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12話 レイラ、甘える

「申しわけありませんでした……」

「ひとまず、汗をふこうか。リリを呼んでくる」

「いえ……。このままでいいので離れないでほしい、です……」

「……わかった。だが、このままでは風邪をひいてしまう。タオルを渡すから、俺は反対側を向いている。自分で首回りくらいは拭けるか?」

「はい。腕はそれなりには動かせるようになっているので」


 タオルを二枚受け取り、ガルアラム様は宣告通り私の身体が見えないように反対側を向いてくれた。

 私はフッと微笑んでから身体中の汗を拭く。


 部屋は汗ばむほどの気温ではない。

 ユメの影響で冷や汗もしくは脂汗を異常なほどに出していたようだ。

 放っておいたら本当に風邪をひいていたかもしれない。


 背中も拭きたいところだが、今の私の腕の稼働はそこまで届かない。


「前は終わりました。お気遣いありがとうございます」

「うむ……。って……、おい!」

「あつかましいお願いではありますが、背中を拭いていただけませんか……?」


 振り向いてから背中を差し出したらガルアラム様はおそらく拒否してきたはずだ。

 だから、あらかじめ背中を差し出しておいた。

 服は脱いでいる状態であるが、前は服で隠している。

 ガルアラム様が目線に入るのは私の背中だけだ。


 まだ未使用のタオルをさっさとガルアラム様に渡す。

 耳に入ってくるほどの大きなため息をはかれて、すぐにタオルが背中にあたる。


「もう少し警戒してもらいたいものだ……」

「ガルアラム様なら、平気です」

「ぐ……、今回はともかくとして、今後は警戒するように。俺も常に平常心でいられるとは限らんのだからな」

「そのときはそのときで」


 ガルアラム様は付きっきりで怪我の看病をしてくれていた。

 本気で心配してくれていて、些細なことにも気を配ってくださっていた。

 責任感が強すぎるとは思っていたが、むしろこれだけ尽くしてくれていて、私は初めて人からの優しさを体験できた。


 もちろんリリさんからも優しくしてくださってはいるのだが、ガルアラム様はそれだけではないような気もする。

 絶対に人を好きになることなどないだろうと思い込んでいた私だが、いつの間にかガルアラム様のことを大切な存在だと思うようになっていた。


 だが、彼も少し前の私と同じように異性を愛することはないお方だ。

 今は怪我の責任感を抱えてしまっているし、気持ちを伝えてしまったら彼の意思に関係なく交際へと進んでしまうだろう。


 それだけはしたくなかった。

 私が何度も嫌な体験をしてきたのだから。

 ゆえに、今は自分の気持ちは伝えないことにする。


「綺麗とは……言えないな……」

「あぁ、怪我がまだ治っていませんからね。汚い肌を見せてしまい――」

「これはどうみても事故の怪我ではないよな」


 私はギクッとしてしまった。

 小さいころから何度も両親や縁談相手からの暴行でできた傷だとバレてしまうわけにはいかない。

 なんとか誤魔化さなければ。


「あまり見ないでくださいね」

「なにか……、過去にあったのか? 怖いユメとはそれに関係あったのか?」


 どうしてすぐに分かってしまうのかが不思議だった。

 誤魔化すつもりではいた。

 だが、見透かされてしまっているような状態のうえ、ガルアラム様に助けてほしいと心のどこかで思っていたからなのだろう。


「帰りたくない……」

「ん?」


 心の叫びが、ついに声に出てしまった。

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