オタク野郎
よろしくお願い致します。
さて、いよいよ潜入捜査の始まりだ。ここまで来たら逃げられない!何よりいじめで人一人殺しても、平気で侮辱出来るクズ野郎だ、そう、昔、私をそんな風に傷付け未だに消えぬ痛みを、精神的ダメージを負わすカス。
絶対負けねぇ、今度は!
ガラガラ。『はい!静かにしろ、今日は清水先生の代わりに臨時でこのクラスの担任になる、先生を紹介する。ちなみに私は1週間ほど副担任として動向するが、その後は全てこちらの先生にお任せする事になっている。では、先生軽く挨拶などを。』
来た、いよいよきた。今度は噛まないよう冷静に、そう、相手を人殺しと思うな。人参、ジャガイモだ。
『え~本日からこの中学校のこのクラスの臨時担任になります、永遠野、未来と申します。担当科目は総合的学習になります。まだ分からないことだらけなので、みなさんに聞いたり教わったりしながらやって行けたらとおもいます!よろしくお願い致します』
私は本当に数年間もニートだったのか?やれば出来るじゃないか。
などと、噛まずに言えた満足感に浸っていると、そこにはまだ幼さが垣間見える学生達が真面目に私を見つめていた。
私は当然ながら、教師など初めてなので学生として、先生を見る感覚しかしらない。
しかしこれはまるで逆だ、初めて思い知る。こんな風景を。
真面目に話を聞く者。髪の毛をいじりながら化粧?鏡とにらめっこで、まったく見向きもしない金髪女子。後ろを振り返って友達と会話する生徒…この場所だとほぼその全てが丸見えである。普通は注意をするべき何だろう、しかし、まだ一日目。最初はなるべく大人しくして生徒の顔と名前を覚えることだ!
その上で、あの自殺をしていた奴らを見つける。学校が、これに問題視していないなら、いじめ自殺は黙認されている。
ならばそれを調べていることは絶対に秘密であるのだ。
…というか、こいつら完全に私を無視か?普通は年齢とか結婚の有無とか聞くんじゃないのか?
現代っ子はなんてドライなんだ、いや、単に私に興味がないだけか。
まあいい、私は挨拶を済まし早く皆さんの顔と名前を覚えたいので名前を呼ばれたら返事して立ってもらうと助かります、お願いします。と告げ、さっそくあいうえお順で男子から呼び始めた。小さく『立つ?うぜw』などと声が聞こえたが残念だな、ここからなら誰が言ったか丸わかりだ、後で覚えとけよ、ガキ!
それにしても…最近の中学生の名前は、…なんじゃこりゃ?
男も女も訳分からん名前が多すぎる。
よかった、昨日(君)に私が受け持つ名前とちゃんとした呼び名を聞いておいて。
名前なんか間違えたら初っぱなから舐められる。特にスマホいじり金髪女子、ずっと私を観察するかのようににらみつけるがたいの良い男子生徒数名。
直感だか、こいつらの中の一人…いじめ現場から去る時に見えた男子と似ている。
だか、まだ確証はない。
とりあえず全員の名前と顔を確認し、朝の会は終わりにした。
と、同時に1時限目の社会の先生が来たので入れ替わりで私は教室をあとにした。
『ふー…なんかこれすごい疲れますね』
『うん、まあ、肩の力を抜けばいいから。』
『で、何か分かった?』
『そうですね、金髪女子や数名の不良っぽい男子』あとはまあ、普通っぽく感じました。
『金髪女子…高宮か。彼女は何回注意しても聞かん、もっと個人的に言えばシングルマザーで母親はモンペアだ。気をつけろ』
『モンペア、モンスターペラレント。話では聞いていたが本当にいるんですね。』
『…最近じゃガキ共より親の方が面倒だったりもするくらいだからな。』
『まあいい、とりあえず最初はまあまあ上出来だ、しかし、あとはお前に任せるぞ?奴らと接触し、いじめの話を聞くか、まだあせらずゆっくり聞き出すか、だが一つだけ言う。期間は儲けてあるからな』
期間?それは聞いていなかった
『いつまで、ですか?』
『とりあえず一月だ、一月で、奴らがいじめで殺したのかどうかの有無、動機、そしてそれに何人関わり!何人が知っていながら黙認、または無視をしているか。』
『それを一月で?ちょっ、むちゃくちゃでは?』『出来なきゃ契約違反と見なしお前にも制裁はある』
制裁とはなんたることか、しかしもう逃げて怯えるだけの自分はいやだ。
だが一つ、一体どこの誰から突っ込もうか?
