#18 ポーション革命
最近暑くなってきているはずなのですが、朝はとても寒くて布団で丸まっています。今年も冬布団から一足飛びにタオルケットになるかもしれません。
「今日からお仕事再開です!」
年末年始の休暇を終えた私達は久しぶりに仕事をするため冒険者ギルドにやってきました。
パーティーの連携は新米冒険者にしてはなかなか上手くなっています。装備もそこそこ良い物を使っているはずです。あとは私の武器をどうにかしたいところですね。まだアイアンソードなので、もう少し良い武器に買い替えたいです。
しかし、武器はかなり高いです。投げ売りの安物ですら銀貨3枚くらいはします。
目標は金貨1枚以上の剣ですので、もっと稼がないといけません。
ギルドはかなり賑わっています。朝の通勤ラッシュならぬ、朝の依頼争奪戦が始まっています。
私達の紫ランクはほとんどが薬草採取やオークやゴブリンの討伐などの依頼になるので、多少出遅れても問題ありません。稀に変わった内容の依頼がありますが、そうした依頼は大抵の場合は緑ランクへの昇格がかかった冒険者用の依頼だったりします。
普通の冒険者は半人前から一人前になるまでに1年かかると言われています。私はあと3ヶ月くらいで1年になるので、ランクアップが近いと言えば近いですね。この町で最強と言われているハーレム冒険者パーティーはラノベ主人公かと思うような異例のスピードでランクを上げていったらしいです。なんでも高ランクのモンスターと何度も遭遇して倒したり、この町の領主様と仲良くなったりして、あっと言う間にランクが上がったとか……。
私達は普通に冒険者をやって、普通にランクを上げていきましょう。
「皆さん、この依頼を見てください」
リーンさんに言われて掲示板の端にある依頼書にみんな集まります。内容は魔力回復ポーションに必要な薬草採取の依頼です
この手の依頼はギルドに採取した薬草を納品して、お金を受け取って終了です。その後、ギルドが調薬師に薬草を売り、薬草からポーションを作って商業ギルドに買い取ってもらい、それが店に並ぶ、というのが一般的な薬草とポーションの流れです。ですが、
「直接納品ですね、この依頼」
直接納品とはギルドではなく調薬師に薬草を納品することを言うのですが、この場合、調薬師が自分で薬草の査定をしなくてはいけません。ギルドで買い取れば薬草の査定をする時に調薬に使える物と使えない物を分けているので、薬草を買いに来た調薬師はポーションの材料になる薬草だけを買うことができます。しかし、直接納品の場合は自分で査定と選別をしなくてはならないため、時間がかかってしまいます。質の悪い薬草を使うと質の悪いポーションになり、買い取ってもらえなくなるので、普通はギルドを通して仕入れています。
しかし、直接納品には1つだけメリットがあります。それは、ギルドを経由しないため安く仕入れることができることです。
「これにしましょう。他は変わり映えしない依頼ばっかりだし」
そう言うとティアさんは依頼書をカウンターに持っていきました。カウンターにはいつものようにシェリアさんがいます。ギルドって休日とかあるのでしょうか?ギルドの労働形態が気になるくらい見かけます。
依頼の受理を終え、私達は早速町の外に出ました。目的の薬草は森の中にあるため、往復だけでもそこそこ時間がかかります。しかし、冒険者をやって体力もついたので、昔より早く森に到着しました。
私達は群生地に向かってガンガン進みます。途中で遭遇したゴブリンはライラさんがバッサバッサと切り倒し、ティアさんが討伐証明部位を回収します。
相手が格下なのでリーンさんの回復魔法の出番はありません。私?私は見学ですよ。決してサボっているわけじゃありません。
森の中を進み、中層エリアにやってきました。ここは緑ランク以上水晶の危険地帯ですが、中層エリアに入ってすぐの場所に薬草の群生地があるので、今回はそこで乱獲を……もとい薬草採取をしますよ。
大量の薬草を採取して無事に町まで戻ってきました!特に何もなかったです。そりゃそうですよ。そんな頻繁に危険なモンスターに遭遇したり、トラブルが乱発してたら冒険者もいなくなっちゃいますよ。
西の空に陽が沈もうとしていますが、このまま依頼人に薬草を届けることになりました。
「依頼人の名前はなんだったっけ?」
「確か、バジル・チャービルだったかしら?」
「駆け出しの調薬師さんらしいですよ」
