(君)
よろしくお願い致します。
『…あれ?ここどこ?私確か飛び降りて死んだはずじゃ?あ!異世界?最近はやりの?ちょー美男美女になって新たな旅立ち?的な何か?』などと
悠長に語っていると、そこには一人の女性が立っていた。
『ちがうよぉ』『あなたまだ生きててこれは現実!異世界とちがうよ?』
『…誰?』『てかなんで私生きてんの?つかあんた誰?ここどこ?』
『そんないっぺんに聞かれても困ります!』『とりあえず、私は』『君』です!
は?『君?』『それは私ってこと?もうひとりの?』
『じゃなくて!君は私の呼び名!』『何で初対面のあなたに本名教えないといけないのよ?』
『とにかく私のことはこれから(君)と呼びなさい、そしてあなたを助けたんだから感謝しなさい!』
…頭がついていかん。なんだこの変な女は。身なりも変だが、助けた?どうやって?ていうかもう朝?さっきまで真っ暗な夜中だったのに…。
私はまだ頭が混乱の中にいた。するとその女性はまた口を開く。
『あなたさぁ、人に助けてもらって感謝の一つもないの?どういう教育受けてきたわけ?』
半ば切れ気味で言い寄る彼女。なんとなく腑に落ちない…が、なんかあまり関わるとめんどくさそうなので私はしぶしぶありがとうと述べとりあえず帰ることにした。なぜか疲労感も半端ないし。
『んじゃ…助けてもらってありがとうございました。…では私はこれで。』
『ちょっと待った!』『…はい?ちゃんと謝りましたけど』
『あなたさぁ、人に助けてもらってありがとうの一言で済ますの?どういう教育受けてきたわけ?』
なんだかさっき似た言葉を聞いた気がする
『いやいや、謝れって言うから謝ったんですよ、これ以上私にどうしろと?』『は!まさかお金ですか、ありませんよお金なんて』そう話してこの場を去ろうとする私、しかし彼女は少し不気味な笑顔を見せながらこう言った。
『お金?ふざけないで!そんなものは自分で稼いでいるわ、だからいらない。それよりあなたが少しでも感謝の気持ちがあるなら少し私に付き合いなさい!いや、今度は私を助けなさい!』
『な?なんじゃそりゃあああああ…』
こうしてなぜか私は助けられた確証もない詐欺まがいの変な女性と連絡先を交換し、いつでも電話に出るようにとクギを刺され、彼女は去って行った。
『なんなんだ?あれは、本当今は変な人が多い、そもそもいつでも電話に出ろって…無理に決まってるだろ。…いや、どうせ毎日ダラダラ酒飲むだけの日々、それは大丈夫か、ハハハ…だが出ないけどね』
『と言うか、彼女は何者なんだろうか、助けた?確かに冷静になりよく考えると、私は、あれほどの高所から飛び降りたにも関わらずケガ一つしていない。多少の疲労感はあるが…う~ん彼女は医者か?いや、それより普通まず救急車だろ…』
などと、考えながらとりあえず一旦帰路についた。家に帰り空の空き缶と散らかりまくった部屋のベッドで私は少しばかり眠りについた。
…何時間寝てただろう、気が付くと外は真っ暗になっている。…まあこんなニートには時間などあまり関係ないのであまり気にせずに流した。
そして毎日酒飲みの日々で多少の体調不良が続いていたのだが、…久しぶりの爆睡のおかげか?体調がすこぶる良い!
と言う事でさっそく酒を飲みながら昼間録画しているアニメを見ようとした。私の唯一の至福の時である。が!
その時携帯がなった。
私はびっくりしてひっくり返りそうになった。なんせ携帯が鳴るなんて就活以来、しかも全てが落選通知…もはやトラウマである。
そぉっと携帯を見ると、どうやら朝の女性らしい。
…正直朝の出来事は全て夢だと思いたかった…
2分ほど放置。
切れた。
ほっとする間もなくまた鳴り出す
2分ほど放置。
切れた。
ほっとする間もなくまた鳴り出す
2分ほど放置…。…放置…っておい!!!!
しつこいよ、ストーカーかよ、怖いよ、警察でも何でもどうにかしてよ。
などと思っていても携帯は異常なほど鳴り続ける。もはやホラー映画だ。
私は深く深くため息をつきながらしぶしぶ電話に出た。
『…もしもし?』すると鼓膜が破れる程の大音量。
『あんたねえ!殺すよ?どうせ死にたかったんでしょ?このクズ。さっさと出なさいよ!』そのあともニ、三十分程訳の分からない説教?的な暴言を浴びる。疲れた私はようやく口を開き彼女に聞く。
『あのう、で、結局あなたは私をどうしたいので『おい!あなたと呼ぶなと言ったでしょ、君と言いなさい』
『…人の話を遮ってまで何を(君)と言う呼び名にこだわるのか?本当訳の分からない人、いや(君)である』
『で、君は私に何をさせたいの?』
『あら、もうお忘れかしら?あなたはニワトリ?』
『言ったでしょ?今度は私を助けなさいと。』
『いやですから、あなたは』
『(君)だっつってんだろ、ぶち殺すぞこのクソニートが!』
『???』『な、なんだこの人のキャラは…奇抜な身なりの変人かと思えばお嬢様風、次はキレキャラ?もうついていけん…』
そんな事を考えながら改めて聞く。
『すみません(君)は私にどうしろと?助けるって何をどうやって?そもそも(君)は医者なの?詐欺なの?』
『助けて頂いたことは感謝しましたが、正直私は人生最大の勇気を振り絞り自殺をしたんです。言うならば逆に迷惑です!』
『分かりますか?高所から飛び降りるのってどれほど怖いか?シラフでは私のような負け犬クズ野郎には無理です。と言うよりもう1回飛び降りる勇気なんてもうないですよ!!ふざけないで下さい!!!』
泣いていた。私は非常に感情的になり叫ぶように泣きながら(君)に告げた。そして一方的に切ろうとした、もう二度と出ないと決めて…。
すると(君)はこう答えた。『あなたの質問、全て正解よ。私は詐欺でもあり医者でもある、…あなたあれほどの高所から飛び降りても無傷だったでしょ?そう、医者以上、そうね…私はなんにでもなれる何でも出来る女神かしら』
『…明らかに嘘だろ、いくらばかな私でもそれは分かる』
『だからぁ全て正解よ。と言ったでしょ?嘘つきでもあるわよ』
開いた口が塞がらない。一体そんな(君)の何を助けろと言うのか。
完全に呆れていると(君)はまだ話を続ける。
『とにかく明日午後5時ある場所に来なさい。どうせ酒飲むしかすることない上に暇でダラダラしてますのでしょう。』『場所はまたメールででもするわ。分かったわね。もし来なければ…あなたを殺す』
『…。』
私はもう返答する気すらおきなかった
本当に意味が分からない。
しかし、臆病者ゆえ、行かなかったらどうなる?と言う情けない不気味な恐怖もある。
そして私は結局明日指定された場所に行く事を決めた。
…つくづく負け犬な臆病者クズである。
しかし、明日のみ。あとは…絶対に(君)の言うことも、電話も出ないと告げるつもりだ。
なぜなら私がもし本当に一度助けられたのなら、私も(君)を一度だけ助けらればいいだけ。
…ただ、ああ眠れない。死ぬことより怖い事などないと思っていたが、違うのか?
ヤクザやら何やら怖い人が出てきたらどうしようなどと、想像が、不安が止まらず結局一睡も出来ぬまま、私は指定された場所に向かう事になる。
ああ今すぐ消えてしまいたい
ここまで読んで下さりありがとうございます。