潜入捜査
よろしくお願いします。
『え?あのいじめをしてやがった連中の中学校?』
『そうよ、あなたは明日からそこの学校の、亡くなった子といじめをしていた、クラス2年2組の担任をするのよ』
『え?は?いじめていたクラス?てか!!……明日ぁ?急過ぎるでしょ?ていうか私学校ほとんど不登校だったから何も教えられないですよ?』
『あら、一応高卒とはありますけど?』
『高卒ではありますけど、普通教師は大卒でしょ?むちゃくちゃ過ぎますよ…。』
ぐだぐだ言う私に(君)は電話同様マシンガントークを展開する。
『で、担当科目は(総合的な学習)よ』
総合的な学習とは学校ごとに多少違いはあれど、数学や英語とは違い、教科書を使わず、職業体験など、自分の進路を踏まえこれから高校、大学、と未来へ向かう生徒に(生きる)(独立)など、ようは人生を学ぶ授業である。
『…そんな授業が今はあるんだ?私の時はなかったですよ、パソコン授業すらも…』
『まああなたの時代で言う生徒が不祥事等を起こした時なんかに行う特別授業みたいなものね。』
『じゃあ、私は生徒に人生語るの?え?(君)ばかなの?私みたいな負け犬野郎の人生語っても意味不明で笑われますよ?しかも担当するクラスにはいじめで人を殺した犯罪者のようなクズがいる』
『あなたの人生は確かに負け犬ね、でもまだ生きてるわ。あのままあなたが自殺で死んでいれば、本当に負け犬野郎で終わったけど、あなたはまだ生きてる。…まさかこのまま負け犬野郎で終わるつもりはないわよね?私を助けるんだから』
言い返す言葉がない、確かに私はいじめた、殺した中学校を許せない。それを問題にもしない国、政府、街、自治体、クラスメート、教師、学校、全てが許せない。
覚悟も決めた!もうどうにでもなれだ!
『で、私はどうしたらいい?』
『もうここで話すわ、まず明日月曜朝の朝会がある、そこで今の担任が急に教師をやめたこと、そして新任教師、かつ総合的学習を担当する、と軽く挨拶をすればいい。まず1週間ほどは教頭が特別副担任として、あなたと同じ教室にいるわ。』
『ちなみに教頭も我々の仲間よ。細かいことは1週間でしっかり彼から学びなさい。』
なんだかもう何でも有りだな、AFPとやらは。
『あ、そういえば今の担任はどうなるの?』
『そんなことはあなたは知らなくて大学生よ。』
『う~ん、何故か腑に落ちないが仕方ない、これ以上は(君)の目が(これ以上ウザイ質問すんな)的な目でみている。』
『他になにかあるかしら?』
『…いえ、とりあえず明日またこのコンビニに来れば良いすか?』
『いえ、もうここはいいわ。7時半頃には職員室に行きなさい。行けば我々の仲間が挨拶を促すわ。そしたら普通にまわりの教師に軽く挨拶すればいいわ、ね?簡単でしょ?教頭のサポートもあるし』
まあ、一応一人ではない、それに数学や英語とかでもない、…出来るか?いや、出来るかじゃない、もうここまで来たらやるしかない。
私は本気で覚悟を決め、明日から無免許で中学校の担任教師になる。
しかもいじめで人一人殺しても隠蔽して発表もしない中学校に。
そのため、というかもう、緊張マックスドキドキかつ不安で、せっかく9時には布団に入ったものの寝付いたのは夜中3時を過ぎていた…。
やがて朝になった。私は久しぶりにスーツを取り出し、身だしなみを整えいよいよ初の出勤に向かった。
しかしやはり不安…。
『大丈夫だろうか?無免許がバレて捕まらないだろうか?(君)を信用して良いのだろうか?』
まるで子供である。ここまで来てまだ迷い悩むのだ。怖がるのだ。私の心とはなんと脆弱か。
などと考えていると、ああ、着いてしまった。いじめ中学校に。
私は来客用入り口にあるピンポンを押し『あ、あのう私今日から新任教師としてお世話になる者ですが、…』
そう答えると返事が来た。
