髪を引く者
ここ数か月、私は普段の運動不足を心配に思い、深夜にランニングをしていた。
その日も深夜、人気のない町中を、軽快に足を弾ませ走っていると、ふと街灯の光によって壁に映し出された私の影が気になった。
私は長髪のため、走っていると髪の毛の影が足取りに合わせてたなびくのだが、毛髪の一房の影が宙に浮いているのだ。
寝癖か何かだろうかと思い、眺めていると、急に「ぐいっ」っと髪の毛を引っ張られた。
走っている最中に逆方向へ引っ張られたのだから、凄い勢いで首に衝撃が走り、髪の毛も何本か抜ける痛みを感じた。
思わず倒れこみ、後ろを確認するが誰もいない。
深夜の町は静寂を保ったままで誰の気配も感じさせなかった。