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#9 超高難度依頼(私にとっては)

先日、料理中にスマホゲームを見ていたら、玉子焼きをやらかしてしまいました…。

ながらスマホはダメですね。

 ティアさんの先導で私達はマオアー町の北西にやって来ました。

「あの……ここって……」

「問題の時間までまだ結構あるわね」

 ティアさんは太陽の位置を確認しながら言いました。確か4人で討伐依頼を受ける、という話だったはずです。私がちょっと妄想をしている間に、何があったのでしょうか?

「ティアさん、依頼の再確認をしましょう」

 これからの行動方針を考えるティアさんに私はすかさず提案しました。確認は良いことです。その目的がどこにあるのかは置いておきます。

「今回の依頼内容は、夜な夜な墓場に現れる不審者の調査よ」

 ティアさんが今回の依頼を簡単に説明してくれました。夜の墓場でお仕事ですね。


 ……………………。


 …………………。


 ………………。


 ……………。


 帰ります!

「待ちなさい!」

 回れ右をして駆け出そうとした私をティアさんがあっさり捕まえました。うぐぐぐぐ……。『力』は私の方が上のはずなのに……。

「嫌です!私、お化けはダメなんです!」

 必死に抵抗していると、ライラさんに羽交い締めにされてしまいました。身長差があるので足が浮いています。

「相手がお化けと決まったわけじゃないんだから、まずは落ち着こうよ」

 後頭部からライラさんが子供をあやすように……って、私、精神年齢だけならこの中で1番年上なんですけど!?今は13歳で最年少ですけど!

「それで、その不審者が何者なのかを調べればいいのでしょうか?」

「誰が何をしているのかがわかればいいみたい」

 私がどうにかライラさんの拘束から抜け出そうと無言の戦いを繰り広げている横でリーンさんとティアさんが話を進めていきます。

「で、もし悪事を働いているなら、捕縛。その場合は報酬上乗せと冒険者ランクがアップするわよ」

 ランクアップ。つまり黒から紫に昇格する、ということです。確かに4人パーティーになったので、そろそろランクを上げておいた方がいいのはわかります。

 けど、なんでよりによって夜の墓場なんですか!自慢じゃないですけど、地元のショボい夏祭りのお化け屋敷で失神したことありますからね!高校生がお化け屋敷で気絶ですよ!?我ながら本当に自慢じゃありませんよ!

「とりあえず、夜まで時間があるから、まずは近隣で情報を集めるのがいいんじゃないかな?」

 ライラさん、苦しいです!強く絞めすぎです!情報収集も大切ですけど、私の身体の方が大切なので力を緩めて下さい!

「そうね。それじゃあ情報収集でもしましょうか」

「手分けします?」

「アイナが逃げるからダメ」

 リーンさんの提案をバッサリ切り捨てるティアさん。ちっ、バレたか……。

 こうなったら首を……いや、腹を括るしかありません。照明魔法【ライト】を使って墓場を照らせば怖さも2割減くらいするかもです。

 この世界、普通にアンデッドがモンスターとして存在しているせいか、お化けに対する恐怖を持っていない人が多いんですよね……。お化けだから怖いのではなく、強いモンスターだから怖いって感じなんですよね……。


 その後、近隣の住民から話を聞いたところ、不審者が現れるようになったのは5日くらい前の夜から。夜の間だけ墓場に現れ、何かを探すように歩き回っているそうです。

 暗いので姿ははっきりとは見えないので、性別すらわかりません。

 皆さん、不気味に思って声をかけず、近付くこともないようです。私でも声をかけませんね。わかってました?ですよね。

 共同墓地から少し離れたところにある屋台で串焼きを購入し、それを早めの夕食にしながら墓地に戻ります。現在だいたい17時くらい。日が沈み始めているので、じきに夜になります。

 不審者が出没するとしたら、そろそろです。【ライト】の用意をしなくてはいけません。

「一応言っとくわね」

 墓地への道中、ティアさんが真剣な目で私を見ながら言いました。何でしょうか?

「照明魔法禁止ね」

「え……」

 なんですかその新手の死刑宣告は。

 仕方ありません。こうなったらさっさとお化けに遭遇して気絶を……って、そもそもお化けに会いたくないんですよ!

 夜に墓場でうろつく不審者なんて、お化け以外の何者だって言うんですか!

「当たり前でしょ。灯りなんか点けてたらバレるじゃない」

 それはそうですが、灯りがないと怖いじゃないですか。あっても怖いですけど。

 その後、私の抵抗も虚しく、夜の墓場に到着してしまいました。

 薄い雲が月明かりを弱め、うっすらと周囲が見える程度。高校生の時に入ったお化け屋敷より少し暗いくらいです。地球と違って照明器具が発達していないので、日が暮れるとほぼ全ての店が閉店します。夜も営業しているのは冒険者ギルドと宿屋と酒場くらいです。街頭なんてあるはずもなく、夜になれば月と星以外の灯りと言えば窓からこぼれる蝋燭の灯り、もしくは金持ちが持っている魔法の照明器具の灯り、あるいは【ライト】の灯りです。

 今私達がいる共同墓地に、そうした灯りは一切なく、リアルお化け屋敷状態になっています。屋敷じゃなく屋外ですけど。

 こうなったら自棄です!覚悟を決めて頑張るしかないです!

