達はザブン!とお湯を出た。
「こらぁ!! 女二人が一糸も纏っていないのにタオルで前を隠すとは何事だぁ!」と加奈姉が大声でしかる。
『隣の檜風呂に聞こえるのでは??』『誰か入ってたらマズくない??』と戸惑う私達をものともせず加奈姉は英さんを呼び付ける。
「スグル!! タオルなんか頭にでも乗っけておいてこっちに来なさい」
「えええ!!!」と言う顔をしていた英さんだが加奈姉の睨みに観念してタオルを首に掛けてこっちへやって来た。
加奈姉の視線は英さんの下半身へ…
「おむつ替えしてあげた時におしっこを顔シャされて以来、『見守って』来たけれど、こんなに立派に成長して…」
「姉ちゃん!!物心つく前の話をネタにするのマジ止めて!」と苦々しげな英さんに
「人様に面倒を見てもらっておいて、しかもこれから身を挺して『保健体育』の授業をしてあげようとしているこの私に意見するの??!! ほらっ!ちゃんと私を見て勉強しなさい!! 冴もこうなっていくんだから!! 因みにあーちゃんたちには『スグルのはあなた達のお見立て通りよ』って報告しておくね!」
「勘弁してよ!! 姉ちゃん!!」と照れ照れの英さんだけど、私も賢兄の裸を見て真っ赤っ赤だ!
もちろん見たのは初めてじゃない。
賢兄とさっきあんな話したからかなあ………“仕事の上で”見ていたのとはまるで違う!!
賢兄も私を直視できないみたいだけど……
「賢ちゃん!『人妻の冴』色っぽいでしょ?! 良かったね!こうして見る事ができて! でも良からぬ事が頭に浮かばないようにね! 今はすぐ………ククク……分かっちゃうんだから………ブゥワハハハ!!」
加奈姉の爆笑に他の三人は顔を見合わせ照れ笑いした。
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やっぱり加奈姉はムードメーカーだ。皆いつの間にか他の人の目の前を平気で通り過ぎて露天風呂を出たり入ったりしていた。
私も洗い髪を結い直して加奈姉の隣にポチャン!と入り直す。
「ねえ!冴!」
「何ですか?」
「賢ちゃんが死んじゃったらさ!」
「オイオイ! オレ、死亡フラグかぁ?!」向こうから賢兄のクレームの声。
「年回りからしたら賢ちゃんが先でしょ?! で、賢ちゃんが居なくなったらスグルをシェアしていい? 万一、スグルが先に逝ったら賢ちゃんをシェアするから」
「私、加奈姉の事も愛してますから! 三人で仲良くしましょ!」
「ふふ、ありがと! 二人残ったら二人でしようね!」
「はい!」
英さんも湯船に入って来た。
「冴ちゃんと姉ちゃんが生き残る前提なんだね!」
「そりゃそうよ! 女の子の方が強いからね!」と加奈姉。
「まあいいさ! 子供達の事はふたりに任せてオレたちはあの世でゆっくり釣りでもしようぜ!」と賢兄。
「どうぞどうぞ! 天国で“丘釣り”さえしなきゃね!」
との私のツッコミに皆ひとしきり笑った後……
「ねっ! 産まれて来る孝太とあかねは私達4人の子供として育てていこっ! 私が“加奈ママ”で冴が“冴ママ” “スグルパパ”に“賢パパ”」
「いいねえ~!」「素敵!!」「大賛成!!」と皆で和した。
こうして
降るような星空の下
一日遅れのホワイトデーは楽しく過ぎて行った。
。。。。。。
加奈姉のイラストです。
英さんのイラストを描きましたがなかなかうまくいきません(-_-;)
いずれ差し替えるかも……
冴ちゃんと加奈ちゃんが贈ったとても素敵なバレンタインのお返しには何がいいのか…
オトコ達が考えてもなかなかいい案が浮かばないだろうと、加奈ちゃんから要求させました。
私としては楽しいホワイトデー(翌日ですが(^^;))になったのではと思います。
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