係決め
「それじゃあ、役者が決まったので次は他を決めます」
用紙への記入を終えた佐藤が皆に声をかける。
「衣装製作と大道具と小道具です」
「大道具ってなにするんだろ?」
鴎の問いに仁が答えた。
「城とかの背景じゃねえの?カボチャの馬車も」
「ああ」、と鴎は納得した。
確かに、背景を使うのであれば城や家などが必要だ。
「皆席に戻ってください!」
佐藤に促され、役が決まって友人と話していた生徒たちも自分の席に戻る。鴎たちものろのろと指示に従った。席が残らず埋まったのを見て、迫がおもむろに進み出た。
「じゃあ、まず衣装製作から決めたいと思います」
また迫が進行に戻り、佐藤が黒板に文字を書いている。鴎は深く濃い緑色の上を踊るチョークを眺めながら、準備かぁ、と薄ぼんやりした頭で考えた。
どの仕事を選ぶべきだろうか。いつもつるんでいる剛史と仁は役者組なので、どれを選んでも大差ない気がする。
二組内で言えば、鴎は大体の男子と、そこそこの仲だ。つまり気をつかう関係の相手は特にいない。掃除場所が同じ友人などとは、仁たちほどでなくても仲が良いので、話しかければ応じてくれるだろう。どの仕事を選んだとしても、話し相手がいない事態に陥る心配はあまりしなくていい。
必然的に、あまり負担のかからない係が狙い目だ。そこまで思考を進めて、どれが楽か見定めようと前へ向けられた視線が、ちらりと見えた結に吸い寄せられる。
待てよ。
よく考えろ、と鴎は自分に言い聞かせる。文化祭までの長い日時をそれに費やすのだ。落ち着いてゆっくり考えても損はない。
確かにどれであっても孤立することはないだろう。とは言っても、気心の知れた仲の友人と作業する方が気が楽なのは確かだ。残った役割のどれも単純作業が多くなりそうなので、尚のことそうだろう。
「衣装製作を希望する人」
「…」
前方を見る。手は挙がっていない。
結と気心が知れた間柄かはともかくとして、話していて楽しいのは、事実だ。だったらそれを理由に選んでもいいのではないか。
そうして鴎は決断する。
結が選んだものと同じものを選ぼう。
言語化するとどこかストーカー染みた印象を受けるが、友人と同じ選択をするだけで、問題はないはずである。おそらく。
ただ、不純な動機であると周囲に悟られるのは避けたい。あとで訊かれでもした場合のために、今の内に建前を考えておかなければ。
しかしその時間は用意されなかった。
「それじゃ、大道具希望の人―」
結が手を挙げた。鴎も一拍遅れて手を挙げる。挙がった手の数を見て、大道具希望の女子が、同じように手を挙げている友人に話しかける。
「人数ちょうどいいね、よかったー」
「これできまりじゃない?」
実際その通りに事は進み、鴎は目的である結と同じ、大道具担当となった。
希望通りの結果で喜ぶべきだったが、鴎は胸中に生じた罪悪感じみたものと無言で向き合った。
「これで全員に仕事が割り振られたので、今日から放課後の一時間、帰宅部の人は作業を行ってください。部活に入ってる人もできる限り参加してください」
迫がそう締めくくると、話し合いは終わった。担任から他クラスより遅れているので、その分急ぐよう伝えられると同時にチャイムが鳴り、掃除の時間が始まった。