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おばあちゃんの落とし物  作者: 水沢ながる
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2 県警本部からの二人

 それから吉岡のおばあちゃんは、毎日のようにどこからか軍手の片方を拾って来ては、落とし物として届けて来るようになった。

 軍手って落ちてるもんだな、と思わず感心すらしてしまう。それを見つけて拾って来る吉岡のおばあちゃんも何だかすごいけど。

 そんな日が一週間程続いたろうか。

 僕らの勤務する交番に、本部──県警の人がやって来た。


「県警捜査課の武田です」

「中上です」

 県警から来た二人はそう名乗った。僕らは二人に敬礼する。

 武田さんは長身で野性味のあるイケメンだった。年齢は三十歳くらいだろうか。黙って立っているだけでも絵になりそうな人だけど、その眼光は鋭い。何もかも見透かしてしまいそうな程に。

 中上さんは、武田さんよりは何歳か年下に見える。ショートカットの髪とパンツスーツ姿が溌溂として見える女性だった。何となく子犬を思わせる愛嬌がある。

 二人は、最近県下で頻発している強盗事件の捜査をしているのだという。

 手口としてはまずアポ電をかけ、相手の資産状況や家族関係などについて探りを入れる。そして狙った相手について調べた上で、訪問販売や宅配、時には息子の友人などを装って訪問し、相手が家に招き入れるとすかさず刃物などで脅し、金品を強奪するのだという。

 被害者はお年寄りが主で、怪我をした人もいる。卑劣な犯罪だが、犯人はまだ捕まってはいない。

「こちらとしては次の犯行を阻止したい。だから君達には、どこかの家に不審な電話がかかって来ていないか、情報を集めて欲しい」

 犯人は県内をあちこち移動しながら犯行を重ねているようだ。なので県警本部はまだ被害の報告がない場所を重点的に警戒し、犯行を未然に防ごうとしているのだ。

「犯人からのアポ電があってから、実際の犯行が行われるには、しばらく日数が経っています。およそ一週間程。電話をしてすぐだと、警戒されると思ってのことだと考えられます」

「逆に言えば、アポ電があったことさえわかれば、そこに網を張ることが出来るわけだ」

 中上さんと武田さんの言葉に、僕らも気を引き締めた。この町の人達を犯罪から守る為に、僕ら地域に根差した交番勤務の警察官の力が必要とされている。

「あら? これは何ですか?」

 中上さんが、交番の隅に置いてある軍手の山に目を向けた。吉岡のおばあちゃんが拾って来たものだ。

「ああ、これは近所の吉岡さんというおばあちゃんが……」

 言いかけて、僕は不意に思い出した。吉岡のおばあちゃん、一週間程前に息子から連絡があったと言ってなかったか? ……それは、本当に息子からの連絡なのか。

「──すみません、ちょっと気になることがあるんですが」

 僕は思わず二人にそう言っていた。


「ここですか?」

 僕は武田さんと中上さんを連れ、吉岡のおばあちゃんの家まで来ていた。

 割としっかりした造りの一軒家だが、よく見ると手入れはずっとされていないようで、あちこちに雑草が生えている。家を取り巻く空気も、どことなく重く淀んでいるように感じる。

 チャイムを押してみても、声をかけてみても、応答はない。玄関には鍵がかかっていた。昼間はどこかを歩き回っているようだ。落ちている軍手を探しているのかも知れない。

「お留守みたいですね」

 中上さんが言った。

 武田さんは──ただ、じっと家を見ていた。一体何を見ているんだろう? やがて、武田さんは僕に向かって言った。

「坂田君だったか。この家、しばらく張っておいて欲しい。中上はいなくなった息子について、ざっと聞き込みをしてくれ」

「わかりました。先輩は?」

「少し、調べたいことが出来た。犯人が来るとしたら、恐らく夜になってからだろう。それまでには戻る」

 そして武田さんはさっさとその場を去っていってしまった。何だかマイペースな人だ。僕が呆気にとられていると、中上さんがくす、と笑った。

「武田先輩は、いつもあんな感じなんですよ」

 元々武田さんは一匹狼で、あまり人に説明せずに行動するタイプなのだという。

「でも、ああ見えて先輩は切れ者なんです。……まるで、他人に見えないものが見えているみたいに」

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