スライム愛を抱えて、死亡
初小説です。
読みにくい所もあるかもしれませんが、よろしくお願いします。
間違いがあったら指摘お願いします。
人生、いつ何が起こるか分からない。
後悔しないように生きるというのは、本当に難しいと思う。
今日も一日働いて、疲れた体に鞭打ってやって来た、こちら。
ゲームセンターと呼ばれる場所にて。
「…っ!!」
年甲斐もなく1時間半も真剣にUFOキャッチャーに張りついていた、ちょっと無表情冷静沈着系女子(30歳・病院勤務)な私。小日向 由愛。
多大な資金(2万3千円)をかけて、やっと念願の『もっちりスライムクッション』の青とメタルをゲットし、感動に打ち震えていた。
昔から、某有名RPGに登場する、玉ねぎ型のスライムが大好きだった。
……私はもう一方の有名RPG派だったので、そのゲームをプレイしたことはないけど。でも、あのスライムがとにかく大好きで。
本当に笑っているのかわからない大きな目と。張りつけたような緩やかな笑みを刻む口元。数あるモンスターの中において、他の追随を許さぬあの愛らしさ。なんでこんなに可愛いのかよ。指で突いたらどんなに気持ちいいことか。きっとどこもかしこもプニプニで、目つぶしなんて効かないんだろう。あぁ指を根元まで埋め込んでみたい。基本的に争いを好まない温和なモンスター…を気取っている所もツンデレっぽくて愛い奴め。本当に温和な争いを好まないモンスターが、『しゃくねつほのお』なんてえげつない名前の技を覚えるものか。鳴き声「ピキー!」とか、あざと過ぎるかわいい。
そんな感じで、私はとにかく玉ねぎ型スライムが大好きだ。
スライムなら何でもいいわけではなく、玉ねぎ型のスライムが大好きだ。
ちなみに、現存する愛玩動物的な意味では、猫がいちばん大好きです。犬は普通。特別好きでも嫌いでもない。猫の方が触り心地がいいから。
私は基本、感触優先です。
と、今現在に時間を戻します。
そんなスライム大好きな私が見つけてしまったUFOキャッチャー。
青とメタルのスライムの形をした、もっちりと言うからにはさぞ触り心地がいいであろう、少し大きめのスライムクッション。
これを獲る為に、私はほぼ人生初のUFOキャッチャーに2万円以上も投資してしまった。だって自分の力でGETしたかったのです。オークションで落札するとかじゃなくて。
が、私はここに宣言する。その価値はあった、と。
2種類揃ったクッションは、まとめて抱え込むと、ふにりと形を変えて気持ち良く抱きつぶされてくれた。何と気持ちいい感触か。見た目潰れたトマトみたいになってるけど。
---抱えて寝れば、いい夢見れそう。
これ以上ない満足感に、仕事の疲れも吹き飛んだ。
余は満足じゃ。
今日は祝杯をあげなければ。
とりあえず、店員さん袋ください。
ゲームセンターから出ると、12月の冷たい空気が全身にまとわりついてきた。
寒い。そういえば、今日は手袋を家に忘れてきたんだ。手がかじかむ。
白い息を吐きながら視線だけで見渡せば、周りはクリスマス目前の12月の街を満喫するリア充達が溢れていたけれど、今日の私はそんなものに負けてはいない。見よ、この戦利品。むしろ今この場において私が一番の勝ち組だ。だからそんな見下した目でみてくるな高校生カップルよ。爆ぜろ。
そんなことに気を取られたのがいけなかった。
点滅する信号に、小走りで横断歩道を渡っていたのだが、丁度白線の上が凍っていたようだ。滑った。
体勢を崩した程度で転びはしなかったけど、この人ごみの中だ。恥ずかしい。
そしてがさりと音をたてたスライム様の入った袋を確認している間に、信号が赤に変わった。
その瞬間。
信号が変わりきる前にと焦ったのであろう車が、まだ私の立ち止っている横断歩道に突っ込んできた。
強張った顔の運転手と、目が合った気がした。
逃げなきゃ、とは考えられなかった。
とっさにスライムを守ろうと、袋を抱え込んで。
誰のものかわからない悲鳴を複数聞いた気がしたところで、思考がふつりと途絶えた。
本当に、後悔しないように生きることの難しさったらない。
せっかく手に入れたスライムの感触を心行くまで堪能することもできず。
私の人生は、終わってしまったようです。
主人公が一言も喋っていない件。
基本無表情ですが、心の中では結構口数が多い系主人公です。