事実
「世界の崩壊ってどうゆうことだよ…?」
「そのままの意味ですわ。天使界はこの世界を崩壊させ新たな世界…アダムが支配する世界を作ろうとしていますわ」
「アダム?誰だよそいつ…」
奏太には聞き覚えのない名前だった。ましてや天使界など普通には聞かない。
「もういいわガブリエル、そこを退きなさい」
「お姉様!」
音も影もなく突然現れたのは天使ミカエルだった。しかし以前と違ったのは右側の羽が黒くなっていたことだ。さらに声は以前に増して冷たくなっていた。
「奏太様、お久しぶりですわ。ミカエルです」
「なんでお前が?」
「今日はおもしろいものをお見せしようと思いまして」
ミカエルが指を鳴らすと、座っていた煉が立ち上がり、ミカエルの前に跪いた。その様子にミカエルは満面の笑みだった
「どうです?奏太様、煉くんは私の思うがままに動きますのよ。さぁて、頭のいい奏太様ならこれがどういうことかわかりますわよね」
「煉…なんで…」
煉は答えなかった。いや、答えられなかったのだ。ミカエルは煉の操作権を全て握っている。だから煉の意思で話すことはおろか指一つ動かせない。
「アダム様は世界の支配を願っております。しかしながらそのためには奏太様のお力が必要なのです」
なんて自分勝手な話なんだと思った。しかしこれを断れば煉がどうなるかわからない。ふとガブリエルを見るとその顔は怒りに包まれているようだった。
「奏太様、私と契約してください。私ならお姉様をなんとかできます」
ガブリエルがそっと手を伸ばしてきた。掴むのを躊躇していると次はミカエルが行動してきた。
「煉くん、そこの窓に腰掛けください」
煉は黙って立ち上がり、窓の方へ向かいそっと腰掛けた。その様子を見て後がないと察した奏太は慌てたようにガブリエルの手を握った。
「はぁ…煉くん、さようなら」
ミカエルが煉に近づき肩をそっと押した。力が抜けたように真っ逆さまに落ちていく。どう頑張っても奏太も唯香も間に合わない。
「女神権限にアクセス!teleportation」
逆さまに落ちていく煉を黄色い光が包み込んだ。一瞬強く光ったかと思うと今度は目の前に光が集まった。
「煉!」
光が消えたところには煉が横になっていた。目立った怪我などはなく無事だった。唯一違うのは左腕に翼のようなものが現れていた。
「女神権限?あなたいつから女神になったの?」
「貴女に話すことなどありません!女神権限にアクセス、Forced transition」
「天使権限!guard」
ガブリエルが放った光を受け流すように半円型の青白い光の盾が現れた。しかしガブリエルの光の勢いがすごく、完全に守るのは不可能と思われた。
「チッ…」
諦めたように指を鳴らすとミカエルは青白い光に包まれ、消えていった。
「ふぅ…これでなんとか」
「煉!煉!大丈夫か?」
この騒動の間煉は一ミリも動かなかった。呼吸も浅く、今にも途切れそうだった。
「女神権限にアクセス!Forced stop」
ガブリエルが煉に向かって権限を発動すると煉が咳き込み始めた。
「ゲッホゲッホ…ん?俺は何を…」
「煉…よかった!」
元に戻った煉を見て奏太は涙を流しながら煉に抱きついた。彼女が横にいるのも一切気にしていなかった。
「え?何?」
煉がかなり動揺しているのも一切気にせず、ひたすら泣いている奏太、そんな奏太にガブリエルが残酷な現実を話し始めた。
「奏太様…残念ですが女神権限を使ってもミカエルと煉様の契約を解くことはできません。ましてやミカエルが煉様に奏太様と戦えと命じた場合、奏太様は煉様を殺めるかもしれません。神界が煉様を崩壊の種と判断した場合も同じです」
「そんな…」
崩壊を目論む天使界のミカエルと契約した煉は間違えなく崩壊のために使われる。世界の崩壊を阻止することを条件にガブリエルと契約した奏太は崩壊させる可能性があるものが行動した場合それを全命を使い阻止しなければならない。たとえそれが煉であっても…。
「それはそうと300年前の大崩壊の種は煉様、あなたですか?」
「300年…あれからもうそんなにたったのか」
「やはりそうでしたか…」
奏太には二人が何をいっているのか一切わからなかった。
「お前ら何いってるんだよ?300年前?煉が世界崩壊の種?」
「えぇ、奏太様が生まれる前、ちょうど今から300年前に世界は一度崩壊しました。しかし今世界は存在しています。それはなぜかアダムの嫁、イヴ様が世界の再構築をなさったからです」
「その世界崩壊の種、つまりミカエルの最初の契約者が俺だ…。俺は世界崩壊を条件に永遠の命をもらった」
受け入れがたい話だった。これが事実が虚偽かはガブリエルとミカエル、煉にしかわからない。奏太は煉を信じるしかなかった。幼馴染としていつも一緒にいてくれた煉を信じるしか…
「そうくん…私帰るね…」
唯香はその場の状況、空気に耐えかね家を出ていった。その後残ったのはしばらくの沈黙と重く苦しい空気だけだった。