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第十話「ベアトリーチェ・ファルネーゼ」

なんだかんだで2022年も折り返し地点ですね。

僕は普段は映画は見に行かないのですが、今年は結構見に行った気がしますね(一般人の感覚)

2022年上半期の映画は豊作だった気がします


大怪獣のあとしまつなんてなかったんや……

 風呂帰り、濡れたタオルを耳と耳の間の頭頂部に乗せて、彼女ははたから見ても分かるほどに上機嫌で宿の階段を上がっていく。しかしすぐさま異変に気付いた。自らの部屋に何者かの気配があったためである。彼女は景雲(ケイウン)の重みを確かめると、静かに部屋を開けた。


「アッテンボロー」


 (ホア)の肩の力が抜け、ぱさりとタオルが床に落ちた。


「悪いな。勝手に上がってるぞ」

「アンタは」


 その女性に彼女は見覚えがあった。ここ二日ほど会わなかっただけで随分と憔悴(しょうすい)したように思えた。


「紹介しよう、彼女はミス……」

「結構です」


 女性はアッテンボロー相手にも毅然として言い放つ。先の姿からは想像もできない毅然とした態度に、さしもの花も背筋を正す。


「私はミリアムの母、ベアトリーチェ。ベアトリーチェ・ファルネーゼです」

「ファルネーゼ?」

「ええ。"星堕の魔王"エミリオ・ファルネーゼの妻です」


 存外驚かないものだなと、(ホア)は他人事のような感想を抱いた。魔王と聞いた時の急かされるような焦燥感はまるでなく、これ以上ないほどに平静でいられるように感じた。

 そんな彼女の思惑とは裏腹に、無意識にその手が強張(こわば)ったのをアッテンボローは見逃さなかった。


「あなたにお願いがあってここに連れて来ていただいたのです。どうかお願いします、娘のミリアムを連れ戻してはいただけませんか」


 ベアトリーチェは深々と頭を下げた。

 (ホア)は困惑したようにアッテンボローを窺い見る。


「こいつはね、そういうお礼だとかはいらないんですよ。ミス・ファルネーゼ」

「すまないが、アドラーから何も聞いてないのか?」

「アドラー、ですか」

「前にアンタの娘を見つけてくれた人だよ」


 彼女はしばらく思案してからああ、と声を上げた。


「あの人が関わっているのですか?」

「何も知らないんだな」

「意地の悪い人ですね。別に教えてくれたっていいじゃないですか」

「いや、コイツは素でこうなんですよ。勿体ぶってる訳でも、皮肉を言った訳でもない」


 アッテンボローはベアトリーチェを宥めるようにして言う。先日取った態度は嘘のようであった。


「で、何があったんだ?」


 (ホア)は昨日起きた出来事の一部始終を話した。

即ち、ミリアムの行き先、そしてその先で誘拐され、アドラーが彼らと交渉するために姿を消した事。


「そんな事が。今娘はどこにいるんです?」

「分からん。私はあの後警吏に連れて行かれたから、後は知る由もない」


 正確には一つだけあった。先ほど彼を見かけたときに問い詰めてやればよかったというのは、彼女も感じていた。


「そう、ですか。ありがとうございます」


 それがこの場を掻き乱すだけで、何も進展が起きないことだと彼女は考えた。


「要はあのオークの所在が分かればいいんだろ。知ってるぜ」


 (ホア)は目を丸くした。


「俺だって遊んでるわけじゃない。不審な住人や滞在者はできるだけ把握しておきたいってだけだ」


 ここで(ホア)は彼らがここに潜伏している魔王を殺しにやってきたのだと実感した。忘れていたわけではないし、むしろその目的を忘れることができずに参加したわけだが、ここの住人の生活とのギャップにめまいがするようであった。

