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第三話「ラウレンチア・フォン・シュタウフェンブルク」

描写力欠乏がひどくて、魔法戦は何が起きているかはわからない人もいたでしょう。特に魔力と魔力等級が分かりにくいかもです。一般デュエリストに分かりやすく言うと、魔力は優先権で、等級はスペルスピードです。

詳しく説明するなら魔力は魔素にどこまで命令を届かせることができるか、等級は射程内の魔力にどれだけ命令を行き渡らせることができるかのつもりで書いてます。魔弾の威力、身体強化の出力は魔力*命令に応じた割合(=等級)となることになります。

ちなみにこれらの要素はすべて生まれ持った時点で決まってしまいます。クソ生意気なアッテンボローがこの世界で生きてこられたのは、彼は価値のある体質だったということです。

突如現れた人物に、娯楽に水を差された聴衆は野次を飛ばし、あるいは手にしていた金属製のグラスを投げた。

人物はアッテンボローの手に持った何かを蹴り飛ばしつつも、グラスを器用に受け止め、投げつけた犯人に屈託のない笑みを浮かべた。その笑みの主を見て、観衆は静まり返る。先ほどの息を呑むような白熱した空気ではなく、心底より凍てつかせるような嫌な空気が場を満たす。


「ダメじゃなーい。喧嘩は良くないって言ったでしょ」


そこに立つのは水火夫服(すいかふふく)にスカートという奇妙な出で立ちの少女であった。


「アンタは……」

「ラウレンチア・フォン・シュタウフェンブルク。ラウラさんで通ってるんだけど」

「……ああ」

「興味ないか」


ラウラは先ほど蹴り上げた短銃を拾うと、伸びているアッテンボローのところまで歩いていく。


「何を」


そしてその銃口を彼の顔面に向けて引き金に指をかける。


「あれっ、重っ……」


ラウラはそう呟き、改めて引き金を引く。その場には乾いたカチリという音だけが響く。


「驚かないんだね」

「驚いてるよ。アンタの行動に。正直ドン引きだ」

「弾が出ないって確信はあったんだ」


手の中で短銃の銃身を上の方へ折り曲げ、縦二列に並んだ銃身の中を覗き込む。


「なんで分かったのかな。弾が入ってないことに」

「……勘だ。口では説明できないが、殺意が感じられなかった」

「いいねそれ。そういうの大事だよ」


彼女はアッテンボローの傍に跪き、彼の脈を調べる。姿勢の変化で美しい漆黒の髪がさらさらと流れた。


「おい起きんかバカタレ」


足でゲシゲシと乱暴にアッテンボローを起こす。上体を起こしたアッテンボローは冴え切らない目で周囲を見渡し、花の姿を捉えると全ての記憶が戻ったのかバツが悪そうにしていた。


