真の犯罪者
よろしくお願い致します。
『遅い!』遠くから離れた距離、一本道ではあるが、なぜ私だと分かるのだろ?一体(君)の視力はいくつなのだろうか?…などと考えながら私は約束の場所にやってきた。
『で?何をしたらいいんですか。わたしは』『…ちょっと着いてきなさい』
それだけ言い私も(君)も一言すら話さないまま10分ほど歩いた。
そこは人影もあまりなく、今は使われていなさそうな古びた工場跡地だった。
『何?ここ』私は少し怯えた声で問いかけた。すると『し!静かに!!ちょっとこっち来て』(君)はそういうと少し離れた草陰に私を引っ張っていった。『ちょっとここでおきる事を見てて』
『なんだ?こんな古びた工場跡地で何かあるのか?そもそも人の気配すらほとんど感じないが…。』
『は!まさか…麻薬、あ、あ、警察、救急車…』『落ち着きなさい!!全然違うわ』
色々想像し勝手に怯える私をよそに(君)はそういうだけ、一体なにがあるのだろうか。
…。何分たったか、一向に何かが起こる気配がない。私は少しばかり拍子抜けしかけていた。
その時
『来た!!』『へ?なにが?』『いいから黙って見てなさい』
(君)はそう言い私はただ、今から起こる事をじっと見つめることにした。
やってきたのは中学生くらいか?男子生徒4、5人ともう一人、彼らと同じ制服を着ているが、多少汚らしく汚れていて、少しケガをしているような男子。…同級生だろうか?なんだろう?友達?いや、なぜかそんな感じは微塵もしない。
そう思っていると男子生徒の一人が急にケガをしている風な男子生徒を殴り倒した。
正直絶句した。違う、暴力はもちろんだが、それ以上に、見ていてドン引きするレベル…それくらいの全力の力、この距離からも分かるくらいおそらく本気の殴り。私はすぐにそれが『いじめ』だと分かった。
だか、そんな気持ちよりも無抵抗で多少小柄な男子生徒に4、5人が次から次へとお腹背中などなるべく目立たない箇所に本気で殴る蹴るの光景に、完全に絶句した。そう、止めに入ることも頭にないほどに。
そして男子生徒は数十分ほど、禁止用語に当たる暴言と共に彼が泣いて命乞いするまで『いじめ』を続けた。
『いじめ?』いや、これは…殺人未遂だ。
彼らは命乞いする男子生徒をニヤニヤしながら笑い暴言暴力を辺りが暗くなるまで続けた。
私はすぐに警察に通報しようとした、が、その時(君)は私の携帯を取り上げこう言い放つ。
『止めなさい、無意味よ』
『なんだと?』私は昔いじめられた過去、その時の自分の悔しい気持ち、相手のニヤニヤ笑う顔がフラッシュバックのようによみがえり怒りに震え携帯を奪い返した!
『冗談じゃない!!これは殺人未遂だ。いや、殺人だ、許せない!見過ごせない、救急車も呼ぶ』
思わず大声を上げてしまった。その声に意識を取り戻したのか、殴られた男子生徒は泣きながら慌てて工場跡地を後にした。
当然私は追いかけようとしたが、男子生徒が逃げた先に先ほどの暴力男子生徒の姿が見えた。
瞬間、足がすくんだ。…なんて情けない、せめて警察に。
と思っていたら(君)は口を開いた。
『どうだった?』はあ?なにがだ?
『だからぁ今の見てどうだった?あなたもいじめにあっていたのでしょう?』
(君)は何を言いたいのか?もはや本気で意味が分からない。
まさか、(君)の助けとは、あのいじめを止めさせろとでも言うのか?無理だ。そんなの学校や警察に任せるべきだろ?違うならなぜ私にこれを見せたのか…私に…どうしろと言うのか
『あのね、あなたの考えは分かってるわ、これを見せられてどうしろと?でも思ってらっしゃるのでしょう?』
『あなた…学生時代相当ないじめにあっていたわね?その悔しさ、痛み、苦しみ、治った?』
『…なんで(君)は私が学生時代いじめにあっていた事を知っているんだ?』
『そんなことはどうでもいいのよ!さっさと答えなさい!!』
私はしぶしぶ答えた。癒える訳ないと、消える訳ないと。もちろん人が、人間が怖くなる、嫌いになる、しかし、人間は人間と関わり生きていく。逃げてばかりもいられない。
だから、社会に出て働いた、立ち直ろうとした、…しかし、昔いじめたやつらと似たような人間に出会うと、気持ちの奥底が怒りや恐怖や苦しみに飲まれる。…結局いじめのダメージが強烈過ぎてしまうと、もはや自分では、どうすることも出来ないのだ。
(君)はそんな私の気持ちを全て理解しているかのように、こう言い放つ。
『今頃あなたをいじめた連中は就職、結婚、出産、きっと幸せに暮らしているわ。あなたの心を、人生を、時には命でさえ奪っていながら』
『そんな連中は罪にならないのかしらね』
『…なにが言いたいんだ?』
『あの少年、またはあなた自身が自殺、または人生の長い苦しみ、最悪他人を憎み犯罪者、に、なったら、誰が悪いのかしらね』
誰が普通の人を『犯罪者』に変えてるのかしらね。
『まあいいわ、一度にたくさん言われても頭が混乱しますでしょう?今日はこれくらいでいいわ』『ただ、一つ、教えてあげる。私の助けてほしい願いは…』
『この世界のクズ野郎共を犯罪者にし、犯罪者を救うことよ。
それが私の願い。』
『あなたがそれをするのよ。』
『あああああ!!もうマジで!意味が分からんとにかく今日は帰ります』
(君)はクスッと笑って言った。
『…分かったわ。また連絡するわね。』
そういい、さっさと工場跡地を去っていってしまった。
わたしも帰路につくことにした。
…人生最大に頭が混乱
本当に疲れた。
…しかしなぜだろうか?(君)の言葉が頭から離れない
あの許せない光景が頭から離れない
奴らを犯罪者に?犯罪者を救う?
私はただただ、また今日も眠れない時を過ごすのだろう。
今自分が置かれている立場も、(君)の本当の助けにも気付けていないままで…。
ここまで読んで下さりありがとうございます。