#19 東へ
今回から新章ですが少し短めです。
章タイトルは今月中に更新する予定です。
「それじゃあ、今後の話をしましょうか」
ランクが上がった次の日。私達は宿の部屋で話し合いをすることになりました。
今後の話。つまり、このマオアーの町からどこに行くか、という話です。
帝国の東にあるこの町からさらに東に行けば、幾つかの町や村を経由して隣国のアルトゥーラ王国に辿り着きます。
西には帝都があり、帝都から北に行けばリエース王国、南に行けばベスティア共和国。さらに西に行けば魔族領です。
海を越えれば他の大陸にも行けるのですが、海には海の魔物がいるため非常に危険です。魔物や魔族のせいで大陸間の交流はほとんど行われていません。たまに大勢の冒険者を護衛に乗せて船を出すそうです。
そんなわけで自然とこの大陸内で行き先を決めることになります。
私としては、危険に満ちた魔族領でなければどこでも構いません。
リエース王国に行って雪を楽しみたいです。前世で私が住んでいた地域はあまり雪が降らない場所でしたから、雪合戦をしたり、新雪に飛び込んで人の型をつけたりしてみたいです。
ベスティア共和国で海水浴も楽しそうです。せっかく買った水着を使う機会になりそうです。魔物や魔族の脅威はありますが、リゾート地なので多分そこそこ安全です。
アルトゥーラ王国は魔法大国とも呼ばれているので、色んな魔法を見ることができそうで楽しみです。
そんなわけで私からは特に希望はありません。なので静かに見守ることにします。
「私はあまりリエース王国にはいきたくないですね」
「私も家出同然に出てきたから北に行くのは……」
リーンさんとライラさんはリエース王国方面は乗り気ではないみたいなので候補が1つ減りました。リーンさんはリエース王国の出身なのに、なんで行きたくないのでしょうか?帰りたくない事情があるのでしょうか?気になりますがあまり深く聞くのも悪いですよね。
「私としては帝都に行ってみたい。もしかしたら将軍に会えるかもしれないし……」
そう言えばライラさんは帝国最強と呼ばれている将軍に憧れて騎士を目指しているんでした。それなのになんでマオアーの町で冒険者をしているのでしょうか?
例え女性でも貴族なのだから騎士団に入ることくらいできると思うのですが……。
「私は断然アルトゥーラ王国ね。新しい魔法との出会いがあるかもしれないし」
ティアさんは東ですか。だったら……。
「それなら私はベスティア共和国に行ってみたいです。リエース王国とは真逆の環境なので興味があります」
先に言われた!3つの候補に1人1票ずつ入れてしまえば、最後に残った人の意見で行き先が決まるので、その重要な役目をリーンさんに任せようとしたのに!
「アイナ、あんたの1票で行き先が決まるわよ」
なんで最年少の私にそんな大事な役目をさせるんですか!前世計算だと最年長ですけどね!
「ちょっと待って下さい。考えますから」
行き先は3つ。
1つ目は西にある帝都。当然ここより大きく、世界最大の国土を持つ国の首都であるため、人も物も集まる場所。色んな人、種族、アイテム、依頼との出会いがあるでしょう。
2つ目は東にある魔法大国アルトゥーラ。現在の勇者の出身国であり、様々な調味料の栽培と製造を担っている農業大国でもあり、沿岸部は漁業が盛んな豊かな国です。
3つ目は南にあるベスティア共和国。獣人によって建国された国で、国民の大半が獣人という素晴らしい場所です。平時ではリゾート地として人気があり、他国の貴族の別荘があるくらいだそうです。首都が海に面している珍しい国で、観光と貿易を主な収入源にしているため、魔族との戦争の被害を1番受けている国でもあります。
私としては特別行きたい場所はなく、順番は関係ないので全て回りたいのですが、今回は私の選択で行き先が決まってしまいます。これは悩み所ですね……。
……あ、そうだ。
「私、アルトゥーラ王国に行きたいです!」
あることを思い出した私はティアさんと同じアルトゥーラ王国を希望しました。
「それじゃあ決まりね!次の目的地はアルトゥーラ王国よ!私達の名をアルトゥーラ王国に轟かせるわよ!」
自分の意見が通って嬉しそうなティアさん。よっぽど行きたかったんですね。
「そういえば、そろそろパーティー名を考えないか?」
「パーティー名?」
ライラさんの言葉にリーンさんがオウム返しに尋ねました。
「緑ランクの冒険者パーティーは、大抵パーティー名を持っているんだ。紫ランクでもパーティー名を持っているパーティーはいるんだけど、指名依頼を受ける可能性もある緑ランク以上のパーティーにはパーティー名は必要になる」
パーティー名がわからないと指名依頼をする時に不便になるかもしれません。それに、パーティー名があった方が名乗りやすいかもしれませんね。
「それじゃあ『イリスと愉快な仲間達』で」
「「「却下」」」
サラッと自分本位なパーティー名を提案するのを全員で即拒否です。
「そんなパーティー名が許されるなら『アンデルス騎士団』の方がいい」
「「「却下」」」
それだとまるで私達がアンデルス子爵家の騎士団みたいじゃないですか。私達は冒険者であって騎士団じゃありません!
