日常
あけましておめでとうございます。2018年もよろしくお願いします
目の前には絶望が広がっていた。先ほどまで平和で平凡な東京の街が突如として破滅れ始めた。
「なんだよ…これ…」
別に誰が望んだわけではない。ただ誰もが平凡な日常に刺激を求めていた。皆が刺激を求め新たな日常を過ごしたいと願った結果がこれだ。まるで異世界に飛ばされたかのような光景、割れる地面…普段ならテンポの良い曲が流れ華やかな雰囲気の街だが今聞こえて行くのは断末魔の悲鳴だけだった…少年は先ほどまで妹と一緒にいた。しかしもう妹の姿は見えない。ついさっきまでたしかに隣に立って目の前に広がる絶望を呆然と見ていた。
「おい、どこ行ったんだよ」
呼びかけてみるが返事はない。歩く場所すらないこの状況でどこかに行けるわけがない。だとしたら…考えは最悪な方へと進んでいった。嫌な汗がシャツを濡らし始めたころ、少年のいる場所から数メートル離れた先に妹とみられる姿が見えた。
「おい、なんでそんなところいるんだよ」
妹の元へ行こうと一歩踏み出した時、少年はさらなる絶望を目にした。足元の地面が割れ、そこから業火が吹き出して来ている。どうあがこうと少年は業火に焼き尽くされてしまう。すなわち死を意味していた。
「う、ウワァァァァァァァァァァァァァッ」
少年の体は吹き出して来た業火に焼かれ灰すら残らなかった。少年を焼き尽くした業火は収まることなく吹き出し続けていた…
「うわッ」
ベットから落ちた衝撃で目が覚めた。目覚めが悪いだけでなくベットから落ちたことで軽く肘を打った。「最悪…」
普段ならこんなことはなく、目覚ましの10分前に目を覚ます。と言いたいところだが、これは普段通りの朝と言って良いものだった。
「奏太〜?起きたの〜?蒼井くん来てるわよ〜」
下の階から母の声が聞こえる。ふと時計を見ると時針が8時をさしていた。それだけならまだしも分針は30分をさしていた。
「やばッ」
急いで制服に着替えて階段を駆け下り、リビングの扉を開いた。そこには優雅な朝を思わせるかのような光景が広がっていた。
「おはよう奏太、ご飯できてるわよ」
「起きるのが遅いよ奏くん」
母さんがのんびりしているのはいつものことだからわかるが蒼井がのんびりと家で朝食を食べているのかは謎だった。
「食べてる時間ないからパンだけ貰ってく、蒼井行くぞ!」
皿の上に置かれたこんがりと焼けたいいきつね色のトーストを加えて玄関のドア開けた。
「待ってよ奏くん、あ、おばさんご飯美味しかったです」
「それは良かったわ、いってらっしゃい」
奏太が家を出てから数分遅れて蒼井が出てきた。相変わらず緊張感がないというかのんびりしすぎているというか…奏太が信号で止まっているとようやく蒼井が来た。
「遅いぞ蒼井!」
「奏くんが早いんだよ!あと、蒼井じゃなくて煉って呼んで」
蒼井…いや煉は上に兄が一人いる、兄が蒼井と呼ばれているからか、煉はやたら下の名前で呼ぶように言っくる。たいして変わらないと思うがどうしても煉と呼ばれたいらしい。
「人ん家で飯食っときながら何言ってんだよ。あ、信号変わった。行くぞ走れよ煉」
「うんッ」
遅刻ギリギリで校門を通過して、慌てて教室に滑り込む。電車通学だったら完全に遅刻していたことだろう。
「遅刻ギリギリだぞ〜早く席につけ」
担任が丁度出欠を取っていたのでギリギリ遅刻にはならなかった。出欠を取り終わり、担任が教室から出て行ったと同時に教室内は賑やかになった。
「また、遅刻ぎりぎり?たまには早起きしたら?」
奏太より30分もまえに家を出て学校で友達と喋っていた妹が声をかけてきた。
「うるせぇな」
「はぁ」
まるで母のように気にかけてくれる妹はいったい誰に似たのか見当もつかない。奏太の母はマイペースでおっとりとした性格だ。父は小規模企業の社長で外見はヤクザっぽいが内面は超がつくほど甘く、基本的に怒ることはない。“キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン”始業のチャイムが鳴り教室は一気に静まり返った。
「授業始めるぞ〜」
気だるそうに入ってきた社会担当の教師が教団に着く、奏太は社会はあまり得意ではない。だから授業を集中して受けたことなどなかった。
「はぁ、またいつもと同じ日常が始まるのか…」
さて、1限目が始まり書くことも少なくなってきたので奏太とその周辺の人について話しておこう。まず社会の授業をまともに受けず窓の外ばかり眺めている、城峯奏太、特にこれといって特徴はないが、強いて言うならめがねで若干背が高い。これくらいだろう。次にこれまた社会の授業をまともに受けずノートに落書きばかりしている、蒼井煉、高学歴で超優秀な兄と比べられるが嫌で蒼井と呼ばれるのを嫌っている。特徴は背が低く、髪が茶色い。生まれつきだそうだ。最後に奏太の妹である城峯雪奈、兄より優れていて、成績は優秀、奏太とは双子なためどちらが下であるとかはないが、雪奈的に妹でありたかったために奏太のことを兄と呼んでいる。“キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン”終業のチャイムが鳴った。今回の紹介はこれくらいにしておこう。
「じゃあ授業終わりにします。お疲れ様でしたー」
まるでバイトのあがるときかのような終わらせ方だ。まぁ特に何もなく1限目が終わったので奏太はまたこの詰まらない学校という日常が始まるのかとうんざりしていた。ふと気づけば次の授業が始まる時間になっていた。“キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン”重苦しいチャイムと同時に教室に生物担任の教師が入ってきた。
「はぁい、じゃあ授業を始めます」
生物担任の先生が嫌いなため奏太は生物の授業は決まって不機嫌だった。生物の授業自体は嫌いなわけではない。ただ先生が嫌いなだけだ。
「(はぁ、同じことの繰り返しも飽きてきたな…)」
「そんな日常を変えて差し上げますわ」
「(は?え、誰?)」
突然聞こえてきた声に思わず、辺りを見回してしまった。しかしみんな授業に集中していて……まぁともかく誰も話してはいなかった。というか、奏太は声に出していないため、誰かが反応できるわけもなかった。
「目の前ですわ」
また声がしたため前を向くとそこには明らかに場違いなを生やした。人間?が立っていた。だが、それは奏太にしか見えていない様子だった。結構でかい羽のため、見えていればかなり邪魔なはずだが、誰も何もないかのように黒板を見ている。
「はじめまして城峯奏太さん、私は天使ミカエルと申します」
ニコッと笑った顔はまさに天使であった。しかしこの天使との出会いがあの絶望につながることを今の奏太はまだ知らなかった……