結果
最初から最後までを見届けた達也は、よくやったよ、と内心呟いた。
刃ではなく峰だったとはいえ、渾身の力で殴られた頭は血まみれで、ぐったりと地面に倒れて動く気配がない。
結を見下ろす恭治の顔は、とても勝者のものとは思えなかった。”虎伏せ”にとっておいた”命題”を使わされたのが余程堪えたらしい。近づく伸太に気づいたのもかなり時間が経ってからだった。
伸太は無理をして石を投げた腕を押さえている。骨の容量を超えた力を入れていたのだろう。
しばらく二人が話していると、校舎の方から何かがもぞもぞとはい出るのが見えた。埃やごみで汚れているのは茂だった。
のそのそと姿を見せた勝者の一人を、別の勝者はちらりと一瞥しただけだった。大口をたたきながら少女一人に手間取った事実か、向けられた視線に感じ取ったやや被害妄想的な重いか、茂の顔には不満と屈辱がありありと浮かんでいる。
結果でいえば、六城家の二人は戦闘不能、こちらはそれぞれ負傷はあれど離脱者はなし、完勝だ。
彼らは結を回収して、本拠地まで向かう。
これからが自分にとっては本番だ、と達也は息を小さく吸った。
この銃には使用者を隠す能力もあるらしい、結の“遺産”の風にも探知されなかった。向こうも位置を掴んで個別に攻撃することはできないのだろう。その上戦闘中にもノーリアクションだったことから、奴が姿を現す可能性は限りなく低い。
それでも、抑止力である以上ここでは気張らなければいけなかった。奴が出てくれば全て無に帰す。それだけの存在だ。
そんな男を封じ込めている自分は、ひょっとしてこの戦場を支配しているのだろうか。
ふと生じた思いを、達也は鼻息一つで吹き飛ばした。
自分にできるのはこの場における奴の干渉を防ぐことくらいだ。他のことまで左右する力はない。
武器を持つと気が大きくなるなんて、いかにも小心者だ。
反省交じりに自虐をしていると、部室棟前から声には至らない音が聞こえる。
結を肩に乗せた恭治が車へ向かって歩きだした。その横の伸太からも遅れた茂が、苛立たしげに地面を蹴りながら進む。
当たり前の黒さになった髪が揺れるのを一度だけ見ると、あとは感情を殺す。確認した通り、ここからが自分の役割だ。
そうして周囲を探るために視界を動かしてすぐ、駐輪場から影が飛び出すのが見えた。
まさか。
スコープで顔を捉える。目を疑った。そこには“可能種”ですらない少年がいたからだ。