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With the Wind!  作者: 肉丸 もりお
戦場の支配者
153/361

フルパワー開閉

「歩いたってこれより早かったぜ」


 乱暴にドアを閉めると、(しげる)忌々(いまいま)しげに呟いた。

 内容に異論はないが、わざわざ同意する気にはなれない。恭治(きょうじ)は校舎に視線を向けた。

 佐久間家伝統の“威装”は、三人分の暗褐色(あんかっしょく)を闇夜に浮かび上がらせる。

 向こうからはとっくに視認されているだろうが、そんなことはどうとも思っていない、だからあんな騒がしいものに乗り合って到着した。


 用心にしては遅いタイミングで“命題”を準備すると、恭治は指示を下そうとした。


「茂は」

「俺は校舎を見てくる」


 その目線こそが面目を潰すのだと理解していない伸太(しんた)の表情に、忍耐ですらない脱力が体を覆った。


「いいか、戦場に着いた以上は」


 俺の指示に従え、そう告げようとした恭治は、口を開く前に言葉を切った。しかしそれも対応としては遅きに失していた。


 恭治たち以上に目立つ白い“威装”が、三人の中央に降り立った。刀を抜く茂、身をかがめる恭治、そしてその段階になって戦闘態勢に入った伸太をあざ笑うように、眩いばかりの銀色は、(みどり)の輝きを振りかざしながら急進した。


 その先に位置する茂は、軽々と自身の間合いに踏み込まれたことに怒りを示し、刀を振り上げようとした。光る白刃も恐れぬ勢いで突っ込んだ影は、目に映らない暴力的な力の奔流(ほんりゅう)で彼を吹き飛ばす。

 風の一群が茂を廊下から校舎へ叩き込むと、銀色は飛び退って残る二人から距離を置いた。


「ぐっ…!」


 釣られて走り出そうとする伸太を、恭治は伸ばした腕で止めた。初動が分断であることからして、茂が吸い込まれていった廊下の先には罠が用意されていると考えるべきだろう。


 銀髪の少女は肩を動かす呼吸を繰り返している。緊張だけではなく“輪転”後の疲弊(ひへい)が大きいことは間違いない。今優先して戦うべきはこちらであり、援護に向かうのはそれからだ。


 そこまで恭治の思考を読んだわけではないだろうが、伸太は素直に指示に従った。

 一瞥(いちべつ)でそれを確認すると、今度は観察する目を少女に送った。

 この年で“輪転”を行い、戦闘を続行するとは。認識の甘さは更新するべきのようだ。

 六城結だったか、と名前を思い出しながら、恭治は静かに刀を引き抜いた。


 廊下の真ん中あたりで背中を押す圧力が消え、転がっていた茂は即座に立ち上がった。平衡感覚は足で地面を踏みしめると即座に鮮明さを取り戻す。

 一瞬で校舎外から校舎内へ体を運ばれた。風を操る“遺産”、恐らくは“輪転”で性能を底上げされていたのだろう。


「いいもん持ってんな…」


 戦闘開始の乱暴な合図にも動じることなく、それが自分のものになることを想像して笑みを浮かべる余裕が茂にはあった。即座にそれを打ち消すと、鞘から刀を引き抜く。“遺産”を手に持つと力が湧いてくるのを感じた。


 六城家の戦力は二人、自分を蹴飛ばしたのは当主だったはずなので、残るのは最近増えた金髪、あいつとの一騎打ちということになる。

 強引な形ではあるが誘い込まれたここで、相手は準備万端で待ち構えているだろう。自分への悪感情を抜きにしても、恭治たちは開けた戦場で戦うことを優先するはずだ。助けを期待するべきではない。


 その考えも茂に砂粒ほどの恐怖も植え付けることはなかった。無理にあちらへ戻る選択肢も存在しない。自分一人で充分だ。戦いを前にして高揚していることを自覚すると、間違いなく和助と同じ水野の一員だという思いが生まれた。

 反応した脳が年の近い従弟(いとこ)の顔を浮かべるが、()を握る右手に必要以上の力は入らなかった。

 

 ここまで二秒もかからず思考し、ふと、こんなに頭が冴えたのはいつ頃だろうかと考え、鼻でそれを笑い捨てた。


「かかってこいよ!」


 力任せに鼓膜を叩く音を、廊下奥の階段に潜むクレアは静かに聴いていた。

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