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予想通り、まとまった数が手を挙げる。ざっと数えると十人をやや超える程度で、女子に偏っている印象だ。少し時間をかけて佐藤がそれを数え終え、十二とお化け屋敷の横に書いた。
この時点で、全体の票の消化率は半分を超えないほどだった。これが何を示すのかも、鴎にはよく分からない。まだ半分はあると考えるべきか、もう半分近いと考えるべきか。
そしてお化け屋敷の次、ビデオ撮影の番だ。今更できることはないと分かっていても、上体を圧迫しながら、じりじりと胃をせり上がるものがある。度重なる緊張に皮膚が麻痺したのか、教室の雰囲気を判断できない。
みんなはどれを選ぶのだろうか。
「ビデオ撮影、賛成の人は手を挙げてください」
すると、男子が多めに、女子もいくらかの比率で、十人を優に超える人数が挙手した。お化け屋敷よりは間違いなく多い。
やった、と鴎は喜んだのも束の間、他に大差をつけるほどではないと気づいた。残る人数がピタゴラスイッチに集中すれば、負けてしまうのではないか。
じっとりとした粘る焦りを感じていると、仁が隣に向かって、しかしクラスの端にまで聞こえる絶妙の大きさで、
「俺主演立候補するわ」
すると、互いの顔を見た女子が三人、追加で手を挙げた。恐らく自分たちが演技をさせられる可能性に、踏ん切りがつかなかったのだろう。しかし仁の宣言を受けて、佐藤が手を数えている間に加わってしまうことにしたようだ。
ファインプレーを心の中で褒め称えていると、今度は剛史から、しかし仁のときと違って囁くような声が聞こえた。
「多分それで仁はモテるよな」
だからそれじゃ手は挙がらないって。
「…」
男子が四人挙げた。
「…」
それも気づかれないようにこそこそと。
「あれ?」
訝し気な表情をした佐藤に、泊が声を掛けた。
「数えてるときに挙げてる人がいる」
自分もその一人のくせに、よくもまあいけしゃあしゃあと口にしたものだ。
しかし、これで。
佐藤は数える指の動きを止めると、黒板の横に二十一と書いた。間違いなく、残ったクラスメイトを集めても並ぶことは無い。ビデオ撮影で決まりだ。
今回ばかりは男子高校生の性に感謝しつつ、鴎は恐る恐る、前の席を窺った。彼女はどう思っているのか知りたかったのだ。そして短い黒髪の主が姿勢よく挙げている手を視界に収めると、ほっと息をつきたくなった。