「それなら………………」
「ないなら無理して言わなくていいわよ」
まるで大喜利のようになっているような気がしなくもないですが、パーティー名はちゃんと考えないといけません。
ズバッと名乗りやすく、覚えやすく、格好良さと可愛さのある名前がいいですね。
「私達はまだまだ無名ですから、そんなに急いで考えなくてもいいじゃないですか」
「そうも言ってられないわよ。自分達で決めとかないと、周囲の人達が勝手に決めちゃうんだから」
いわゆる通り名のような物ですね。誰かが勝手に言い出したことが浸透するパターンです。コテツさんの『ハーレムパーティー』なんかがまさにそれです。
「だからって、急いで考えても良いのは出ませんよ?これから先、ずっと名乗る名前なら、じっくり考えて後悔しないようにしないと」
「……それもそうね」
パーティー名に関してはいったん保留になり、私達はアルトゥーラ王国に行く準備を始めました。
準備と言っても消耗品の補充と保存食の用意。装備の手入れくらいなのでそれほど時間はかかりません。
むしろアルトゥーラ王国行きの護衛依頼を探す方が時間がかかりました。
アルトゥーラ王国に行くことが決まってから1週間が過ぎた頃、ようやく護衛依頼が決まりました。
「皆さんはじめまして。私が依頼人のカオフマン商会のヘンドラー・カオフマンと申します」
依頼人は中流商会の商会長をしているヘンドラーさん。歳は30台くらいでしょうか。商人というと太っているイメージが強いのですが、ヘンドラーさんはやや痩せ気味の体型ですね。こういう世界では太っているのは裕福な証なので一流の商人は大抵太っているみたいです。
「パーティーリーダーのイリスティア・ティーグレよ。よろしく」
「ティアさん、相手は依頼人なんだからもうちょっと礼儀正しくした方がいいですよ」
「冒険者に礼儀作法を求める方が悪いのよ」
「ははは。私は気にしないので大丈夫ですよ」
ヘンドラーさんはティアさんの態度に気を悪くした様子もなく、笑って流してくれました。
目的地はアルトゥーラ王国の首都ファルトラ。大陸東部に位置していて、南北に広がる魔法大国。その首都はやや東に寄っているそうです。
真っ直ぐ向かうのなら馬車で1週間でアルトゥーラ王国に入れるそうです。なのでまずはアルトゥーラ王国の国境の領地を目指します。アルトゥーラ王国の玄関口的役割を果たすその領地はアルトゥーラ王国の公爵家の領地らしく、内陸からの侵略に対する防衛のために国の端に領地を持っているそうです。
現在の当主はまだ30歳にもならない若い人のようで、4人兄弟の末っ子なんだとか。よほど禄でもない兄しかいなかったのか、あるいは3人の兄に「不幸な事故」でもあったのかは知りません。
少なくとも領民に慕われる領主だそうです。
道中の町や村で商売や仕入れをしながら、1週間の道のりを10日かけて進み、アルトゥーラ王国にやってきました。
この世界にやってきて約1年。シュテヴィーゼ帝国を離れて隣国のアルトゥーラ王国への旅
アルトゥーラ王国最初の町はマルティーニ公爵領の領都ウィルナップ。ここで数日の間、休憩を兼ねて商売をしてから首都に向かうそうです。その間は自由に依頼を受けていてもいいそうなので、明日からギルドに行ってみましょう!
今日は七夕ですね。
私は書く予定はありませんが、皆さんは何か短冊に願い事を書きますか?
小さな子供だと「お金持ちになりたい」とか書く子がいますが、そんな小さな頃から金欲にまみれているのはどうなんでしょうね?もっと子供らしい純粋で無邪気な願い事はないのかと、クラスメイトの短冊を見て思う夢のない小学生でした。