「はいこれ。ダメじゃない、決闘に武器を持ち込んじゃ」


ラウラが銃口を向けると、アッテンボローはそれを手で下げさせた。


「弾は入ってない。ただの筒ですよ」

「これ自体がシンボルなんだよ。君もよく分かってるはずだ。これを突きつけられたら誰だって怯む」

「そこの獣には理解されませんでしたがね」


ゴッ、と鈍い音が響く。脳天に拳骨が振り下ろされ、アッテンボローは悶絶する。


「負け惜しみは格好悪いぞ。それに人種差別は禁止してたでしょ」

「そもそも、私闘は厳禁だったでしょうに。咎めるところがおかしい」


頭を抑えながら、なおもアッテンボローは彼女に言葉を投げる。


「ふーん、そこんとこ解ってはいたんだ。ま、だから制裁は加えといたよ」


ね、とラウラは悪戯がちな笑みを浮かべて花を見た。


「……」

「え、何をしたんです」


アッテンボローは立ち上がり、自らの身の安全を確認した。


「ふふっ、内緒」

「だから何をしたんですか!」

「内緒のが面白いこともあるんだよ。んで、喧嘩の原因は?」

「喧嘩じゃありません、決闘です」

「盗賊貴族の真似事すんじゃないよバカタレ」

「痛えっ、ああ、ああ……」


ラウラの足が再び閃く。臀部に激しい衝撃を受けたアッテンボローの顔は苦悶の表情に歪んだ。


「で、何が原因?あの刀?」

「そうです、あ痛たた……」


悶絶するアッテンボローを尻目にラウラは鞘に収まった刀を持ち上げる。


景雲(けいうん)じゃん、これ」

「ケイ……これの名前か?」

「うん。ウチにもあるよこれ。他所の家でも見たことあるし、結構変わった形だから覚えやすいんだよね」


ラウラは鞘の金具を外して刀身を露わにする。


「ああ、そうやって抜くのか」


アッテンボローの虚しげな呟きが響く。この仕組みが分からず鞘の外から鑑賞していたらしい。


「やっぱり。景雲だよこれ。刃紋(はもん)がよく似てる。これはどうしたの?」

「父から一族が代々引き継いでいたものだとしか。それもずいぶん昔、幼い頃に聞いた話になる。それで、景雲というのはどのような刀なのか」

「観賞用だと思うなあ。ほら、刃の真ん中近くから反り返ってるでしょ。ここからゆっくりと反って行って35度でしばらく直線になって、その後さらに42度の反りがある。さっきみたいに鞘にも専用のギミックが必要だし即応性は低いから、面白半分で作ったんじゃないかな」

「そうか……」


ラウラはしまったと言わんばかりの表情を浮かべる。花の耳が見る見る内に萎れてしまったからである。


「まあでも、よく手入れが行き届いてるよ。武器としては全然問題ないように見えるね」

「いや、戦いで損耗させちまうなんて勿体ない。刀身を見てください。綺麗な浅葱(あさねぎ)色でしょう。金属樹ミストルティンを使った合金なんですよ。これを実現するにはすごい手間がかかったはずで、兵器としての刀剣の役割に即したものじゃない、恐らく将軍や他国の王族に献上されるような代物だと痛あっ!」

「黙れよ芸術オタク」


最早、尻を抑えて倒れ伏すアッテンボローのことなど説明は不要である。それから、ラウラは花に刀を鞘に収めて手渡した。


「まあでも、有名な刀なんだよね。景雲ってのは、極東で言うところのめでたい雲のことでね、真の持ち主が持てば文字通り雲を引くらしいんだ」

「そんなの与太とか伝承とかでなんでもないです」


アッテンボローは度重なる臀部への衝撃により一つ賢くなったようである。


「まあなんだって構わない。一応刀だから斬れるだろうし、この重量ならそうでなくても殴り殺せる」

「なにか訳ありって感じ?」

「魔王を殺すんだ」


その言葉のわりに彼女の調子は酷く弛緩(しかん)したものだった。どうやらそうらしいとかのようだという接尾辞が付きそうなほど、他人に言わされているような調子だったのである。


「魔王が憎いの?」


花はふるふると首を横に振った。


「私にはそれしかないんだ」


花の脳裏には、燃える屋敷の中で聞いた、魔王を殺せという声がいつまでもこびりついていたのである。


「フーン。ま、ワケありが多いからねウチは。花ちゃんみたいなのはちょっと特殊っぽいけど」


不意に窓が暗くなる。窓の外には、海を越え地平線の彼方まで続く緑の壁が見えた。


「そっか。もうか」

「思いの外早かったですね」


緑の壁は近くで見れば格子状の繊維で構成されており、かつどこか機械的なものを感じさせた。


「世界樹の根……大きいな」

「世界最大級だよ。最低でも人類が誕生するずっと前からの代物なんだって」


世界樹とは、地上を幾重にも横断するかのように張り巡らされた、一個の巨大な植物である。ふいに電車の窓に差し込む光を何かが遮った。


「あ、小さいけど世界樹も生えてる」


小さいと言ってもそれは世界樹にしてはの話であり、一個の生命として見るにはあまりにも巨大であった。

その高さは五十メートル近くにもなり、太い幹から幾重にも分岐してできた襞は外周部へ向かって反り返り、その直径はやはり五十メートル近くにまで広がっていた。それが陽光を遮っていたのである。

三人は窓の外、その巨大な生命をしげしげと観察していた。


「見た目よりもずっと古い個体だよ。多分、生育の条件が合わなかったからあんまり成長しなかっただけで」

「聖地で見たのと比べると確かに小さいな」

「そんなのと比べるとそりゃなんでも小さくなっちゃうよ」

「この世界樹が見えたということは、もうじき目的地ですね」


アッテンボローの言葉に頷き、ラウラが窓を開けて身を乗り出した。


「あ、見えたよ。アレが私たちの目的地!」

「ちょ、ラウラさん、危ないって……」

「ようこそ、自由都市国家ジェノヴィアへ。花ちゃんの目的を多分叶えてくれる街だよ」


彼女が指を指すさきには、海に向けて伸びる世界樹と砂州があり、その根元付近にある岩山に貼り付くようにして街が広がっていた。

ぜんぜん話は変わってしまうのですが、「こんな命がなければ」という曲があるんですけど、定期的にハマってしまうんですよね。歌詞が良すぎる。

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