006 「怒ってないよ。怒ってないってば!」
「カンパリー、カンパリー」
誰かが自分を呼ぶ声がする。まだ、眠い。
「カンパリィー。主を差し置いて眠りにつくなんていい度胸じゃないかぁー? お、おぉーい?」
その言葉にバッと飛び起きる。そして、床に降りて勢いよく頭を床に擦り付けた。
「カンパリ?」
申し訳ない、そんな気持ちでいっぱいだ。自分は、奴隷なのに、主より先に起きていないどころか、遅く起きて、主に起こされてしまった。
「カンパリ、ボクは怒ってないよ」
主はそう言うが、自分は頭を下げたまま。上から、小さなため息が降ってくる。もう、それだけで自分にとっては恐怖にしかならない。怖い。怖い。自分はまた、叩かれて、怒鳴られて、捨てられるのか。
「カンパリ、ボクは君を買った以上捨てないし、怒らないし、叩かないよ」
嘘だ。普通の奴隷の主なら、そうやって躾ける。ましてや、貴族のボンボンなら絶対に叩かないなんて有り得ない。
「……全く。ボクは貴族のボンボンじゃないのに。それに、叩いたり、怒鳴ったりするのって体力使うからあんまり好きじゃないんだよね」
主はそう言って、自分から離れて行く。そこでようやく、自分は顔を上げた。そうするとニッコリと笑ってこちらを見ている主と目が合った。