現在
誰も発言しないまま時間が過ぎ、最後の六時間目に入ると、近くの女子たちが山口教諭に声を掛けた。
「センセー、去年のクラスはなにしたんですかー?」
教諭は思い出すように顔を頭上へ向けた。
「去年はお化け屋敷だったぞ」
「えー、ありじゃない?それ」
「おもしろそー」
それを聞いた泊が黒板にお化け屋敷、と書きつける。もう一人の文化委員の佐藤はメモ用紙に何か書き込んでいる。
挙手しなくても意見が拾われる流れになり、皆口々に提案しだした。
「プラネタリウムとかはー?」
「クイズするやつとか」
「石拾いでよくね」
「朝顔成長日記」
どういうつもりか、泊は聞こえた範囲のアイデアをすべて黒板に並べている。それを面白がった生徒、主に、というか全て男子、がふざけ始める。
「喫茶店、女装の」
「ミスコン」
「白いたい焼き屋さん」
「じゃあ俺タピオカ!」
思ったより二組の生徒は大人しくなかった。というか、男子に関しては大人しいというより意気地がないだけだったらしい。一度雰囲気が緩むとペラペラ発言しだした。
剛史も仁も一緒になって騒ぎたくなっているのが、そのもぞもぞとした動きからよく分かる。それでもどうにか自制したようで、粗方意見が出尽くすまで発言せずに座っていた。
泊の手が止まると、黒板には喫茶店、女装カフェのような明らかに不可能なものまで含めて、多くの案が並んでいた。
そこで佐藤が立ち上がると、黒板消しを掴みおふざけの提案を消していった。女装カフェが消されたときに、何人かの男子が内心ほっとして、何人かが内心舌打ちをした。
「屋台とかはダメです!ちゃんと話を聞いていてください!」
男子の幼稚さに呆れていた女子がそれに乗っかり、批判する。泊を筆頭に調子に乗っていた男子は一転してしおらしくなった。
そうして最終的に残された案はそれでも十数個だったが、どれも用意に大した手間はかかりそうにないものばかりだった。
鴎はもう一度仁の方を見る。首を五回振っている。アイシテルのサインでなければ作戦続行ということだ。剛史も同じで、レース前の選手のように肩をぐりぐり動かしている。
それ逆に目立つよ。