ライラさんの質問にティアさんと私が答えます。調薬師になったばかりの人らしく、町の端の方に暮らしているようです。駆け出しでお金がないから直接納品にしたのかもしれません。
ギルドで貰った簡易地図を見ながらしばらく歩くと、ようやくバジルさんの家に到着しました。
「意外と普通の家ですね」
「どんな家を想像してたのよ?」
貧乏学生が1人暮らしをするようなボロアパートを想像してました。まぁ、私はアパートで生活したことがないのでよくわかりませんけどね。
「冒険者ギルドから依頼を受けてやってきました。バジル・チャービルさん、いらっしゃいますか?」
ライラさんがドアをノックしてから中に呼びかけます。パーティーリーダーはティアさんが自然とやってますが、交渉や依頼人とのやり取りはライラさんが担当することが多いです。ティアさんがやると依頼人と揉めそうなので。
ライラさんは騎士の家系で子爵令嬢なので礼儀作法は心得ているので安心です。
しばらくするとドアが開き、中から男性が顔を出しました。
「お待たせしました。僕がバジル・チャービルです」
「エルフ!?」
「え?あ、はい。そうですよ」
バジルさんの姿に思わず声に出して驚いてしまいましたが、バジルさんは気を悪くした様子もありませんでした。
明るい翡翠色の長い髪の隙間からエルフ独特の長く尖った耳が見えます。細身で長身でイケメン。まさに「ザ・エルフ」といった容姿のエルフです。
「それでは早速薬草を見せてもらいたいので、中へどうぞ」
バジルさんに促されて私達は家の中に入りました。
「ギルドから依頼を受けてもらえたことは聞きましたが、まさかあなた達のような若い女性だけのパーティーだとは思っていませんでした」
居間に通された私達の前に紅茶を出しながらバジルさんはニコニコと笑顔を浮かべながら言いました。
「それでは薬草を見せてください」
「はい、どうぞ」
私はバジルさんに背負い籠を渡します。そうです、採取した薬草を入れる籠は私が持っていました。なぜ1番小さな私が荷物持ちなのでしょうか。まぁ、ステータス的に問題ないですけど。
バジルさんは籠から丁寧に1つずつ薬草を取り出して確認をしていきます。エルフなので植物の目利きはお手の物なのかもしれません。
体感でおよそ10キロくらいもある薬草をテキパキと確認していきます。
「隙でしたら一度ギルドに戻られても構いませんよ。まだしばらくかかりそうですし」
「そう?それなら……」
「作業場を見学しててもいいですか?」
帰ろうと腰を浮かせたティアさんを遮って質問をしました。
「作業場ですか?勝手に触らないのなら構いませんよ」
「ありがとうございます!」
ポーション作成は以前から興味がありました。ポーションに関わらず、物作りの現場を見るのって、なんだか楽しいんです。テレビで工場見学系の番組があれば必ずチェックするくらい。
「皆さんも見学しますか?」
「私はいいわ。興味ないし」
「私も遠慮します」
ティアさんとリーンさんは興味ないですか。
「なら私は残ろう。町の中とはいえアイナを1人にするのは心配だからな」
さすが騎士を目指すライラさん。紳士的ですね。私を心配して残ってくれるなんて。
「変なのに絡まれても、ほどほどにしときなさいよ」
「どういう意味ですか!」
チート持ちじゃあるまいし、チンピラに絡まれても普通にあしらうだけにしますよ!私は正真正銘の普通の女性冒険者なんですから。女神様のせいで不老不死にされただけの普通の冒険者です。
え?不老不死は普通じゃないですか?知りません。
バジルさんの許可を貰って作業場の見学をすることになりました。作業場と言っても居間に隣接する台所なんですけどね。
いったいどうやって薬草をポーションにするのでしょうか?
台所は特に変わったものはありません。二口の魔導コンロがあって、ちょっと大きめの流し台と、そこそこ広い作業台が間にある、ごくごく普通の台所です。背面にはバーのように棚があり、そこに食器や鍋などが置かれています。
ここでどうやってポーションを作るのでしょうか?
てっきり人くらいの大きさの巨大な壷があって、その中に薬草を入れて、大きな棒で混ぜたりするのだと思っていました。完全に「イーッヒッヒッヒッ」って笑う魔女のイメージです。
「バジルさん、ポーションってどうやって作るんですか?」
「魔導コンロの後ろの棚にある大鍋の中に水と薬草を入れて煮込み、魔導コンロの下の引き出しにある専用のビンに入れるだけですよ」
簡単だった。超簡単だった。え?もしかしてポーションって誰でも簡単に作れたりするんですか?
