死亡手続きと、生前の私のはなし
あけましておめでとうございます。
思ったより内容が暗い感じになってしまったので、さらっと流して下さい…
行列に並び続けて何時間経ったのか。
私は立ったまま眠るという特技を発動しながら自分の順番が来るのをひたすら待った。
ちなみにすでに死んでいる身の上ですので、生理現象は一切ありませんでした。ありがたい。
私の前に並ぶ人が死亡手続きをする様子をぼんやり眺めながら、生前の自分を思う。
私は平凡な見た目に平凡な頭と運動神経で、特に特徴もない人間だったと思う。
が、普通程度に幸せな人間だったかと言われると首をひねる感じ。
私は母子家庭で育った。
父は私がまだ幼い頃に病気で亡くなったので、私と2つ上の兄を母が女手一つで育ててくれた。
両親ともに実家や親戚とは疎遠で、援助の得られない生活はいつも火の車状態で。
必死に働いてくれる母を助けたいと、私も兄も積極的に家事を手伝った。
そして、夕食の材料を買いに出た兄が、交通事故で亡くなった。11歳だった。
それからは母子2人での生活。
寂しさを感じる以前に、私も母も忙しくて暇がなくて大変だった。
ただ、兄の分までと私に愛情を注いでくれた母。
夜寝る前には疲れているのに私の話をちゃんと聞いてくれたし、私の作った食事をおいしいと食べてくれたし。ありがとう、と惜しみなく言ってくれる優しい人だった。
その母も、5年前に亡くなってしまって。
肺炎だった。
ただの風邪だと、大丈夫だからと、病院に行かずに仕事に出て、倒れた。
あの時無理にでも病院に連れていっていれば、まだ生きていてくれたかもしれないのに。
病気に事故に、私の家族は呪われていたんだろうかと思わずにはいられない。
生まれ変わったら、事故は仕方ないかもしれないけど、せめて健康には十分に気をつけよう。
うむうむ、と一人頷いていたら、私の前に並んでいた人の死亡手続きが終わったようだ。
「はい、では次の方どうぞ」
「お願いします」
職員さんはちょっとやる気の足りない感じの40代っぽいおじさん。
よれっとしたワイシャツの一番上のボタンが取れかけているのが気になる。
大きめの黒ぶち眼鏡と目尻のしわがチャームポイントか。
「では、こちらにリングを翳してください。データを読み込みますので、1分ほどそのままでお願いします」
職員さんは目の前のパソコン画面から一旦目を離し、カウンターに置かれた四角いプレートを指した。
私は腕からリングを外し、指示されたプレートの真ん中に置く。
すると、プレートとリングがほんのり緑色に発光する。
「では生前の記録を読み取りますので少々お待ち下さい」
「はぁ」
読み取られた情報が表示されているのか、進行状況が表示されているのか、パソコンの画面に再び視線を落とした職員さんをぼんやり見守る。
あ、泣きぼくろ発見。
「お待たせしました。情報の読み取りが完了しました」
それから1分ほどの短い時間だったと思う。職員さんの顔にあるほくろを7個まで見つけたところで作業が終わったようだ。
情報の読み込みが終わったらしいリングはそのまま回収された。
「小日向 由愛さんですね。犯罪歴はなし。特記事項なし」
平凡だったもので。
「ではこのまま死亡確定処理を行います。よろしいですね?」
「はぁ、よろしいです」
よろしくなくても、もう死んでるもんで。
「……はい、死亡手続きは終了しました。では転生手続きに進んでいただきます。こちらのプレートを持って、あちらの転生受付ゲートに進んでください」
あちら、と言われた方には、空港でよく見るゲートのようなものが。
一か所で全部の手続きが終わるわけではないらしい……めんどー……。
窓口の人に渡された手のひらサイズのプレートを受け取り、ゲートに向かう。
ゲートはただ通り抜ければいいようで、行列はなかった。
が、その先にまた少々の行列が見える。すでにげんなりだ。
ゲート前には職員さんが立っていて、その横に説明の看板が。
なんでも、通り抜けの際に魂を浄化するための装置らしい。
死亡手続きの際に特に問題のなかった人は、プレートを持ってここを通るだけで簡単に魂を浄化し、転生手続きに進めるとのこと。
楽なのはいいことだ。他の手続きももっと簡単に終わるようになればあんなに行列に並ばなくて済むのに…ちっ。
ゲートをゆっくり通り抜けると、その瞬間にミストのようなものが降ってきた。
…浄化というより、消毒されたようです。
おそらくめったにシリアスな話はないと思います、最初で最後かもなシリアス要素でした。
新年早々これで終わるのも…なので、もう一話、アップします。