自分やっぱり死んでた
目が覚めると、市役所(仮)の前でした。
「……なんで市役所?」
私の記憶が確かなら、何かさっき死にそうな目に合った気がするんですが。
こういう場合、目が覚めたら白い部屋なのがセオリーなのではないだろうか。
なんで市役所の前に突っ立ってるんだろう。
しかも激混み。所内に入りきらなかった行列が、玄関から溢れてさらにズラーっと続いてます。
それより何より、今気にすべきは。
「私のもっちりスライムクッションはどこにいった」
手ぶらな現状の方が大問題だ。
どこに行ってしまったんだ、私の2万3千円。
市役所より警察、交番はどこだ。
ここで辺りをぐるりと見回してみて、気付いたことが一つ。
この市役所の周囲、両眼2.0の視力で見える範囲に、他の建物が存在しない。
「……コンビニくらい、作ろうよ」
過疎化もここまで進むと深刻だ。
とりあえず悩んでいても始まらない。
まずは交番に行って、落し物として届いていないか確認したい。
…あんなに可愛いスライム達なので、誘拐されているかもしれないが。
幸いにも市役所の行列のそばには、メガホン片手に案内をする職員さんらしき人が立っていた。お忙しそうなところ大変恐縮ですが道を教えていただこう。目印になる建物が全く存在しないので、道と言うか、方角だけど。
「最後尾はこちらになりまーす!横3列で並んでくださーい!!」
職員さんに近づくと、必死に叫びながらメガホンを振り回して行列を誘導していた。
お疲れ様です。とりあえずメガホンは振りまわさずに口元にあてることを提案いたします。
「あの、すみません」
「はーい!あ、お手続きですね?最後尾はこちらになりまーす!」
どうぞー!とばかりに列の一番後ろに案内される。違わい。
「や、そうじゃなくて。道をお尋ねしたいんですが」
「は?道?」
「交番に行きたいんですが。どの方角に行けばいいですか?」
「こうばん……?ああ、なるほどー」
職員さんは首を傾げた後に、ぽむっと手を打って納得をわかりやすく表現してくれた。
見た目年齢54歳。鼻眼鏡。
隙間風が気になる頭皮の中間管理職風な職員さんは、動作だけは可愛らしかった。
「もしかして、今ここに来られたばかりの方ですか?まだ意識がしっかりしてないんですね。よくあるんですよ、死んだことに気付いていない方には。ここには交番どころか、この『天国と地獄』以外は存在しないですよ」
この、と言って中間管理職さんが指をさした市役所。
『天国と地獄』という建物らしい。
そして私は「死んだことに気づいていない方、1名入りまーす」と手を引かれ、行列から少し離れたところに立てられたテントに案内された。
勝手に納得された内容を脳内で吟味するに、私はやっぱり死んだらしい。なんて日だ。
「…では、この後は列の最後尾にお並びください。順番にご案内させていただきますね」
にこにこ笑って説明をしてくれた女性職員さんにお礼を言い、テントを後にする。
先ほどの中間管理職さんに案内されたテントの中では、『初めての死亡と、死亡後の手続きについて』という説明がされた。
初めての死亡もなにも、1度しか経験しないものではないか、とは思った。
要約すると、死亡後の流れはこんな感じ。
死亡
↓
『天国と地獄』で死亡手続き ←今ココ
↓
転生手続き
↓
おぎゃー
ザックリだけど。
死んでから転生するまでに必要な手続きを行うための機関…まぁ死後の世界ってやつ?が、この『天国と地獄』という場所らしい。
ちなみに。
死亡手続きとは、腕にはめられたリングに埋め込まれた個人情報チップ(私の腕にもついてた、全然気付かなかったけど)から、個人情報や犯罪歴等の生前の情報を取り込み、その存在の死亡を確定し、転生手続きに進むための振り分けを行う作業のこと。
人間のみならず、動物も植物もミジンコもみんな行うらしい。
犯罪歴の有無によって、そのまま転生手続きに進むか、贖罪(しょくざい)のために奉仕活動を行うための機関に一旦身元を引き渡されるかが決まるそう。
自分が死んだことを認められず手続きを拒否した場合、ここにきて48時間で存在の消滅が強制的に決定らしい。…死んでからもデッド・オア・アライブを突きつけられるとか、この決まりを作った人は間違いなくドSだ。
そして転生手続きとは、死亡手続きで完全に一人の生を終了させた後、浄化された魂を転生させる為の手続きのことらしい。場所・種族・性別・能力値・運の5つの項目を、それぞれくじで決める…とのこと。ずいぶん適当だな。
とにかく、死んでしまったものはしょうがないと諦めて。
………いや、スライムクッションには多大に未練があるけども。諦めがたいけれども。
ため息をついた私は、長い行列の最後尾に並んだ。
なかなか転生しなくてすみません。
ゆっくり進みます。