 しかしそれ以上に激しい拒否反応を示す者があった。言うまでもなく部外者たるベアトリーチェだった。


「そうやって、ここを火の海にするつもり?」

「するのは魔王の方だよ」

「そうだとしてもそれは自己防衛の範囲じゃないんですか。引き金を引かせた方は何も悪くはないんですか」

「ミス・ファルネーゼ。もはやこの問題はその議論の段階にない」

「この街に住んでるのに、私たちは蚊帳の外ですか」

「ミス」

「まるで悪魔のよう。あなたたちは、この街を地獄に変えるためにやってきた悪魔だわ。そんな人たちに頼るくらいなら……」


 ベアトリーチェはそこまで言って項垂(うなだ)れた。


「ミス、我々に頼るくらいなら、なんです?」


 アッテンボローは(ひざまず)き、彼女の視界に入るようにして問いかけた。その声音はいつもの不機嫌さの感じられない、優しさすら感じられるものだった。花はその態度に一つの違和感を覚えた。


「いいえ、なんでもありませんわ」


 彼女はその問いに対し、一つ息を吸いなおしてから答えた。


「結構」


 その時、扉をノックするものがあった。アッテンボローが花に断りもなく入れと言う。しかし反応はない。


「誰だ?」

「モランです」

「入れ」

「いいえ」


 すぐさま扉の外から返事があり、アッテンボローは苦虫を嚙み潰したような顔になる。


「後で覚えとけよ」

「普通部屋の主が許可するものなのでは? むろん、あなたの部屋で(ホア)さんが入れと言ったなら、同じ風にしますよ」


 アッテンボローは憎まれ口を言うことすらできず、完敗を認めるかの如く短く舌打ちをするだけだった。


「この方を一晩、お守りすればいいのですか」

「ああ。明け方まで頼む」

「分かりました。(グエン)さん、こちらのお部屋、お借りしますね」

「ああ、構わんが、まさか護衛か?」


 (ホア)の言葉にモランは満足げに頷いた。


「モランを舐めるなよ。俺たちよりは弱いがそれでも並以上の魔力と、大魔導士級の魔法使いだ。普通なら軍隊や騎士団なんかじゃ顎で人を使える立場だ。こんな小さな街じゃ無双だぜ」


 ベアトリーチェが少し顔を曇らせたが、それに気づいたのはこの場にいる花だけだった。


「じゃ、行くぜ。説明は道すがらやる」

「私もか」

「今更だろ。早くしろ」

「そ、そうだが」


 アッテンボローが花の手を強引に引っ張った。花は引っ張られるがままに彼の後をついて退室した。

 部屋に残されたベアトリーチェは唖然となって、隣にいるモランに聞いた。


「彼、いつもあんな感じなの?」

「いえ。しかし何か事情があるのでしょう。私はジャン=ピエール・モランです。今夜はよろしく。ミス……」

「ベアトリーチェよ」


 モランは恭しく彼女の手の甲にキスをした。

 ベアトリーチェはそれをただ無表情で見つめ、されるがままであった。

前書きでも触れたのですが個人的には今年が映画の年なんですよね。特に五、六月は五月発の見まくった時期でした。と言ってもシンマン三回、トップガン三回、犬王一回なので三作品しか見てないのですがね。

シンマンとトップガンはすでに全人類が見てるはずなので特に紹介しませんが、個人的なツボは犬王ですね。アニメ映画の。


正直女王蜂を全然知らなくて、知り合いからアニメ版の平家物語知ってると楽しめると聞いて足を運んだんですが、めちゃくちゃ面白かったです。友有と犬王の友情が本当に良かった。

もう劇場では上映してるところが少ないですが、気になった人は絶対に見に行ってほしい一作。アヴちゃんが好きなら絶対楽しめる。犬王はミュージカルというよりはアヴちゃんのライブの合間に物語が入ってるような感じの作品なので。

もうほとんどの劇場ではやってないんですが、ギリギリ行動範囲内の劇場ではまだ公開してるようなので犬王はもう一回観に行く予定です。シンマンも四回目はドルビーで見たいけど目下は犬王かな……

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