 気合いを入れたその時、カサッ……と近くの茂みから物音がしました。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 私は恐怖のあまり隣にいたリーンさんにしがみつきました。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!やっぱり無理です!夜のお墓とか超無理です!

「大丈夫ですよ、アイナちゃん。風が吹いただけですから」

 リーンさんは私の頭を優しく撫でながら言いました。

「風……?」

「まったく……」

 ティアさんが呆れたような反応をしていますが、誰にでも苦手なものの100や200はあるでしょう?多いですか?ちなみに私はホラー以外に苦手なのはあと1つしかありませんが。

「それじゃあ行くわよ。念のため、先頭はライラ、お願いね」

「わかった」

 ティアさんの指示で隊列を組んでいきます。先頭はライラさん、その後ろにティアさん、1番後ろに私とリーンさんです。本当なら私がティアさんとライラさんの間になるはずですが拒否しました。

 涙目で拒否したので、ティアさんは渋々ながらも受け入れてくれました。今の私はポンコツですよ!戦闘になっても戦力になりませんからね!?

 先頭を歩くライラさんと、その後ろを歩くティアさんの背中を、リーンさんにしがみついてビクビク震えながらついていき、墓地に足を踏み入れます。

 ずらりと整列するように作られた長方形の墓石……ではなく、十字架が並んでいます。木製の物や石で作られた物。おそらくは鉄で作られたであろう錆だらけの物など、材質はバラバラです。しかし、あまり手入れがされていないのか、かなりの数の十字架が痛んでいます。木製のものなんか朽ちているものすらあります。

 幾つかの十字架の前には花束が置かれていて、中には枯れたまま放置されているものもあります。

 私達はできるだけ身を低くしながら、慎重に墓場を歩いていきます。もし、不審者がいた場合、こちらが先に見つけることができなければいけないからです。が、すでに私が悲鳴を上げてしまっているので気休め程度にしかならないでしょうね。

「いませんね……」

「さっきのアイナの悲鳴で逃げられたのかもしれないわね」

「ごめんなさい……」

 リーンさんの呟きにティアさんが先ほどの私の失敗を蒸し返します。だって、怖いんだから仕方ないじゃないですか。今だって早く帰りたいのを我慢しているんですよ?褒められることはあっても責められることなんてないじゃないですか。ありますか?そうですか、ごめんなさい。

 それから私達は1時間ほどかけて墓場を散策しましたが、怪しい影は見つかりませんでした。

「どうやら今日はハズレみたいね。また明日調査をしましょう」

「……明日もやるんですか?」

「当たり前よ。子供のおつかいじゃないんだから」

 確かに、これでは何も進展していないので、依頼としては失敗の扱いになるかもしれません。

「なら、今日はこの辺りで引き上げるか」

 そう言ってライラさんはカンテラを取り出したので、私は腰のポーチから火打ち石を取り出しました。

 町中で魔法を使うのは、生活を便利にするだけの一部の魔法を除いては、緊急時以外では禁止されています。特に火属性は。【ライト】の魔法も発動中は魔力を消耗しますので、長時間の灯りの確保には蝋燭や松明、カンテラを使うのが一般的です。

 そのため、火打ち石は冒険者に限らず、生活する上での必須アイテムです。

 しかし、この世界の火打ち石は地球の物とは全く異なります。初めて使った時はビックリしましたが、黒い石と白い石を打ち合わせると、黒い石の打ち合わせた個所が発火するのです。まるでマッチのように。

 この石を上手く加工すればマッチができると思うので、そのうち信頼できる商人さんや職人さんができたら話をしてみようと思っています。利益をがっぽりもらうために。目指せ億万長者、です。

 そんな未来設計は置いといて、私は取り出した火打ち石をティアさんに渡しました。まだ恐怖で手が震えているので、使える自信がないのです。

 ティアさんは慣れた様子で火打ち石を使ってカンテラに火を点けると、火打ち石を私に返してきました。それを受け取った私は、なかなか震えの治まらない手で火打ち石をポーチに戻そうとして、手元が狂って落としてしまいました。

 それを拾おうと屈んだ瞬間、横から伸びてきた手が火打ち石を拾い、私に差し出してくれました。

「ありがとうございます、リーンさん」

「え?」

 お礼を言いながら手を伸ばすと、反対側から声がしました。振り返るとそこにはリーンさんが……。あれ?じゃあこの手は誰?

 ライラさんがカンテラをこちらに向け、私は錆び付いた扉のように、ギギギギギ……という音が鳴りそうな首を動かしました。そして、目の前に『それ』はいました。

 赤黒くただれた肌。ギョロリと剥き出しの眼球。頬の肉も朽ちて白い骨が顔を覗かせています。

 そうです。ゾンビです。リアルゾンビです。腐ってる死体です。

 それが、振り返った私の目の前にいたのです。


「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


お化け屋敷、実は未経験です。学校のイベントで肝試しはしたことがありますが…。

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