暗雲立ち込める話
魔力切れとは体内にある魔力を体の動作を司るものを除き、ほぼ全てを使い切った状態であると女神が言っていた。
どうやらスキルの使用には基本的に魔力を使用するらしく《千里眼》とて例外ではないらしく、現在使用できない。
なので、この99%畑の村を今から地道に探さなければいけない。
「シノノメさん、魔力枯渇状態ではパワーもせいぜい「音を置き去りにする程度」まで低下します。喧嘩はしないでくださいね」
「多分、だとしても相手はミンチになるわ」
とりあえずぶらぶらと歩きまわりながら、一応見える限りで一番大きな家に歩いて行く。
「おい、ちょっといいか?」
「ダメです」
「いやいや! 歩けど歩けど家の大きさが変わんねーんだけど! 遠すぎ以前にあの家多分くそでけーぞ!」
「…………ですよね、ですよね! 確かに!」
ルーベルトも気付いていたようだ。昔のレースゲームを思い出す。仕組みがルームランナーみたいなやつ。
既に太陽は南天に登ってしまった。多分このペースだと夜になってしまう。
「シノノメさん、魔力はどの位回復しましたか?」
「全開の1000分の1といったところだな。《テレポート》1回分だな」
「もうそれで行きましょう」
「いや待て、《千里眼》無しは初めてだしどこに飛ぶか分からん。大丈夫か?」
「最悪方向さえあってればいいですよ! あんなとこまで歩きたくなーい、距離分からないけど!」
《魔力超回復》は浮遊魔力(大気中の魔力)を皮膚より取り込み、回復というよりも回収と言った方が正しいスキルだ。
超回復と言っても通常より、というだけで、完全に名前に負けている。
「じゃあ行くぞ!」
戻った魔力の8割を使い、その方向へ《テレポート》した。
★
次の瞬間、暖かい水の中にいた。ただ、足はつくし、すぐに立ち上がる。
「ぷはあ! 風呂かここは!」
周りを見渡すと、女神の土左衛門が横に見えた。が、それはどうでもいい。
ここはどこの風呂だ!
その時、戸が開く。ガラガラと音を立ててスライドする木製の戸はやがて、ガタンと音を立てて止まった。
そこには女の子の裸体があった。
「わー!」
「なんであなたが叫ぶんですかー!? てか誰ですかー!」
「ごめんなさい! とりあえず戸を閉めて! 隠してください!」
「そ、そうでした!」
今度はスパーンと音を立てて戸は閉まっ……てなく、反発で元の位置まで戻った。
「きゃー!」
「何やってんだバカー! もういい俺が閉める!」
一悶着あったが、無事天照大神ごっこは完了した。
★
今、俺と女神はあの風呂のあった建物の客間にいる。
無事あの建物には到達できたみたいだ。ただ、跳んだ場所は悪かったが。
「にしても、豪華絢爛とはこういうのっていう感じの建物ですね。あの報酬金額は中抜きされてそう」
「確かにな。まあでも一文無しに値100万円分の報酬はでかいし」
「そーですねー、相手がハーフドラゴンでなければですけど」
「お前が選んだんだろ!」
くそ、こいつ本気で腹が立つ!
その時、カタリとドアノブが鳴り、ドアが軋みながら開いた。
「お待たせしました、私はこの村の長、カーディと言います。 この度はクエストを受けていただき感謝いたします。 あのような報酬ではなかなか受けてもらえず、どうしようかと困っていたのです。 既に村の端からじわりじわりと瘴気で作物が枯れていっている。 何故、こんなこと、なかったのに……」
村長の顔は暗い。
聞く話によると上級の魔物は瘴気を垂れ流しているらしく、それが色々なものを枯らしているらしい。
「あー、深刻だと思うんだが、話しを先に進めたい。 いいですか?」
「す、すいません、少し参っていまして……。 ハーフドラゴンはちょうど1年前に姿を表しました。 南から北へ一直線に村を焼き、そのまま西の《槍岳》へ、その姿を小さくさせました」
「それ以降は?」
「特に現れることはなかったです」
「なるほど」
村を焼いた意味は分からんが、村があるから来たわけではなさそうだ。
瘴気で村を滅ぼそうとした訳でもなさそうだ。
「何かから逃げていた……?」
「……翼から月明かりが漏れていた、のを見た村人が居たそうですが……」
なくはない線だ、ルーベルトにしてはいい頭の回転してるな。
「とりあえず《槍岳》に向かえばいいんだな?」
「はい、そうなります」
「ルーベルト、《槍岳》までどの位だ?」
「ここからだと150キロって所ですかね」
「……てか、なんでルーベルトは距離が分かるんだ? スキルか?」
「えっへん、私には《行方知らず知らず》というスキルがあります。目標地点を思い浮かべればおよその距離までわかります」
カーナビって呼ぼう。
「出発は明日にしよう。さっさと終わらせて帰ろう」
「あ、明日!? 準備は?」
村長が狼狽える。多分、ここまで苦労してたどり着き、疲弊してると思われてるのだろう。
魔力が無いだけで、その他はほぼ万全。金が無いだけだ。
「で、ではせめてここにお泊まりください!」
「有難い。 あと、野営道具がないので貸していただけると有難いのですが……」
「勿論です!」
話はまとまった。
泊まるところは決まり、明日の野営道具まで借りられた。これはいい感じだ!




