#23 武器屋。そして、領主の屋敷
私事ですが、最近冬に向けて衣替えを始めました。さすがにタオルケットだけだと朝が寒く感じるようになってきました……。
去年の今頃は暖房の効かないボロいアパートだったので、常に厚着だったんですよね……。実家最高!
街の人から話を聞いた結果、領都サルディナに武器を扱っている店は1つしかないそうなので、早速行ってみました。
「ここが武器屋……ですか?」
軒先に吊してある看板を眺めて不安になってきました。
普通、武器屋の看板と言えば、剣とか盾が描かれているものです。今まで見てきた街ではそうでした。交差した剣だったり、盾だけだったり、武器屋ごとに特徴を出そうとしてますが、どこも似たり寄ったりでした。
しかしここの武器屋の看板は……。
「交差する太刀魚……魚屋ですか!?」
思わず声に出して突っ込んじゃいました。幸い、周囲に人がいないので聞かれずに済んだようです。よかった……。
とりあえず中に入りましょう。中に……。あれ?押すのではなく引く方でしたか。それでは改めて中に……。あれ?ドアが開きません。鍵がかかっているのでしょうか?
小さな窓から店内を覗いてみると、店主らしきおじさんが笑いながら横を指しているのが見えました。
……もしかして。
「引き戸でしたか……」
レバータイプのドアノブでなぜ引き戸?これだと普通は押すか引くかしかしませんよ?
「いらっしゃい」
ニコニコというかニヤニヤというか、悪戯が成功した子供みたいな顔ですね。
「なんですか、あのドアは……」
「ありゃうちの領主様の趣味だ。面白いだろ?」
面白いのはあなたであって、初見の客からしたら面白くありませんよ。
「領主様の遊び心ってやつでな、他にも何軒かこういうドアがあるからな」
ドアノブがあるのにシャッターみたいなドアとかあるかもしれませんね。
「それで、お嬢ちゃんは何をしに来たんだ?」
店主のおじさんは私を頭からつま先までを見ながら尋ねてきました。軽さ重視の革の鎧を付けたままなので冒険者であることはわかっているのでしょう。
「刀はありますか?」
ザッと店内を見た感じでは、見える場所に刀は置いていませんでした。壁に掛けられた剣や槍、斧。棚に並んだ短剣。樽に無造作に入れられた武器の数々。一列に並んで立てかけている杖やメイス
まさに異世界の武器屋ですが、肝心の刀だけが置いていません。恐らく店の奥で保管しているのでしょう。
そう思って尋ねてみたのですが、
「刀は扱ってないな」
「え……」
なんですと?刀がない?道場にはあったのに?東の国なのに?
まさか海を越えた先にある小さな島国に行かないと刀は手に入らないと言うのですか?確かにここは海に面した町です。貿易でたまたま手に入ったとしてもおかしくないですね。
「お嬢ちゃんは刀を見に来たのか?」
「はい……道場にあったので、店に行けば買えるかと……」
この日のためにお金も貯めてきたというのに……。まさか扱っていないだなんて……。
そう言えばこの国は勇者の出身国。ゲームで言うなら始まりの町のある国。ならば初期段階で購入できるような安物しかないと言うことなのでは?
帝都とかリエース王国とかベスティア共和国の方が可能性は高かったのかもしれないですね。
しかし、ここでは稲を育てていましたし、和の文化はそこそこ根付いているような気はするんですよね。
「道場にある刀って、どうやって手に入った物かわかりますか?」
「悪いが知らねぇな。領主様は若い頃はあちこち旅してたからな。その時に手に入れたんだろう」
刀を手に入れるなら領主に話を聞いた方が早いのでしょうけど、一介の冒険者がそう簡単に領主に会えるわけないですね。
異世界転生したのに王族どころか領主にすら会えないなんて。異世界転生といえば良識的な王族や貴族を助けて信頼されてコネだらけになるものなんじゃないんですか?
