第1章-27 『エラー』
『ゼイト! まだ決着はついてない! 戦いに集中して!』
「ん? なんだ、ワカツの能力か」
脳内のテレパスの送り主を即座に理解する。
「そうは言っても、もうこのダメージでは戦えないと思うがな! 娘にも言ったのか?」
こちらは大声で話すのに、あちらは能力で返してくるので、会話に違和感は感じる。
『アリスさんがそう言ってるんだ! 何か、イサムさんに残している技があるとしか
「……俺は……どんな手を使っても……どんな犠牲を払おうとも……必ず魔王をぶっ倒す……」
ワカツのテレパスを遮るように、イサムの声が聞こえ、それと同時に少し早めの夕下風が辺り一面を吹き抜ける。
対した温度変化はない筈だが、全身鳥肌が乱立する。
嫌な気配だ。ひとまずここは――
「【魔法障壁】」
「……行け……アr……バー……」
魔法障壁展開と同時に勇者の掛け声ひとつ。
「!!?」
直後、背後で爆発音のようなものが聞こえたと思ったらその方向から『ザンザンザン』という金属音が聞こえる。
しかも、その金属音は徐々にこちらに近づいている。
「これは!」
あることに気づいた俺は身体と魔力をその方向に集中させ、魔力障壁の耐久力を高めていく。
「終ノ色・真紅ノ剣・【吸血之魔斬】」
その、命を感じられない冷たい一言から、信じられないほどの威力の剣戟が繰り出された。
「ハハッ! まだ貴様が残っていたな。主を守ろうとは良い心掛けではないか! なぁ、触手の魔剣!」
「…………」
剣からの反応は無い。自我が薄いのか意図的に無視しているのかはわからんが、触手の剣は無言で魔法障壁に自身の腕(?)を叩きつける。
そもそも剣と話すこと自体がそうとう可笑しいか。
いや、そんな対話について考えている場合ではない。魔法障壁の消耗が激しい。幾重にも重ね、更に耐久力を上げている魔法障壁がいとも簡単に『パリィィン』という音と共に砕け散っていく。
今までの戦いで結構魔力を使ってきた。正直これ以上の消耗線は避けたいところだ。
だが、奴はツイの色と言っていた。この場合のツイは、終つまり、最終奥義だということを示しているのではないか?
すなわち、ここで耐え切って、逆に奴の刀身に触れられればその時点で灰化させて終わりだ。
パリンパリンと音をたて、次々と魔法障壁が割れていく。
残る魔法障壁は1枚。
だが、この力なら凌ぎきれる。
ギィィという音を立て、剣は勢いを失くしていく。
よし! 予想通り防ぎ切れた。
あとは――
と、手を伸ばしたその時だった。
「真紅ノ剣・【吸血之魔斬】」
「な!? 馬鹿な!?」
予想外の2撃目。俺の腕だったものが遥か上空に吹き飛ぶ。
失態だ。
正直ここまでするハメになるとは思わなかった。
俺は残り少なくなってきた魔力を用いて、魔法を発動させる。
「【逆廻りの時計】……今度の俺は油断しない」
その言葉と共に俺の身体は光に包まれていく。
ーー
ーー
魔法障壁が割れる音が聞こえる。
時間が巻き戻ったところで戦況がどうなるわけでも無い。
ようは工夫次第ということだ。
魔法障壁がギィィという音を立てる。
さっき同様、触手剣の剣戟は魔法障壁によって防がれる。
変えるとすればここだ。
「【衝撃波】……最大出力」
凄い音と共に触手剣の巨体は宙を舞う。
いくら生き物のようで所詮は剣。距離をとってしまえばこちらのもの。ここで遠距離魔法を放てば――ってちょっと待て。
嫌な予感と共に身体を半歩横に反らす。
ザンッという、いかにも無機物らしい音が聞こえ、元いた場所を見ると、上空から伸びた剣が地面に無情に突き刺さっている。
頬に違和感を感じ、触れた手を見れば手には朱色の液体が付着している。
まさか……いや、これを見れば確実か。コイツ、剣の刀身すら自分の触手のように伸ばせるのか。
「これじゃ、まるっきり化け物だな……だが、終わりだ。【超爆破】」
これまでの音とは比較にならないほどの爆発音が響く。ワカツ達に耳を塞ぐよう言っておくべきだったが、それほど余裕がなかった。
爆煙でよく見えないが、上から触手だった剣が次々と落ちてきているところを見るとうまくいったようだ。
あれを武器としていたイサムには悪いが、こちらも一度命を取られている。手加減なんてできなかった。
「ふぅ。中々手を掛けさせてくれる奴だった。だが、今度こそ終わりのようだな」
イサムの方を向き、そう告げる。
「……!?」
イサムは何かに気づいたように、上体をピクつかせ、口を開いた。
「……げろ……ますぐ」
「ん? なんだ、もう話せないなら救護を待t
「逃げろ! 今すぐ! ワカツ達を連れてここから!」
イサムは、自分の傷を厭わずかなりの声量で告げる。その眼があまりに真剣で、勇者のものだった。
なんだと思い、触手剣の方に目をやると、バラバラになった刀身は、また一つに戻りつつあった。
それに、何かを話しているようにも聞こえ、耳を澄ますと、
「エラー発生。エラー発生。原因究明ト改善策ノ思案ヲ急グ」
と繰り返している。
元からやばいとは思っていたが、今の動きが明らかに異質なものだというのは、火を見るより明らかだった。
「あ……あれは、我が大魔法で攻撃したのが原因か?」
「違う……だが、今は説明している暇がない……ケホッ……お前に頼るのは癪だが……頼む」
今のイサムの目は俺がこれまで見てきた勇者の中で最も勇者らしいものだ。
ハッタリなんかでないことを直感的に理解する。その眼は、本当の緊急事態をストレートに伝えてくる。
「決闘は中断のようだな。わかった、今は貴様の言う事を聞いてやる……だが、貴様は大丈夫なんだろうな? 別にアレをどうこうしろと言うことではない、どうせ、コンタクトが取れなくなったんだろう? 我が帰るまで生きていられるか、そういう意味だ」
「あれは俺の相棒だ……何とかして見せる」
「エラーコード: Hyades。敵意感知システム・テレパスシステムニ問題ヲ検知。応急的ナ改善策ヲ思案」
触手の化け物は機械音を轟かせ続ける。
「そうか。ならば我も急ごう……とその前に……」
俺はイサムに手を触れ、魔力を集中させる。
「【還元廻復】」
「な!? なんだこれ。身体がすごく楽に……」
「我が唯一使える回復魔法だ。そう簡単に使えるものでは無いが、今回は特別だ」
本当は回復魔法というより、根幹的には時間蘇生に近い魔法だが、今はそんなことはどうでもいい。
「我が戻るまで耐えよ」
「言われるまでも無いね」
こうして、決闘の決着もつかぬまま、新たな闘いは幕を開けた。
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