#15 謎多き殺人事件の表と裏
ミステリーとかじゃないです。ちょっとした悪戯や勘違いが大事になると気まずいですよね、ってお話です。
「や、やっと帰ってきました……」
偶然にも討伐に成功したオークの素材をみんなで手分けしてお持ち帰りをしたのですが、4人で1匹分すら持つことはできません。早急にアイテムボックスの開発か、アイテム袋を入手しなくてはいけません。
推定重量50キログラム。13歳の女の子にはかなりの重労働です。中学1年生の女の子が50キログラムの荷物を運ぶのですよ?……あれ?もしかしてちょっと凄い?
50キログラムといえば、成人男性の平均体重より少し少ないくらいでしょうか?やや小柄な成人男性を背負ってるような感じですかね?
……ステータスって凄いですね。レベルが上がれば能力値が上がるんですから。オークと戦ってレベルが上がり、帰り道の重労働で力も上昇するのでしょうね。
別に筋肉女子を目指しているわけじゃないのですが……。
ともかく、私達は大変な思いをしつつも重い荷物を「重い重い」と文句を言いながら思い思いの持ち方で持ち帰ってきたのです!え?「おもい」って言いすぎですか?
「早く宿に戻って休みたいわね……」
「ダメですよ、ティアさん。まずはギルドで報告です。素材も買い取ってもらわないといけませんし」
「わかってるわよ……」
町に戻ってきたことで少し気が緩んだのか、荷物がさらに重たく感じて……。
「ティアさん!さりげなく私の方に荷物を移さないで下さいよ!私だって重いんですよ!?」
油断も隙もないですね!ともかく、私達は苦労してオークの肉をギルドに持ち込み、買い取ってもらいました。今日はそこそこ稼ぐことができました。消耗品の補充や宿代、装備の新調など出費は色々あるのでなるべく無駄遣いをしないように貯めないとですね。
仕事が終わった私達はすぐに宿には戻らず、ギルドの食事スペースで休憩をしてから宿に戻りました。
そろそろ陽が落ちてきていて宿に戻ったら夕食にしてから寝ましょう。今日はすぐに寝れる自信がありますよ。
「なんだか人が集まってないか?」
「何かあったのでしょうか?」
ティアさんと今日の夕食の相談をしていると、少し前を歩いているライラさんとリーンさんが言いました。前を見ると私達の泊まっている宿を中心に人が集まっていました。
イベントで集まったというよりは、野次馬っぽい感じですね。
「あの、何かあったんですか?」
「あぁ、なんでもこの宿で人が死んだらしいんだよ」
近くにいたおじさんに尋ねると、衝撃の答えが返ってきました。
どうやら今日の早朝、この宿の前を通りかかった人が、首を吊っている人を目撃したそうです。宿の2階の窓の外に白いワンピースを来た女性が首を吊っていたとか……。怖いですね。普通にホラーですよ。
店の入り口は兵士が2人いて、出入りを制限していました。早朝に発見されたのに、まだ調査が終わってないのでしょうか?
中に入ってもいいのでしょうか?と遠巻きに見ていると、宿屋の看板娘のメレットちゃんと目が合いました。若干垂れ目気味の大きな目に癒されますね。
「アイナさん!こっち来てください!」
「え?」
メレットちゃんに大きく手招きをされたので、とりあえず行きます。なんで呼ばれたの?
メレットちゃんに呼ばれた私は宿屋に入ります。もちろんティアさんも一緒です。
「ただいま、メレットちゃん」
メレットちゃんは9歳の女の子です。にも関わらず、13歳の私と同じくらいの身長です。異世界の子供は発育がいいと言うのは本当のようです。薄い卵色のふわふわな髪が特徴的な素朴な子です。
「誰か死んだって聞いたけど?」
「それが……アイナさんの使ってる部屋らしいんです」
「えっ!?」
私の部屋が現場!?なんで!?ちゃんと鍵はしていきましたよ!?
「少し話を聞かせてもらえないかな?」
あ、なるほど。そういうことですか。つまり、兵士さんがまだいるのは、現場になった部屋を使っている私の事情聴取のために残っていたのですね。
「構いませんけど、私、何も知りませんよ?」
今日は朝早くからギルドに行ってましたし、さっき町に帰ってきたばかりですし。
それから私は、恨んでる人はいないか、とか昨日の夜のアリバイを形式的に聞かれました。まさか取調を受けることになるなんて思いませんでした。基調な経験です。カツ丼は出ませんでしたが。
被害者は不明。第一発見者の男性はすぐに詰め所に行って兵士さんを呼びに行ったものの、戻ってきた時にはすでに死体はなかったらしい。その後、私の部屋はひと通り調べたらしく、死体は見つかっていないそうです。
勝手に人の部屋を調べられたのは不愉快ですが、状況が状況だけに仕方ありません。犯人は不明なわけですし。
被害者の方も白いワンピースの女性、としかわかっていないみたいですし……。
…………あれ?この事件ってもしかして……。
私はふと「ある可能性」に気が付いてしまいました。
この世界……少なくともこの辺りの地域ではてるてる坊主は知られていません。私が作ったのは、シーツと兜で作った等身大のてるてる坊主です。そして早朝、ギルドに行く前に回収し、シーツは畳んで部屋の隅に置きました。
なるほど。これ、私が犯人ですね。
ふと視線を感じてそちらを見ると、リーンさんがこちらを見ています。顔色が少し悪いです。多分、リーンさんも気が付いたのでしょう。ティアさんとライラさんはてるてる坊主を見てないので多分気付いてません。
どうしましょう、これ。言った方がいいのかな?けど、なんだか大事になってて言い出せません。まさか等身大てるてる坊主が首吊りに見えるとは……。いや、確かにそうとしか見えないのでしょうけど!
