金曜 屋上(2)
「ところで、里見君」
「何?」
これ以上ないほど浮かれている鴎はニコニコと笑いながら結の方を向く。
「考えごとというのは、一体何のことでしょう」
口調も表情も遠慮がちに結が切り出す。
鴎は地面にたたきつけられたような気分で、それが顔に現れないよう必死にこらえた。
「私に相談してくれませんか?」
結が控えめに、しかしこちらの目を正面からとらえて尋ねてくれたことはうれしいが、鴎は口ごもる。
結たちに黙って調査をしていたことに感じていた後ろめたさ、成果が出れば気にならないだろうと、蓋をして見て見ぬふりをしてきたが、時間が経った分それは強まった気がする。
罪悪感を扱いかねた鴎が黙っていると
「個人的な、話しにくいことなら結構です」
一呼吸おいて
「でも、何か他の、“可能種”に関わるようなことだったら話してほしいんです」
ばれているのだろうか。鴎は自分がとった、僕は何か驚くようなことを体験しましたと言いふらすような態度を呪った。鴎が赤村の急変と“可能種”を結び付けて考えようとしたように、事情を知っている結からすれば今日の鴎の様子にはあからさまなものがあったのかもしれない。
それでもどう答えようか迷う鴎を見つめて、結は静かに告げた。
「心配なんです」
余りにまっすぐな瞳と声で告げられた真正直な言葉に鴎は胸を打つものを感じた。赤村のときと同様に、生の感情には相手を揺さぶるものがある。そのことを理解しながら、鴎は視線を落とした。
止められないために独りで調査をしていたが、それで自分が負傷でもすれば、結がどう思うかを考えていなかった、いや、考えないようにしていた。これでは恩返しになんてならないなと軽く自嘲しつつも、打ち明けるのにはしり込みする。
数瞬の躊躇いの後、鴎は結に自らの考えについて話していた。
過去を保証できない生徒を探していたこと、それが二組に自分他たちを含め五人在籍していることまでは突き止めたこと、そしてその中に含まれていて、最近放課後にいなくなる池上の後を追ってみたこと、そのさきで四月からおかしくなった教師、赤村がいたこと。
鴎が事実に自分の推論と解釈を交えて話す間、結は一言も言葉を差し挟まず黙って聞いていた。
「そういうわけで、もしかしたら池上さんが怪しいんじゃないかって考えてたんだ」
鴎が話し終えると、沈黙が場を満たした。口を動かすことに集中して、途中から座り方が崩れた鴎に対し、結は背筋を伸ばし体操座りをしたままだが、両肘を膝につけ右手を口の前に持っていき考え込んでいる。
屋上を吹き抜ける風に結の髪がたなびくのを見ながら、鴎が判決を待っていると、結がようやく口を開いた。
「その考えは、正しいかもしれません」
その声が叱責の声でないこと、過ちを指摘するものでないことに安堵する自分を感じながら、鴎は確認する。
「六城さんから見ても?」
結は重々しく頷き答える。
「周りの生徒が過去を知らない生徒は、確かに候補に含まれます。そして赤村先生の態度がおかしくなったのが入学式からなら、対象が一年生として入学し、何か問題を起こした結果だと考えるのはおかしくありません」
一気にそこまで喋ると鴎の方を向いた。
「よくここまで一人で調べましたね」
結に褒められれるとは思っておらず、鴎は照れるように手を首の後ろにやりながら
「いやぁ、たまたまだよ。もっと早くに六城さんたちに相談しておけば…」
止められると思ったからこそ黙って行動した。
鴎が自分の失言に気づき恐る恐る結の顔を窺うと、先ほどまで大きく開かれていた瞳が、今は責めるように細められていた。
「止めていましたね。危険極まりないですから」
「…はい、勝手に動いてごめんなさい」
その視線から逃れるように、俯き頭を下げる。すっかりしょげ返った鴎を見た結は
「でも、これでこの事件が解決するかもしれません。鴎君のおかげです。ありがとうございました」
そう言ってぺこりと頭を下げた。やはり認められると嬉しく、鴎はついまた首の後ろを撫でながら
「いやぁ、そんなお礼をいわれるような…」
「でも、こんな危険なことは二度としないと約束してください」
こちらを見つめる半ば閉じた目に言葉を遮られ
「…はい」
と答えた鴎は再び俯いた。