大人しそうにしている子からか
『おい!一つだけ言う。奴らは大抵スマホのラインで状況を共有している。舐めてかかるなよ。ガキとは言え奴らは人を殺してる、わすれるな。
そんなアドバイス?的な物を聞き私は給食の時間まで、職員室で生徒の顔と名前を必死に覚えていた。
給食になり、相変わらず金髪女子は一人浮いていて、眼光鋭い不良臭い連中はやかましく高笑いしている。しかし、そんなもので、あとは意外と普通…私の頃の給食時間とほとんど差はない。
やはりこみ上げる懐かしさに感動すら覚えた。
私は何だか少しホッとしたした気持ちでそんな懐かしい風景を眺めでいると、突然急に全然ノーマークだった比較的大人しい方な男子生徒が、
『うぜーんだよ、クソが!てめえら全員死ねボケ!』
と叫んだ。私は何が何だか分かってない。
まわりは、特に女子は怯えるどころか、『うぜーのはてめえだよ、たかがゲームごときで、バカじゃねえの?』
と、私の大嫌いなニヤニヤ顔で語る。
私は完全に沈黙…するとまた鋭い眼光を感じた?いや、これはさっきの不良っぽい連中じゃない。
そう、私を睨んでいたのは教頭だった。
瞬間私ははっとした。『そうだ、ビビってはいけない、潜入捜査だ!』
私はありったけの勇気で叫んだ少年、佐藤祐一に『どうした?佐藤、携帯ゲームか?あまり切羽詰まるなよ?そういうのはイライラし、課金に走れば走るほど、制作者の思うつぼだ!まずは、落ち着くことだよ。』
と語った。
少年佐藤祐一は、少し驚いた顔で『先生もやってんの?』と聞いてきた。
当然私は数年間のニート生活、携帯ゲームなどプロですよ?課金の恐ろしさも知ってる。
なので『私もたまにやりますねぇ、でも楽しむ程度ですよ、ちなみに佐藤は何のゲームを?』
少年は答えた。
『…ギルバートの伝説…』
『あーあれか、やってるよ?最初は武器や仲間を課金で手にしなくても進めるが、半分くらいから、敵が異常に強くなり課金して武器か仲間を買わないと中々勝てないな。』
『そうなんだよ、くそやろうが!バカ親は課金の制限しやがって暗証番号がわかんねーしよ!』
『一人だけあるぞ、今何面だ?』
『5だよ!』『ああ、あいつか、奴はスピードに特化してるがスタミナがなく打たれ弱い、少々きついが奴が疲れるまでの数分間避けまくれ、必ず隙が出来る!』
『…本当かよ』
『いいから、やってみ、早く』
そういい、再びやらせた。すると少年は
『おい、先生、これ!』私はすかさず少年の元に駆け寄り『よし!ここまで来たらこいつはバテバテだ!通常の呪文魔法連発!』
すると敵は倒れた。
少年は歓喜する。
『おお、マジか先生、スゲーよ、昨日からずっと勝てなかった奴にこんなに簡単に勝ったよ!』
『な?しっかり考えてやればゲームや漫画と言えど授業なりの頭を使う授業になるんだ!昔のようにゲームや漫画を舐めてる奴はそんなことも知らない奴だ!』
『先生…スゲーよ、また行き詰まったらまた助けてくれよ!』
『全然構わないが、ある程度は、自分で考え集中し、決してイライラしないで、諦めずにやるんだぞ!』
『はい!』
私は何故か興奮していた。ゲームや、漫画を認め、推奨したのだから。
しかし、間違ってはいない!
私は私の授業、やり方で挑む。そう決めた!
何より少年はこれから私に慕ってくるようになる。
『なんか、ムカつくあの野郎、ゲーム馬鹿にしたうちらに当てつけ?ざっけんな、クソオタク野郎じゃねぇか、なあ神田?』
『…ふ。まあいいじゃん、まだ初日だしもう少しオタ野郎に好きにやらせるよ。お前らも勝手に手を出すなよ?』
『…うん、分かったよ』
そして給食を済ませ、帰りの会をし、何とか私の一日目は終わった。
すさまじい安堵感と疲労感。
帰り際には教頭先生が『中々面白い、お嬢様が推薦するだけある。とりあえず明日も頼むぞ』
そういい、お互い帰路に着いた。
校庭では部活動に勤しむ元気な中学生の声が響く。
私はまた懐かしさを感じながら今日一日を噛み締め家へと帰っていった。
『さあ、明日もまずはみんなを知ることだ、頑張るぞ!』
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