よし、黙っていましょう!等身大てるてる坊主を人と見間違えた人が悪いんです!私は悪くない!長い赤毛の親善大使様じゃないけど、世界の中心で「私は悪くない」と叫びたいです。
どうやら兵士さん達は部屋主である私に、何か変わったことがなかったかを確認するために待っていたらしく、話が終わるとすぐに帰っていきました。
その後、夕食を済ませた私達はそれぞれの部屋に戻って寝ました。その日の夜はぐっすり熟睡でした。
シュテヴィーゼ帝国は年間通して安定した気候のため、夏も冬もそこそこ快適に暮らすことができる。しかし、帝国の梅雨は少々長く、梅雨の時期に雨が降り出すとなかなか止まない。
今回の雨はおよそ1週間も降り続いた。しかし、これでもまだ短い方で、過去には2ヶ月もの間雨が降り続いたこともあった。
そんな長雨の梅雨が毎年やってくるため、シュテヴィーゼ帝国は雨対策がしっかりとされている。
雨は深夜から早朝にかけて雨足を弱めていき、日の出前には気にならない程度になっていた。
この世界の人は基本的に日の出と共に起き、日が沈むと仕事を終える。就寝時間はまちまちだが深夜まで起きている人は酒場や見張り以外ではほとんどいない。
特にこれといった娯楽がないためだろう。
そして、日の出前からすでに仕事に向かう者もいる。
アイナ達が利用している宿『安眠亭』はそこそこ大きな通りに面した安宿である。その安眠亭のある通りを、鼻歌交じりに歩く男がいた。やや音程の外れた残念な鼻歌だが、歌っている本人はご機嫌の様子である。
「んー、また降ったりしないよな?」
鼻歌を途中で止めて、男は空を見上げた。空は雲に覆われているが、雨雲のようには見えない。このまま風に流されて青空が見えるかもしれない。が、降る可能性がなくもない、という判断に困る微妙な空だった。
視線を空から前方に戻した瞬間、視界の端で何かが揺れた。
「ん?」
何か白いヒラヒラしたものが見えた気がした男は、そちらを見た。
食堂のある宿屋の2階の窓から、何かがぶら下がっていた。
「あれは……」
男は近づきながらじっくりを観察をした。
そして、それが何なのかに気が付くと、真っ青になり、来た道をバタバタと走っていった。男がいなくなって数分後、窓が開き、少女が顔を出したのだが、それを見た者は誰もいなかった。
「た、大変だ!」
そう叫びながら男が駆け込んだのは最寄りの兵の詰め所である。
マオアーの町はそこそこの規模の町のため、町の数カ所に兵の詰め所が存在する。
詰め所には7人の兵士がおり、うち4人はそれぞれコンビを組んで見回りをし、3人が詰め所に待機している。
「どうしたんだ?」
「人が!人が首を吊って……っ!」
「何だと!?どこだ!?」
青ざめながら話す男に、詰め寄った。
「案内する。ついてきてくれ」
男は1度大きく深呼吸してから言った。男と共に現場に向かうのは2人。1人は詰め所に残るようだ。宿に向かう途中で4人の少女とすれ違った。
「あそこだ!あの宿の2階に……あれ?」
男の指差した先には、何もなかった。
「確かにあの窓のところに……」
「回収されたのかもしれないな。宿の者に話を聞くとしよう」
戸惑う男を放置して兵士は宿に入った。
その後、宿の者に事情を説明して問題の部屋を調べたが、死体は発見されなかった。その部屋を利用している冒険者は仲間と共にギルドに向かったが、死体を隠しておけるような物は持っていなかったことと、宿の夫婦と一人娘の証言からその冒険者は無関係だと判断された。
「もしかしたら屋根を伝って逃げたのかもしれないな……」
第一発見者の男の証言を頼りに捜査が行われた。しかし、どれだけ探しても犯人どころが被害者の正体すら不明だった。住民の安否確認、全ての門の人の出入りと現在町にいる旅人や冒険者。その全てを確認したが、行方のわかっていない人物はいなかったのだ。
そして、気が付けば陽が暮れ始めていた。そんな時、現場と思わしき部屋を利用している冒険者が戻ってきた。
「まだ子供じゃないか……」
部屋の利用客の冒険者はぱっと見10歳くらいの少女だった。とても人を簡単に運べるとは思えない体格をしている。
少女から話を聞いたが、不審な人影を見たわけでもなく、この事件は迷宮入りとなってしまった。
消えた犯人と被害者。この事件は後に世界七不思議の1つになり、様々な憶測が飛び交うも、結局は謎のままになったのだった。
まさか等身大てるてる坊主が見間違えられるとは、制作者の少女も思ってはいなかった。
「言い出せるわけないじゃないですか……」
さて、次はどんな話にしようか、これから考えます。ノープランのネタなのでいつまで続くか全くわかりません。




