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菊之丞 その(4)
「みんな“命題”は五感拡張や身体能力向上かな?だったらまあ、足りてないね」
どうしてここに。
菊之丞の困惑を意に介さず、代は所感を述べ続ける。
「そもそも彼相手に当たり前の“可能種”が十人ぽっちじゃ前提条件も満たしてないけど、そこは君の責任じゃないか」
「伊那代殿で間違いありませんね?」
堪え切れず、菊之丞は呼吸の合間に問いかけた。
「君は、確か伊田の子だったよね。お互い顔を合わせたのは二、三回だから、間違っていても許してほしいな」
やはり。
そして最初の疑問に立ち返る。
「どうしてここにあなたが…!」
「兄御の命令ですよ、君たちと一緒でね」
「ありえません!」
「それならどうして自分が知らされていないのか」
言葉を先回りされ、菊之丞はたじろいだ。
「薄々考えてたことでしょ?もう認めてもいいんじゃないかな」
電源が入ったままの通信機から、部下の悲鳴が割り込む。
菊之丞は汗が服を濡らす不快な感触も忘れて、目前の男と対峙した。
うっすら笑っている。