クリスマスイブ
「あー!そうたんやっと来た!」
「ごめんごめん、なんか変な夢見ちゃって…」
夢か現実かをいえば現実であることに間違えはないが、今は夢であることにしておきたいので夢だと言い聞かせた。
「まったく今日はなんの日だかわかってるの?」
「え、あぁ…うん、わかってるよ」
「うん、わかってないね」
今日は特にこれといった記念日ではなかったはずだ。
「今日は12月24日だよ!」
12月24日といえばクリスマスイブだ。どうりで街がやたらキラキラしていて、カップルが多いわけだ。
「よく休み取れたね」
「そうたんのためなら無理してとるよ♡」
別に無理はしなくてもいいと心底思った。それに無理をするくらいなら会うことはないだろう。
「そうたん!早く行こ!」
「おう」
今更だがこいつの名前は今石唯香、奏太をそうたんなどと呼ぶからにはただの女ではない。いわゆる彼女だ。
「ねぇねぇ、これお揃いでどう?」
「うん、良い思うよ」
あたりがざわざわしてきたため、そっけない返事をしてしまった。唯香はかなり有名なアーティストだ、最近新曲を出したばかりで今は超忙しい時期だ。曲を出したのだから暇になってもおかしくはないが、実はそうではないらしい。特に唯香はライブを控えて降り本来こんなところにいれる状況ではない。
「ん?どうしたの?そうたん」
「いや…」
唯香もあたりの様子が理解できたよう。慌てて商品をレジに持って行き、会計を済ませてきた。そして奏太を先に店から出させ後から変装して出てきた。
「いつもごめんね」
「しょうがないさ、人気者なんだから」
なんだかんだで大して遊べないまま夕方になってしまった。奏太と唯香は遊びに行ったかえりには必ず公園による。街で一番高い丘の上にある、普段は誰も来ないような公園だ。しかしそこから見える夕日がとても綺麗で二人のお気に入りの場所になっている。
「やっと見つけましたわ。奏太様」
声がしたので背後を向いたそこには真っ黒な羽を広げ宙に浮いているミカエルがいた。
「誰ですの?そちらは?」
「そうたん、なにあれ…」
唯香にも見えている様子だった。明らかに声が震えていた。一般の人なら正しい反応だ、むしろ初めて見た時に大きな反応を見せなかった奏太のほうがおかしいのかもしれない。
「まぁどなたでも構いませんわ。どうせ死ぬのですから…」
「何言って…」
「キャーー…」
悲鳴を聞き慌てて唯香の方を見るとそこには串刺しにされ、多量の血を流し、息をしていない唯香の姿があった。
「え…は?…な、なんで…」
「あらあら、大変。でも私と契約すれば彼女は蘇りますわよ?」
まるで唯香の死をあざ笑うかのような声で奏太に言った。声に最初にあった時のような暖かさはなく、今はこの世の何よりも冷たい声だった。
「お前と契約すれば還ってくるんだな…?」
「えぇ還ってきますわ」
だったら…とミカエルに手を伸ばした時、ミカエルは勝ち誇ったような顔をしていた。しかし奏太はそんなことには気づかなかった。
「ダメです!」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはガブリエルと唯香がいた。
「なんで…」
奏太の目には涙が溢れていた。なんで…の後に続く言葉を言う前にその場に泣き崩れていた。
「そうくん…」
奏太が泣いてしまったのにつられたのか唯香も泣いてしまっていた。しかし泣きながらも奏太の元へ歩み寄り、しっかりとその肩を抱いていた。
「ミカエル姉さん…あなたって人は…」
「ガブリエル…久しぶりね」
久しぶりねの言葉に再会を喜んでいるような暖かさはなかった。ミカエルの声は今までと同じく冷たいままだった。
「なんで気づいたのガブリエル?」
「奏太様を騙しましたわね?奏太様が家を出た時間は11時ごろではなく12時、その頃唯香様は私と一緒にいましたの、だから奏太様が帰って来ないと言うことはつまり誰かとあっていると言うこと、しかし奏太様が唯香様との約束を破るわけがないのです。奏太様はそうゆうお方ですから、となれば考えることは一つ、ミカエル姉さんあなたですわ」
「昔からそうゆうところが大っ嫌い」
「姉さん…もうやめましょう?」
「えぇそうね…なんて言えるわけないでしょ ⁉︎」
ガブリエルは争い事は好まないらしく、ミカエルの言葉を聞いた途端にとても悲しい目をした。
「そうやって悲しいふりをすれば片付くと思って…ほんと昔から何も変わってない」
「ふりだなんて…酷い…」
「泣いたってもうどうにもならないのよ」
ミカエルの声が一瞬だけだが悲しい声になった。今までにないくらいの悲しい声に…。
「今日は帰るわ。奏太様?私は諦めませんので…」
そう言い残すと、ミカエルは霧のように静かに消えていった。
「姉さん…どうしてあなたは…」
ミカエルが消えてからしばらくしてガブリエルも消えていった。二人の天使が消えた後に残ったのは奏太と唯香が泣いている声だけだった…。しばらくして二人は立ち上がり、奏太の家に向かった。家に着いた二人はそのまま奏太の部屋の小さなベットで静かに眠りについた…
「今日はクリスマスイブ。聖なる使いがプレゼントを配る日…」
二人が眠るのを見届けると二人の枕元にそっと赤い箱に緑のリボンがついたものと真っ白な羽を置いっていった。それが誰なのかだれにもわからない。