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第1章-16 『杯酒解怨(2)』

「ほぅ。つまり貴様も転生者でありながら召喚者でもある転生召喚者であると?」

「いや、俺の場合は少し違うな。俺はお前と違って、前の世界でも()()()だった。つまり、俺は一度も死なずに2度も世界をまたいできたんだよ」

「なるほど……」


 これまたややこしい状況であるが、魔王の状況とほとんど同じであったので、案外すんなりと理解が出来た。魔王は、日本から前の異世界に転生し、その後、この世界に召喚された、転生召喚者であり、勇者の方は、前の世界に召喚されて、更に再度この世界に召喚された、謂わば二重召喚者というわけだ。


「待て。ということは、この場の全員が元をたどれば日本出身者であるということか?」

「……。ま、そうなるな」


 魔王の問いかけに勇者が応える。

 そういわれてみれば、偶然か、必然か。三人の日本出身者が地球とは全く違う世界で、同じテーブルで同じ時に同じご飯を食べているのである。これも神の……あのちゃらんぽらんのスーツ男の思い通りなのだろうか。


「だったらここで改めて自己紹介を挟もうぜ! ワカツも日本で何をやってたかとか、転生、召喚された経緯とかを含めてさ!」

「そうだな。それには賛同しよう」

「よし、決まりだな! じゃあ、取りあえず、名前の紹介が終わったワカツからでいいか?」

「は、はい。僕はさっき名乗った通り白瀬八です。日本では高校生をしてました。特にアイデンティティと呼べるようなものは僕には無かったですけど、強いて言えば漫画や、ラノベ、アニメとかのサブカルチャーが大好きないわゆるヲタクというやつでした。で、召喚された経緯ですけど、いつも通りラノベを買って――」


 ここまで話してようやく、アリスさんとの約束を思い返す。そういえば、もとの世界のことと、神の話に関しては、相談してからじゃないと話さないという約束だったな。一応2人とも日本からの召喚者ではあるが、一旦アリスさんに話してから情報を伝えるべきだった。

 いや、ここまでは、まだ自分のことしか話していない。神の存在さえ隠せば、大丈夫だろう。

 大丈夫だよな?


「――そして、突然拾ったお守りが光って気がついたらこの世界に召喚されてました」

「ほぅ。話の間は気になるが、まぁいい。だが、我の召喚経緯とは少し異なるようだ」


少しドキッとするが、見逃してもらったようだ。


「俺もちょっと違うな。お守りみたいなモン拾った覚えねぇし」


「まぁ、次は我の日本から前の異世界への転生経緯とそれからのこの世界への召喚経緯について簡単に話すとしよう。我は、日本にいた時、ブラックのサラリーマンをしていた。いや、給料はそれなり以上にあったが、とてもその激務とは釣り合うものではなかった。連勤に次ぐ連勤で泊まり残業なんて当たり前、あれはまさに地獄と呼ぶに相応しい場所だった。魔王になった今だからこそ言えるが、魔界なんかよりもよっぽど魔界らしいところだった。そして、あの頃の()は、サボる、相談するなんて簡単なことさえできぬほど無知であった。そして、精神も限界に達しかけたその時に身体に限界が来て、事切れてしまったのだ。全く恥ずかしい話だ。」


 魔王はそう告げると、目の前の盃を持ち、入っていた酒を全ての飲み干した。

 僕と勇者はそんな中沈黙を貫いた。いや、正確に言えば、かける言葉が見つからなかったのだ。

 正直、勇者の方は何か野次でも飛ばすかと冷や冷やしていたが杞憂だった。

 確かに1度たりとも死んだことのない僕たちが、死を経験した大人に対して軽口はしてはいけないとは思う。

 又魔王は口を開く。


「なぁに、でも、それからは語るのも送るのも楽な生活であったぞ! 魔王領に魔王として生まれ、その力を行使して、魔王領をホワイト企業へと移らせていくのは爽快であったぞ! 労働自体が悪いとまでは言わんし、むしろ、大切なことであることはわかっているが、押しつけや徒労等は生産効率を下げるだけで毒にも薬にもならんということを証明しているようでとても気持ちよかったぞ。フハハハハハ!」


 魔王は【貴様らも笑え】と言わんばかりに高く笑う。

 気難しいし、さっき殺されかけたけど、もしかしたら良い人なのかもしれない。いや、これも、もと日本人という共通点を見つけたからなのか。


「まぁ、そこからは、先ほど皆に話した通り、貴様らの召喚と同様に、気が付いたらこの世界だったというわけだ」

「さてさて、魔王様の働き方改革についてのありがたいお話も終わったところで、俺の話に入るとしますかね」


 気持ちの整理がつかないうちに、今度は勇者が口を開くのだった。

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