浅木 その(3)
人数が半分になってしまえば、当初予定した戦術はどれもそのままでは実行できない。
行ったのはグレードダウンしたそのうちの一つ。銃撃を防ぐために二人が至近にまとわりつき、後の四人が二組に分かれ、入れ替わり立ち替わり攻撃を仕掛ける。攻撃用の“遺産”を持った二人の隊員が隙を狙う手はずだ。
そして戦いは“遺産”を持った一人が簡単に切り払われた時点で崩壊した。
“虎伏せ”は倒れた隊員から“遺産”をもぎ取ると、まとわりついていた一人に突き立てた。
“縫立小爪”と呼ばれるその小刀に刺された相手は、地面に縫い付けられたように体の動きを阻害する力に襲われる。といってもそれは、“可能種”が力を込めれば即座に脱せる程度のもので、浅木側としても今回は隙をつくることを目的にしているだけだった。
「ううっ…!」
しかし、“虎伏せ”に刺された隊員は胸に深々と入り込んだ小刀を見つめたまま身じろぎするだけだった。
その事実は明らかに、“縫立小爪”が適格者によって能力を引き出されたことを意味していた。
浅木たちは、六城家の“命題”が“遺産”だと聞いている。だから“虎伏せ”は“遺産”の力を引き出せるのだと。それは適格する“遺産”に限る話のはずだ。
偶然“縫立小爪”の適格者だったのか…!?
だとすれば呪うべき運の無さだったが、事態はそれにとどまらなかった。いとも簡単にもう一人の“遺産”を奪い取ると、“虎伏せ”は驚くべき文句を呟いた。
「輪転“骨鳴き”」
棍棒が振りかざされ、その場から動けないでいた隊員の頭を粉々にし、四散させる。
飛び散る肉の間に見え隠れする骨は白く、その色に侵される頭の中で、あり得ない、という言葉が生じた。
生涯に一つ適合できるかどうか、それほど“遺産”を扱う条件は厳しい。戦場で拾ったものを一つどころか二つ操って輪転まで行うのは、偶然では済まされない。
ではどうしてなのか。
鼻頭を押しのけ脳幹に届くものが、浅木の思考を終わらせた。