女神権限
「そうくんそうくん、起きて」
12月も終わりに近づくと朝の寒さは一層強まった。いつものように一回目では起きずに布団深く包まった。
「もう…そうくん起きて!」
勢いよく布団を剥がされ朝の冷たい空気が流れてこんで来た。
「寒っ…」
どうやら唯香が窓開けているようで部屋はかなり冷え切っていた。なぜ窓を開けているのか不思議に思ったがあまりの寒さに体を猫のように丸めたまま動くことができない…。
「そうくん!見て!ほら!」
唯香に手を引かれベットから落ちそうになりながらなんとか立ち上がり、窓の方へと連れて行かれた。はれているのだろうか眩しく目を開くのに時間がかかった。
「うわぁ…すげぇ…」
奏太の目の前に広がっていたのは一面の銀世界だった。昨日は二人とも帰ってすぐに寝てしまったために雪が降っていたなんて一切きずかなかった。クリスマスに雪が降るなんて珍しすぎることだ。これもあの天使たちが現れたからなのだろうか…
「そうくん…あのね」
唯香が頰を赤らめ恥ずかしそうに奏太の胸に抱きついてきた。
「おはようございます。奏太様…あらっお邪魔でしたわね」
そんな状況で空気を読まずに入ってきたのはガブリエルだった。
「いや、そ、そ、そ、そんなことはないよ」
「う、う、うん、大丈夫だよ」
動揺して声がかなり震えていて明らかに大丈夫でないことが完全にバレていた。
「あら、そうですか?」
かなり意地悪な天使だ一回出て行こうとしたんだからそのまま出ていけばいいのにと奏太は心から思った。
「で、何の用?」
「今日からお世話になりますのでご挨拶をと思いまして」
突然のわけわからない発言に返す言葉すら見つからなかった。しかし唯一出てきた言葉がある。それは“は?”だけだった。しかも声に出ていたかどうかすらわからない。
「私は思ったのです。昨日のようなことが起きた時、私がいれば大事には至らないのではと」
「いやいや、まず貴女俺にしか見えてないでしょ?」
「え?私見えてるよ」
「え?マジで?」
今まで奏太にしか見えなかったはずのガブリエルが唯香に見えていた。というか昨日一緒にいたとか言っていた。
「ねぇ、ガブリエルさん…君何したの?」
「私はただ奏太様の周辺の方々に私を見えるようにしただけですわ」
なにやら二人の間にピリピリした空気が流れ始めた。
「そうた〜ゆいちゃ〜ん、ごはんできたわよ〜」
そんな空気を打破してくれたのは、奏太の母だった。おどろくことに二人の女子はご飯という言葉にすごく反応した。
「唯香様!」
「ガブちゃん!」
「行こう!」
先ほどまでの空気はあっさり消え、早々に二人は階段を駆け下りていった。
「なんなんだあいつら」
奏太も二人の後を追って階段を降りていった。下からは炊きたてのご飯のいい匂いがしている。
「奏くん、おはよ〜」
「おう」
食卓にはいつものように煉がいた。これも一種の日常である…わけない。
「ってなんでお前がいるんだよ!」
「え?だって美味しそうな匂いがしてきたから」
真面目な顔していいこと言われるとなにも返せないから困る。特に煉はあまりきつくいったところでむだだとわかっているのでそんなに怒ってなどいない。
「まぁまぁ、奏太も食べなさい」
「美味しいですわよ」
「なんでお前も食ってんだよ!」
ガブリエルおもが食卓に並ぶ食べている。側から見れば家族5人の食事風景だが、事実を知っている人からすれば結構凄い状況だ。しかしそんな状況をあっさりと受け入れる奏太の母はかなりすごい人だ。
「で、こちらの方は?」
「あぁ、紹介が遅れて申し訳ありませんわ、私ガブリエルと申します」
「そうなの、奏太と仲良くしてね」
「え、それだけ?」
普通昨日いなかったはずの人間がいたら怪しいと思い息子本人に聞くだろう。しかし奏太の母はそんなことはしない。
「ごちそうさまでした〜」
そんなこんなしているうちに奏太を除くみんなが食べ終わってしまいていた。それぞれが食器を片し煉、ガブリエル、唯香は奏太の部屋に向かった。それから10分後くらいに奏太も食べ終え、部屋に向かった。
「奏くん遅いー」
「なんでお前は帰らないんだよ!」
部屋に入って驚いたのは3人でトランプをしていたことだった。どこから取り出したか知らないが3人でババ抜きをしていた。
「奏太様がきたことですし、ちょっと真面目な話をしましょうか」
ガブリエルが指を鳴らすと3人の前にあったトランプがポンッと音を立てて消えた。
「先ほど奏太様のお母様と話し、奏太様の隣の部屋で生活させていただきます」
「なんでだ」
「それは先ほど言いましたとおり、ミカエルの襲撃を防ぐためですわ」
たしかにミカエルが昨日のような行動を仕掛けてこないとは限らない、というか確実に仕掛けてくるに違いない。
「それに、わたくしは奏太様を助けるために天使から女神になりましたのです」
「は?」
「いいですわお見せしましょう」
ガブリエルが手を開くと淡い黄色い光が現れた。するとその光のかなに青い文字が浮かび上がる。“Authority”
「女神権限にアクセス」
『女神ガブリエルを認識、女神権限の使用を許可します』
ガブリエルが淡い黄色い光を握ると光はガブリエル全体を包み込んだ。
「奏太様わたくしと契約してください、そうすれば奏太様もこの女神権限の一部を使うことができます」
「代償は?」
口を開いたのは奏太ではなく煉だった。それもいつもみたいな元気な声ではなくかなり大人びた声だった。
「代償は世界が壊れた時の修復と世界の崩壊を防ぐことですわ」
「世界の崩壊って…どうゆうことだよ」
世界の崩壊…その言葉に動揺したのは奏太と唯香だけだった。