ラファエル
ミカエルは一刻も早くアダムに聖界のことを報告しようと神界から天使界へ続く門を足早に抜けた。しかしそこで待っていたのはアダムではなかった…
「これはこれはミカエル殿、足早にどちらへ向かうのでしょうか?」
「なッ…天使ラファエル」
「はは、僕は天使じゃなくて、聖王ですよ」
ミカエルの前に立っている男は元天使のラファエル、ラファエルは天使であることを恥と思い、自らの翼を世界を作ったとされるゼウスに返した後、行方不明になっていたのだ。
「なぜあなたがここに?」
「やだなぁ忘れたとは言わせませんよ、二人の天使を」
二人の天使…その名前を聞いた途端にミカエルは目を見開き、蒼ざめたような顔をした。しかしそれは一瞬のことで、次の瞬間には天使権限を発動していた。
「天使権限にアクセス!sword」
「はぁ…あなたはいつも行動が遅い」
ミカエルが剣を抜いた時にはすでにラファエルの剣がミカエルの喉元に触れていた。ミカエルが一歩でも動けばその剣はミカエルの命を奪うだろう。
「全くあなたって人はアダムから戦う基本も教わってないのですか?その美貌で誘惑するのもいいですが、僕にはかないませんよ」
「そうね、あなたにはかなわないわね」
ミカエルは大人しく剣から手を離し、両手を頭の高さに上げた。その動作にラファエルも剣をしまい、ミカエルと向き合うように向きを変えた。
「それで、二人の天使がどうしたの?」
「二人の天使がまもなく復活するでしょう」
「なんですって⁉︎」
二人の天使とは破壊の天使セタと再興の天使アオのことだ。この二人は今から千年以上も前にその力の強大さから初代聖王と初代神王によって封印された、最悪の天使と呼ばれている。破壊の天使セタは世界を壊し、多くの人々の命を奪った。再興の天使アオは世界を再興させ、多く人々に命を与えた。しかし二人はその力をもっと面白いことに利用できないかと思い、セタはアオが与えた命を奪った、アオはセタが奪った命を再興させ再び命を作った。これを面白く思った二人は毎日のように命を弄んだ。しかしそれを止めるものは誰もいなかった…いや、誰も止められなかったのだ。セタは破壊を得意とするため普通の天使や神には到底かなわない。一方アオは命を与えたり、復元させることができるため、いなくてはならない存在だった。また、二人は武器の扱いに長けていたため、まさに鬼に金棒状態だった。
「なぜあの二人が今になって復活するの?」
「初代聖王が亡くなったからだ…」
「初代聖王って…じゃあ本当に聖界は存在していたのね」
初代聖王が亡くなったという事実は聖界にいるものにしかわからない、もしラファエルの言っていることが本当なら聖界は存在していることになる。ミカエルにはラファエルが本当のことを言っているという確かな自信があった。ミカエルはラファエルとともにセタとアオの悲劇を見ていたからである。セタの破壊とアオの再興が毎日繰り返され、下界はおろか天使界や神界にまで甚大な被害を被った。その現状を…
「あぁ、昔も今も聖界は存在している。そして今僕は、聖王だ!」
「それは信じられないわ」
「なぜッ?」
「あなたみたいなろくでなしが界一つを治めているなんて信じられるわけないでしょ?」
ラファエルは昔から意地悪でずる賢くて…様々なことからろくでなしのク○天使と呼ばれるほど評判が悪かった。だから聖王だとは信じられるわけがないのだ。
「ひどいなぁ…」
「さて、そろそろそこを退いてちょうだい、アダム様に報告があるの」
「悪いけど、それは無理かなぁ」
「えッ?」
ミカエルが気付いた時にはすでに地面に横たわっていた。何が起きたのかミカエル自身も理解していない。ラファエルの横を過ぎようとした時に何かが腹部に当たったような感じはしたが何が当たったのかはわからない。ただ一つだけわかるのはミカエルが目を閉じようとした時に一瞬だけ見えたラファエルの顔が満面の笑みだったことだけだ。
「奏太様、奏太様、ごはんですよ、起きてください」
まるで天使のような声で起こしに来てくれる天使のような顔をした天使のように優しい女性は一体誰なのだろう。と思いながら目覚めるというわけのわからない遊びを始めてから早1週間が経とうとしている。ガブリエルと契約してから特に変わったことは起きていないが、最近寝ていても意識をコントロールできるようになった。
「はぁ…ウッウンッ…すぅ…起きんかいこのクソガキが、いつまで寝てたら気がすむんじゃ」
今まで無いような声で唐突にキレはじめたので思わず飛び起きてしまった。声の方を見るとそこにいたのは雪菜だった。
「あれ、お前なんでいるの?」
「家に帰って来ちゃ悪い?」
実は奏太と母親も実家に帰る予定だったが急に母に予定が入ってしまい行けなくなってしまったのだった。だから奏太は結局家から出ずにほぼ一日中寝ていたのだ。
「ご飯だって!行こ!」
「あぁ…うん」
重い体をゆっくりと起こしベッドから出てゆっくりと下の階へと向かった、扉を開けるとそこにはかなり美味しそうな夕飯が並んでいた。
「え、何これ…」
「おう、奏太!おはよう!」
聞きなれない声に思わず目を見開いた。寝起きで頭が働いていなかったが、雪菜が帰ってきたということは父が帰ってきたことになる。
「親父!」
「おう、パパだぞ!」
「いや、パパって歳じゃ無いだろ」
奏太のテンションがかなり高い、奏太は実は父親とめちゃくちゃ仲が良い。この夜ガブリエルは普段は見えない奏太の笑顔に思わず笑みをこぼすのだった。