変わり者
木曜日の朝、段々と冬が近づいていることを朝方の冷気に感じながら、鴎は花壇の前で友人の小佐野達也と並んで話をしていた。
出会ったころの達也は、同い年のどの男子とも違い、寡黙で人を寄せ付けない雰囲気を持っていて、鴎も話しかけ辛かった。
しかし、似たような点、ちまちました作業を好み、綺麗好き、があることを作業を通して理解し、今ではすっかり慣れ切った仲だ。
「達也たち文化祭なにするの?」
熱心に世話をしておきながら、名前も知らない花々に水をやる。弾いた水滴に輝きを添えられる姿を眺めつつ、鴎は達也に質問した。
「石拾いと写真展示」
「…面白くなりそう?」
「さあな」
仁の誘いに乗ったのは正解だったかもしれない。
達也は引き抜いた雑草を袋に詰めている。、
「お前らは」
「劇だよ」
「できるのか?」
「ビデオを撮って上映するんだ」
眉根を寄せた達也に説明をする。
劇の枠が取れるかは不確実なので、撮影してそれをクラスで上映すること、その場合は演技のミスも撮り直しができるような利点が多いこと。
「全員じゃないって言っても、結局教室に来る奴には見られるんだろ。よく皆賛成したな」
「まあ、うん」
答えが歯切れ悪いことを自覚しつつ、鴎は土塊や穴でデコボコとした花壇に目を落とした。
今になって伊那の言っていたことの意味が分かる。あの手この手で自分たちが望む方向に誘導したというのは、結果に影響したかに関わらず、あまり聞こえはよくない。
「カメラはどうするんだ」
「先生が持ってるの貸してくれるって。生徒の携帯だと、誰ので撮るかとか面倒だから」
取り扱いは文化委員が行うことになっている。迫は既に監督と呼ばれていた。
「何の話をするかは明日決めるんだ」
「オリジナルじゃないのか」
「うん、昔話とか、おとぎ話とか。まあ、まだ細かくは決まってないよ」
達也はふんと鼻を鳴らした。
「色々考えるもんだ」
登校する生徒が最も多い時間帯に差し掛かり、校門の方が騒がしくなってきた。
聞き取れるはずもないが、文化祭のことを皆が話している気がした。
「皆何するんだろうね」
仕事が終わった鴎は道具を片付け始めた。
「なんだ、楽しみなのか」
袋をスコップと一緒にざるに乗せた達也は、またふんと鼻を鳴らした。
「達也は違うの?」
「別に、一人だしな」
「え?あ、なら一緒に回ろうよ」
達也がこちらを向く。これまでまじまじと見たことは無かったが、その先にあるものを貫く硬質の目だ。じっと見られると、人によっては息苦しさも覚えるかもしれない。
「気をつかうな。お前はあいつらがいるだろ」
「仁と剛史のこと?二人は部活の友達と回るよ。僕もどうしようか考えてたんだ。一緒に回ろうよ」
目が細められ、何かを終始疑っているような顔になる。名字で呼び合っていたときの、取っつきにくいと感じさせる硬さが戻った。
拒まれたのかもしれない。そう思った鴎は、探り探りの手つきで言葉を探した。
「えっと、嫌かな?」
「…まあ、俺はいいが」
含みを持たせた言い方に、鴎が首を傾げていると、
「お前らは案外ドライなんだな?」
「そうかな」
「友達なんてのは、もっとべたべたしたもんだと思ってたよ」
「うーん、そうかな?」
鴎はこれまで交友関係が一定だったわけでもないので、そう言われてもピンとこない。その場その場で友達ができていたように思うし、いつも一緒だった友人の記憶はない。
真面目に考えこむ鴎に、達也は若干呆れた風だった。用具ロッカーへざると一緒に言葉を放り投げる。
「変な奴だ、お前は」
「…何か最近よく言われたよ」
そう自分を評してきた相手も充分変だったと思うが。