「沸騰してから1時間ほど煮込んで薬草を取り出すだけなので、作るだけなら誰でもできます。しかし、販売するとなると誰にでも、とはいきませんね」
どうやら昔は誰もがポーションを作って販売をしていたそうです。しかし、人によって性能や量にバラつきがあり、価格も様々。ポーションを仕入れて販売する商人にとって、それはかなり面倒なことでした。
性能、量、生産者が提示する価格。その全てがバラバラなので、ポーションを利用する冒険者の間で不都合が生じるようになりました。回復量が安定しないことで、ポーションを信頼できなくなったのです。
このままではポーションが売れなくなるかもしれない。そこで商業ギルドはポーションの容器を世界規模で統一し、一定以上の性能を持つ物だけを取り扱うようにしたのです。最初の頃は色々と問題が起き、詐欺も頻発したようですが、少しずつ改良を加えていき、今のようになったそうです。
誰にでも作れるのに誰でも販売できないのは、販売用ポーションの容器が、誰にでも入手することができないから、というわけですね。
バジルさんは最近、新米の職人と専属契約をしたため、販売ができるようになったそうです。何でも見習いの頃から目をつけていた幼馴染だとか。
「確認が終わりました。報酬を取ってきますので少し待っててください」
そう言って部屋を出たバジルさんは、数分で戻ってきました。
「こちらが今回の報酬になります」
革袋には銅貨がそこそこと銀貨が数枚入っていました。
「それと、その籠の中の物は品質があまりよくないので、こちらでは受け取れません」
品質の悪い薬草はギルドに持って行けばお金になるけど、小さな子供の小遣いにもならないくらい安く買い叩かれてしまいます。
「わかりました。それではまた縁があれば」
最後にライラさんとバジルさんは握手をし、私達はバジルさんの家を出て行きました。
「ライラさん、この余った薬草なんですけど、全部私が貰ってもいいですか?」
「構わないと思うけど、どうしてだ?」
「販売さえしなければ、誰でも作っていいみたいですので、個人で使う分のポーションを自作しようと思ったんです」
各種ポーションは地味に大きな出費になるので、自作できるならかなりの節約になります。
「なるほど。性能は落ちるけど、かなりの節約になるかもしれないね」
ギルドに戻ってティアさん達と合流して話をすると、2人とも了承してくれました。
依頼完遂報告を済ませて宿に戻り、私は厨房を借りて早速ポーション作成を始めます。
バジルさんから作り方を聞いて、ちょっと試してみたいことがあったんですよね。
薬草をぶつ切りにして、フライパンで水分を飛ばしていきます。本当は天日干しにして粉々に砕きたいのですが、今回は実験なのでこれくらいで大丈夫です。
乾燥してきたらネットに入れて鍋の中へ。ここからはレシピ通りです。
1時間、しっかり煮込んでネットを取り出し、1本分をグラスに注ぎます。
魔法で調理をしていたのでMPは結構減っています。これで回復量を確認します。それではいただきます。
…………美味しくない。味はあまり変わりありません。ミルクを入れたらまろやかになるかもしれないので、試してみましょう。
さて、肝心の回復量ですが……。
「おめでとうございます。皆さん、冒険者ランクが緑に上がりました!」
後日、ギルドに呼び出された私達はシェリアさんからそう言われました。
「アイナさんが考案した新しいポーションのレシピによって、ポーションの性能が格段に良くなり、その功績による昇格です。先日のバジルさんの依頼の延長、ということで他の方々も一緒に昇格となりました」
そういうことです。乾燥させた薬草を使うことで、性能が格段に上昇してしまいました。さらにミルクを混ぜたことで、効果をそのままにより飲みやすくなったため、効果別に様々な味を研究されるようになりました。
停滞していたポーション作成技術を進化させた功績でランクが上がり、王国から報奨金も出ました。初めて金貨を持ちました。
「なんかアイナの手柄のおこぼれみたいで納得いかないわね……」
「まぁいいじゃないか。これで依頼の幅も広がるし」
「そうですね。これで私達は一人前を名乗れるようになりました」
それじゃあ、以前から計画していたように、そろそろこの町を離れて他の場所に行ってみましょう!
どこかに手頃な護衛依頼はないでしょうか?
「ま、文句を言ってても仕方ないし、今日はこのお金で昇格祝いでもしましょうか」
「節約家のくせに浪費家みたいなこと言わないでください」
本当にティアさんの金銭感覚がわかりません……。
次回から新章になります。