これなら転生時にチートな能力を貰った方が良かった気がします。
「それで、何か買ってくかい?」
「それじゃあ、このナイフを……」
私は棚に並んでいるナイフから1本を選んでカウンターに持っていき、会計を済ませて店を出て行きました。
そうだった。この店のドア、引き戸でした……。
「毎度あり!」
笑いをこらえた感じの声を背中に受けながら、ヒリヒリと痛むおでこをさすりつつ、宿屋へ向かうのでした。
その日の宿の夕食は海鮮丼でした。大変美味しかったです。
翌朝、朝食はパンではなく米でした。しかも焼き魚に玉子焼に味噌汁。納豆もありました。大変美味しく頂きました。
納豆は他の皆さんには不評だったので、私が全部食べることになりましたが……。
朝食後は4人でギルドに行き、依頼を確認です。
この辺りは比較的平和なので討伐系の依頼はありませんでした。しかし、漁に出た際の護衛の依頼や、丘の向こうの畑の警備、採取系の依頼はありました。
「どれもピンと来るのはないわね」
「そこそこ栄えているとは言え、田舎の町だからね。やっぱり王都まで引き返した方がいいんじゃないかな?」
ティアさんとライラさんが今後の話をしていますが、私としては刀を諦めきれないんですよね。しかし、私のわがままで滞在し続けるわけにもいきませんし……。主に金銭的な理由で。
どうしようかと考えながら依頼書を張り出している掲示板を眺めていると、端の方にポツンと残された依頼書に気付きました。
あれ?この依頼書って……。
書かれている内容は、子供達に簡単な計算を教えてほしい、というものでした。しかも依頼人はこの町の領主で、報酬は高めです。条件は多少の計算能力があること。それだけです。
内容そのものは特におかしな点はないものの、ちょっと特殊な依頼です。しかし、問題は依頼書に使われている文字です。
「これ、日本語だ……」
この世界に来て初めて見た日本の文字に、ちょっとだけ懐かしい気持ちになりました。
というか、この文字を使えると言うことは、ここの領主って私と同じ転生者ですよね?しかも、わざわざ日本語で依頼書を書いているということは、これを読むことができる人、つまり私のような転生者に対して出した依頼書ということです。
よし!
「皆さん!この依頼を受けましょう!」
私は掲示板から依頼書を剥ぎ取り、ティアさん達に見せながら言いました。
「それ、なんて書いてんのよ?」
「見たことのない文字ですね……」
「古代文字か?」
そうでした。この世界の人は読めないですよね。ギルドの人も領主の指示で張り出しているだけなのでしょう。
「これは領主様からの依頼で、子供達の家庭教師の依頼です。長期じゃなくて短期の依頼ですよ」
期限は3日間となっています。しかもその間は領主邸で面倒を見てもらえます。パーティー丸ごと。これはお買い得ですよ!
転生者とか日本語の話は一切せずに説明をすると、どうやら納得してくれたようなのですかさず受付に向かいます。
「この依頼、受けます!」
今日の受付係は男性職員さんです。暗めの青い髪に、細い眼鏡をかけた鋭い視線の職員さんで、クールで無愛想で真面目すぎて面白味のなさそうな人です。
「どんな依頼かわかっていますか?」
「家庭教師ですよね?大丈夫です。任せて下さい」
これでも前世は大学生目前。小学校どころか中学生レベルの数学も教えれちゃうよ。
「依頼は受理しました。領主邸でこの紹介状を出して下さい」
そう言って受け取った手紙を持って私達は早速領主邸へ。
町の中央に建てられたお屋敷が、この町の領主邸です。
門番さんにギルドからの紹介状を渡すと、少し待たされてから中に通されました。
玄関で門番さんからメイドさんに交代して客間に案内され、そこで領主様を待つことに。
なかなか豪華な部屋ですね。非常に落ち着きません。ティアさんも私と同じようにソファーの端にちょこんと座ってそわそわしています。ライラさんはあまり気にしていないようで、調度品を見て回っています。壊したら弁償ですよね?
意外だったのはリーンさんです。メイドさんが用意してくれた紅茶を優雅に飲み、おとなしく待っているだけです。その姿はまるで貴族令嬢のように落ち着きと気品に溢れています。
ライラさんが部屋を1周する頃、メイドさんが部屋に戻ってきて再び案内されることに。
階段を上って2階に上がり、しばらく歩いた所にあるドアの前で止まりました。
「旦那様、お連れしました」
「入ってくれ」
部屋の中から聞こえたのは渋い男性の声。
メイドさんがドアを開けて横に下がり、私達が入ると自分は入らずにドアを閉めました。
広い部屋にはふわふわの絨毯が敷かれ、天井からはシャンデリアが吊り下がっています。両側の壁には本棚な普通の棚が並んでいて、小物や本がぎっしりと入っています。
正面には大きな机があって、そこには書類が山のように積まれています。そのさらに向こうに1人の男性がいました。
黒い髪に黒い瞳。どこからどう見ても日本人の顔。歳は40歳から50歳の間くらい。ダンディなおじ様、といった雰囲気で、プロレスラーのような身体をしています。
「ようこそ。俺が領主のソーマ・フォン・オダ子爵だ」
当初の予定では、アイナが1人でいるところに領主と登場するはずだったのに……。
なぜこうなったのでしょうか……。




