「砂上の楼閣と通り雨」
通り雨に降られたときに思いついた短編です。
かなり短めです。
気が付いたときには、とても高い場所に居た。
そこは、なんだか立派な建物の屋上だった。
周囲に障害物もないため、辺りの景気が遠くまで一望できる。
しかし、近くに他の建物はないようだ。
先の先……地平線の果てまでずっと、砂原が続いていた。
ぽつり、と。額に水滴が当たる。
見上げると、鉛色の空から雨が落ちてきた。
雨は次第に勢いを増し、轟音と共に地に降り注いだ。
まるで、星が本来の姿を思い出したかのように。
乾いた大地は急激に潤っていった。
しばらくそのままで立っていると、突然世界がぐらりと揺れた。
よろめいた身体を支えようと欄干に掴まり、そのまま身を乗り出す。
見下ろした視線の先。大地が裂け……いや、溶けているように見えた。
正しくは、雨で緩んだ地盤の中に建物が沈み始めていたのだった。
手すりから手を離し、慌てて階段へと走った。
屋上から続く螺旋階段を駆け下りる。
階段はところどころ濡れている。屋上の扉を閉めなかったせいだろうか。
そんなことを考えていると、濡れた床面で滑って転んだ。
そのまま転がって、中ほどにあった踊り場まで放り出される。
背中をしたたかに打ちつけた。一瞬息が止まる。
なんでこんな目に遭うのだろう?泣きたくなった。
……こうしている間も沈下は止まらない。世界は今もなお傾き続けている。
目元をぬぐい、走り出す。平衡感覚がおかしくなりそうだった。
どれぐらい経っただろうか。足元の階段が抜け落ちた。
一瞬の浮遊感の後、思い出したかのように自由落下が始まる。
ばらばらに崩れていく世界の中を、ひたすら落ちていく。
手は空を切るばかりで、何も掴むことができない。
世界が曲がり、歪み、溶けあってぐちゃぐちゃになる。
そして、目が覚めた。
一応、この作品は【ある人物の夢の中】という想定で書いています。
見方によっては、必死に積み上げてきた砂の城がアクシデントですべて台無しになってしまったようにも見えるかもしれませんね。