ユグドラシル
「よかったなミネルヴァ、世が終わる前にいけて」
竜巻となったエクスカリバーの風の中から抜け出せない今、3人はラファエルを倒すかラファエルに倒されるかの二択しかなかった。しかしさっきの攻撃でわかった通り、ラファエルにミネルヴァの刃は届かなかった。
「私の安眠を邪魔するのは…お前か?」
どこからともなく声が聞こえてきたかと思えば次はミネルヴァたちを囲っていた竜巻を消し去った。しかし、奏太たちの目に入ってきたのは残酷な現状だった。割れた地面、倒れかけたビル、燃え盛る家…まさに地獄だった。
「何者だ」
「人に名前を聞くからにはお前から名乗るのが礼儀だろう?」
竜巻を消し去ったのはまるで精霊のような空気をまとった少女だった。しかし、少女ながらまとう空気からは様々なものがあふれていた。殺気、怒り、優しさ暖かさ…それはまるで命そのもののように感じた。
「きさま…まさか…」
「ほぅ、私を起こしたのに私の姿を知らぬか…ハハッ笑わせてくれるな」
軽く振った手からは何も出ていないのに、あたりに花と木々を出現させた。耳をすませば鳥の鳴き声が聞こえてきそうなくらい、のどかな空気があたりを包み込んだ。
「この力…やはりお前がユグドラシルか」
「いかにも、私はユグドラシル…貴様はラファエルだな、そしてお前はミネルヴァ、そこの人間は白峯奏太、蒼井煉だな」
「なぜわかる?」
「数百年後の世界を見てきたのだ、知らぬことなどない」
世界樹が焼失した300年前のあの日から、ユグドラシルは地上界、天使界と神界、魔界…全ての界を見ていた、だからこそ全てを知っていたのだ。
「だが、未来まではわからないだろ?」
ラファエルはエクスカリバーを構え、臨戦態勢にはいった。しかし、ユグドラシルは一切戦う意思を見せない。まるで、その剣がどうなるのかを知っているかのようだった。
「無駄だ…お前に私は倒せない」
「それはどうかな?戦うのが俺じゃないなら、話は別だろ?」
ラファエルはエクスカリバーを自身の足元に刺した。すると魔法陣が現れ、あたりを紫色の光が包み込んだ。どこらともなく聞こえてくる、ゴーンッゴーンッと鳴り響く鐘、溢れ出す気持ちの悪い空気…
「まさか…ミネルヴァ!その人間を連れて逃げろ!」
「え?あッ!はい!」
ミネルヴァが翼を広げ、奏太と煉の腕を掴んだ。しかし煉は気を失っているため安定しない。そのことに気づいた時ミネルヴァはすでに地面から足を離していた。
「あっ…」
数メートルと進まず無様にも落ちていってしまうミネルヴァ。手が塞がってしまっているため、うまく着地ができず奏太と煉共に倒れてしまった。
「何をしている!早く行け!」
しかし、ユグドラシルの言葉がミネルヴァに届いた時にはすでに自体は最悪なことになっていた。鐘の音が大きくなり、だんだんと早くなって行く、鐘が鳴り止んだとき、魔法陣に雷が落ちた。黄色や白といった光の色ではなく、紫の雷とはいえぬ色の雷が…。
「フフフッ…ハーハッハッ…終焉の鐘が鳴り響き、地は割れた!ここに二人の天使が一人!破壊の天使セタ様が復活する!」
魔法陣を包んでいた砂埃がおさまったとき、ようやくそれは姿を現した。外見は煉より幼く、背も低い、翼がなければただの人間と変わらないような雰囲気、どこか親近感すら湧くほどだった。
「ふぁ〜…よく寝た……あれ?ここは…どこかな?」
「セタ様、私はラファエル現聖王にございます」
「ふーん、でここはどこ?」
「地上界、元世界樹のあった場所でございます」
「世界樹…あ!そうだ!僕ここでゼウスと聖王になんかされたんだ!」
何も覚えていないようだったセタが世界樹という言葉で全てを思い出した。思い出してはいけないようなことも思い出してようだった。
「あれ?確か君、聖王って言ったよね?ってことは…敵か!」
「そんな!滅相もな…い……」
ラファエルは言葉を言い終わることなく倒れた。何が起きたのかその場にいた者全員が理解していなかった。当事者でなるラファエルすらわかっていない。しかし、セタの手に握られた塊はドクンドクンと拍をうってた。
「誰であろうと敵は許さないよ」
吐き捨てるように呟くと次は向きを変えて、ユグドラシルを見た。
「君は…アオをどうかしたやつだよね?」
「なんのことだか?」
「嘘はダメだよ」
耳元で囁かれ、ユグドラシルは蒼白した。さっきまで離れていたはずのものが気づかないうちに目の前、鼻がつくくらいの距離にいる。あたりはただならない恐怖に包まれた。
「消えろ!」
セタが腕を軽く降るとユグドラシルの足元の地面が裂け、業火が噴き出した。それは300年前に世界樹を焼いた火と同じものだった。
「う…あ…なぜ…」
「敵は許さない…なん度も言わせないでよ」
ユグドラシルは灰となり消えていった。もう、その場に勝ち目など残っていなかった。ユグドラシルは何もできず消えていった。ユグドラシルですら勝てない。それを知った場所に希望などなく、あるのは絶望と悲しみだけだった。




