ルーラとか無いん?
掲示板は受け付けの左側から10mほどの幅で、5個の板が壁に貼り付けられ並べてあるだけの簡単なものだった。そこには、分厚めの紙……ではなく、皮のようなものが貼られている。
「紙じゃないな、これ」
「シノノメさんの世界と違ってここでは紙は貴重品ですからね。 紙の本なんか滅多にないですしね」
「そうなんだ、全部こんなんだとかさばりそうだな」
「辞書が枕になりませんからね」
そんな冗談を話しながら、Bランク用の依頼掲示板まで来た。ここではチラホラ紙の依頼書が見られた。それだけ報酬も高そうだ。
「討伐系が多いな、素手だし、装備なし初心者みたいな格好だし、多分ルーベルトのランクのほうがいいかもな」
「大丈夫だと思いますよ。本気で殴ればこの街1つクレーターに出来るパワーにしてありますんで」
「おい、程度という言葉を知っているか?」
「さっきも言いましたが、この世界の辞書って非常にかさばるんですよね」
「辞書引かなくてもわかって!?」
まあ、でも、一気に稼げるのはありがたいな。日銭稼ぎは後がなさすぎて気持ち的に辛いし……。それならいっそ、一発で大きいの受けて、余裕のある暮らしがしたい。
「シノノメさん、これどうですか! ハーフドラゴンの討伐!」
「いや、やべえだろ。ドラゴンとかついてるし」
「大丈夫ですよ! ハーフドラゴンは竜種でも最弱ですから! まあ、でも勇者のパーティを半壊させるくらいの強さではありますが……、こちらとて歩く天災シノノメさんが居ますから大丈夫です!」
「その不名誉なあだ名はなんだ。 これから天災起こすみたいな言い方はやめろ。てか、それって普通に強くないか? 素手の初心者で勝てるか? そんな恐ろしいのよりも、こっちのペット探しの方がいいんじゃないかな?」
「それってハーフドラゴンの捜索ですよ」
「えっ」
「Bランクにペット探しなんて来ないですよ。 さ、大人しく行きましょう! 絶対勝てますから!」
「……無理そうだったら投げるからな」
と、半ば無理やりに初のクエストが決まってしまった。
絶対置き去りにしてやるからな。
★
ルーベルトの街の西側の城門から出て、街道をひたすら歩く。 ハーフドラゴンが確認されたのは、この先にあるヘカタンと言われる村のようだ。
このままだと村がやべぇっ!と村で金を出し合ったが、それでもBランクがギリギリだったみたいだ。
さーちゃんがもの悲しげに言っていた。
さーて、がんばろ!
「女神が移動を徒歩でなんて……こんなことあってはならないわ」
「仕方ないだろ、金ねーし。つーか、ワープ魔法とかないの? テレポートはせいぜい20キロくらいが限界だし、消耗も激しいからあまり使いたくは無いしな。もっと長距離移動魔法ないの? ど定番だろ、移動魔法」
「そんなのあったら交易馬車の業者なんて居ませんよ。 女神だった頃は天界を経由して、どこにでも出現できたから楽だったなあ」
「ああ、そう……、因みに空を飛ぶとかも……?」
「ないですね」
無いんだ……。
実は空を飛ぶのが好きで、バンジーから始まり、パラグライダーやスカイダイビングが好きだったんですよ、シノノメさんは。
だからちょっとワクワクしてたんだけどな……。
まあ無いものはしょうがないか。
「地道に行くか、その村まで何キロあんの?」
「およそ300キロですね」
「まじかよ、不眠不休で3日って死ぬんか。 野宿も無理だろ!」
「シノノメさんの千里眼+テレポート連打で余裕ですやん」
「その手が」
そこから30回程ワープを繰り返し、30分で村に着いたのだった。
実質時速600キロは速い(確信)
ただ移動後はルーベルトの背中で失神してたらしい。女神におぶられるなんて……こいつだしありがたみはないが貴重な経験はできたな、こいつから感慨もないけど。
★
村は散村のような形式の村だ。村に入り口といった入り口はなく、街道を歩いて行くといつの間にか畑に包まれた、という感じだ。
家は石造りで、小ぶりなものが多いがどの家にも倉庫があるようだ。
「ひっろ」
「あー、ここは農村なので、確かに広さでいったらルーベルトといい勝負でしょうね。 人口密度はお察しですが」
だが、背の高い穀物の体が風によりなびいて、波のように揺らめく景色は心が落ち着く。眠くなってくるな。
「あのー、そろそろ降りてくれませんか? 疲れました」
「あ、さーせん」
さて、気を取り直して、村長に話を聞きに行こう!
「村長の家はどこだ?」
「……さあ?」
…………冒険の始まりだ!(村の中)