『ああ、お話は伺ってます、亡くなった清水先生の代わりの方ですね、とりあえずそこに10桁の数字がありますので認証確認のため、私の言う数字を入力して下さい』
私は言われるまま数字を入力し、そして1、2分で
ドアは開いた。
『明日からは今述べた数字を打ち込んでから入るようにして下さい、ちなみに番号は一定の期間で変わるので新しく変わる時も忘れずにメモなどをして下さい、では職員室にどうぞ。』
『数字の認証確認、しかも番号は一定の期間で変わる…ああ、私の頃にはこんな物なかったのに、世知辛い世の中になったものだ』
そんなことを考えながら私は職員室に向かった。
というか、清水先生?とやら、亡くなったって…。
殺したのか?やっぱりAFPなどという訳分からんものは信用すべきではないか?(君)は時々、いやかなり嘘をついたりするからな。未だに(君)は若い女性、としか分からんし。まあ承認なんやらで名前や国籍、年齢を明かせないみたいだし仕方ないのか
さあ、さて、いよいよ職員室に着いた。着いてしまった。私は一つ深い深呼吸をして、軽くノックをしドアを開けた。
そしてすかさず『きょ、今日からこ、ここで、こ、この中学校を、あ、この中学校にお世話になります永遠野、未来とも、もももも申します!これからよろしくお願い致します!』
…テンぱりすぎである。しかも何回噛んだことか。情けない。と、まわりを見ると職員室はまだ先生方がまだらで2、3人しかいなかった。その中の一人が、『こちらこそよろしく!私は2年3組担任の相楽です、あなたの席はこちらで私の隣ですよ』
『何だろう、なんか感じの良い男性教師だ。』
他の先生方も軽く会釈をし、よろしく!と答えてくれた。が、私の心臓はまだドキドキのバクバクである。なんせ、担当する組が少年をいじめていた奴らがいるらしい組だからだ。
落ち着かない私は居ても立っても要られず無駄にドア近くに立ち出勤してくる先生方に次々『新任教師です』と、挨拶を交わしまくった。
なんせ就職なんて本当何年ぶりか、もはや最後に着いた職場や時期が分からないほどなのだ。
気がつけばもうほとんどの先生方が来ていた。そして校長先生をやってきて、私は自分の机に座った。
果たしていじめ自殺をした奴らがいる学校の校長、…いかほどか。
私は真面目にも『潜入捜査』をこんな緊張マックス状態でも忘れてはいなかった。
校長は普通に朝の挨拶と少しの業務連絡などを軽く話すだけでとっとと校長室に戻っていった…
何故か拍子抜け、こんなもんなのか。
そう、私にとっては全てが新鮮と驚きなのだ。なんせ教師なんてそう簡単になれる職業ではないからだ。
しかし『潜入捜査』これは忘れまいとした。
そして他の先生方は授業なり受け持ちの教室なりに移動を始める。私も立ち上がりとりあえず移動しようとした。その時、かなり大きな男性教師が私に近づき『お話は伺っております、教頭の川田です。よろしくお願いします。』
私は慌てて『よ、よろしくお願いします。』
と言い返した。
そして教頭はすぐにあの組に向かう。『とりあえず1週間は私が色々話や説明、分からないことなど、お話します、では着いてきて下さい』
私は小さく『はい、お願いします。』と言った。
『ああ、みんな忘れてないかい?私は就職も他人と接するのも苦手な負け犬ニートですよ、ああ、怖い…』
なんて思っていたらもう着いてしまった、あのクラスに。
ドアを閉めても漏れ出す生徒の笑い声、私は少しの懐かしさを感じた。すると教頭は『永遠野先生、これは命をかけた潜入捜査です!決して悟られず強気で行って下さい、もう逃げられませんし、戦うしかないんですよ、いいですね!』
『そうだ、私は遊びに来た訳ではない、戦いに来たのだ』そして、改めて気を引き締めた。
『では、ドアを開けますよ』
『さあ行くぞ、頑張れ俺!!』
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