赤子はじめました
「あぅ」
「まぁお嬢様。お目覚めですね」
ぱちっと目を開けると、近くにいた侍女のメイサが笑顔で話しかけてきた。
おはよーの挨拶代りにまばたきをしてみたが、まだ眠いようだと受け取られた。無念。
現在の私は、もう、毎日暇で暇で仕方ありません。
赤子なので起きてる時間も短い上に、まだ目もあまり見えないですし。動けませんし。
ここで現状を整理しましょう。
私は無事、転生した。
しかしテンプレといっては何ですが、なぜか前世と、ついでに言うなら死後の役所での記憶が残っていた私。
転生はうまくいったようですが、消える筈の記憶が消えていなかったのは、もしかして私のスライムへの執念がスライムハーレムを作り上げるためにと意地でも記憶を手放さなかったのかも…と日がな一日暇なので考えております。
現在の私は、フォルトゥーナと名付けられました。女児です。生後2ヵ月です。
どうやら身分の高いお家に生まれたようで、家にはメイサ以外にもたくさん侍女がいるよう。
お父様、お母様、とジェスパーお兄様が呼んでいたことも合わせて考えると、まぁそれなりにいいとこのお家なんだろうなー、程度なので詳しいことはまだ分かりません。何せいたいけな赤子なもので。
まだ家族の顔もわかりません。何となく人影があって、何となく黒髪ではないんだろうなーという程度にしか目が見えないので。お兄様もまだ精々5歳未満でしょう。話し方の感じでは。
私が現状できることといえば、構ってくれる人に少々の反応を返して可愛がってもらう程度。
今の私のお母様と、私の専属侍女らしいメイサの声は聞き分けられます。あ、あとジェスパーお兄様の声も。
この3人は私によく話しかけてくれるので、お返事……あぅあぅ言うか指を握りしめるか、ですが……を返して交流を図ってます。まぁ伝わりませんが。
あとお父様はあまり私が起きている時にはやって来ないので、未だに声を覚えてません。すみません。
こんな感じで、前世の記憶があるにしては、あまり大したことは考えてませんし状況を把握できてません。
まぁ、普通生後2ヵ月の乳飲み子に対して家の成り立ちとか経済状況とか政治的立場とか、世界や国の話しなんてしないでしょうから仕方ない。
動けるようになったら情報収集頑張ろう。主にスライムについて。
まず現在できることは、成長を待つことだけかなー。
現状把握という名の暇つぶしも終わり、少しウトウトしていると、ドアが小さくノックされた。
すぐにメイサが反応し、ドアに向かう。
「メイサ、はいっていい?」
「ジェスパー様。どうぞお入りください。今ならお嬢様が目を覚まされていますよ」
「ほんと!」
入ってきたのはジェスパーお兄様のようだ。
私が起きていると聞いて声が嬉しそうに弾んだ。何だ可愛いな。
「るー!おにいさまだよっ!」
「あー」
見えないけど、私が寝かされているベッドに必死にしがみついて覗き込んでいるらしいジェスパーお兄様に、一生懸命お返事を返す。
すると、お兄様はツンツンと頬をつついてきた。やめれ。
「るーはかわいいなぁ。ほっぺもやわらかいねー」
もはや私という赤子にメロメロな感じのお兄様に、いやあなたも幼児(推定)なんだからもち肌だろうとツッコミたい。
あ、お兄様は私のことを『るー』と呼ぶ。まだ『フォルトゥーナ』は難しいからだろうけど、お兄様可愛いから許す。可愛いは正義。ジャスティス。
けど本当につつくのやめてほしい。抉れたらどうしてくれる、と思わず顔を顰めてしまう。
「あ、ごめんね、なかないでー」
私が嫌がっていることを察してくれたのか、お兄様は頬をつつくのを止めて、頭を撫でてくれた。
すると今度はぽわぽわの髪が気持ちいいらしい。ずっと撫で続けている。
私も気持ちいいので許可しよう。うむ。くるしゅうない。
「ジェスパー様はフォルトゥーナお嬢様が大好きでいらっしゃいますね」
「うん、ぼくるーがだいすき!かわいい!メイサもでしょー?」
「はい、メイサもお嬢様が大好きです」
「ねー!」
その後もお兄様とメイサが私に可愛いと言い続けるのを子守歌代わりに、私は耐えきれず再び眠った。
よく寝てよく食べて、早く大きくなりたいものだ……
その日の私の夢は、自分がキングスライムになって他のスライムを侍らせているという、何これ幸せ、な夢だった。
主人公の目が見えないせいで、詳しい描写皆無。。