001 「どっれにしようかな」→001 「第一話。子供」
暗い部屋。檻の中に入れられ、どれくらいの時間が流れただろうか。こんな部屋に響くのは、外の音と、たまに歩いてくる男の足音だったり、客の声だったり。
自分は、檻の中でどれくらい過ごしているのか。そう考えると、ポタリと雫が落ちていく。どれだけ落としても、枯れない涙。流す度に増える体の傷。そして、傷が出来る度、流れる涙。
ぎゅっと体を縮こまらせて、涙を抑えようと努力をしていた。
そんな時だった。
「これにする」
少し高めの、少年、いや、少女とも取れる声があたりに響いた。自分は初めて聞く声に、恐怖が隠せず、体が思わず震えてしまう。カツン、カツン、と高い音を響かせながら一人の子供が自分の檻の前で立ち止まった。子供は自分を見ているのだろうか。恐る恐る自分は目線を上げて、檻の少し上の方へ移動させた。
ビリビリビリ!!!!
体に電流が流れたように目の前の子供に引き寄せられていく。何が、とは正確に言い表せないが、電流が流れ、自分は目の前の子供に釘付けになった。
「益々気に入った。この子、いくら?」
自分を見て、ニィと子供は笑い、後ろを振り向いてそういった。
「そうですねぇ。金貨一枚、というところでしょうか」
低めの、聞き慣れた声が響いてきた。それは、体の奥底から震えが湧いてくるような声だ。
「はぁ? ふざけないでよ。処分在庫買うんだからもう少し安くしたら?」
子供が少し苛立ったように男に言った。そして、すぐに聞こえてくるのは困ったような男の声。
「とは言いましても……」
「ボク、知ってるよ。このふたりの価値って金貨一枚にも満たないって」
「そんなことはありえません!」
聞き慣れた大きな声にビクリ、の身体が震える。この声は、苦手だ。怖い。思わずポタリと涙が落ちる。そして、止まらない。
「見てよ。こんなすぐ涙を流す男なんて安いんでしょ? きちんと躾られてないんだね。それに、さっき貴族の男にそう言ってたよね? え? なに? さっき言ってたことも忘れるの? あったま悪いねぇ。それに、この子、十三年もここにいるみたいじゃん。早く捨てたいでしょ」
「……分かりました。いいでしょう。貴女の言う金貨一枚で売りましょう」
子供の言葉に、衝撃が隠せなかった。自分はそんなに長く、この、檻の中に。
隠しきれない衝撃に震えながら、耳を済ませると、一人は遠ざかって行き、一人は近づいてくる。歩き方からして、聞き慣れた男の方だ。乱暴に扉が開かれ、衝撃が恐怖に塗り替えられる間に首元の鎖にぐんっと引っ張られた。
「ぅっ……」
床に倒れ込み、小さな呻き声が口から漏れだす。チッ、と大きな舌打ちが聞こえて、また体が震え始めた。怖い、怖い。
「早く立て」
怒鳴っている訳ではないのに、体の震えが大きくなり、立つのも遅くなる。のろのろと立ち上がり、歩き出すと、遅いのが気に食わないのか鎖を引いて男はズンズン進んで行った。自分は首が締められるように引っ張られながら歩く。痛くても、声はあげない、あげれない。自分は、精一杯倒れないように歩き続ける。そして、扉を潜りぬけ、場所に着いたのか最後には男がぐっ、と鎖が思いっきり引っ張られ、体が浮いて、泣く暇もなく、気がついたら床に打ち付けられて、鎖から手を離した。
「こいつが商品だ」
「ひっどい扱いだなぁ」
男の冷たい、声と子供の声が部屋の中に響く。自分は床に倒れていながら、不思議な感覚に襲われていた。怖いような、あったかいような、そんな不思議な感覚。
「はっ、金がお支払いされて無いうちはこっちの商品だ。どう扱おうと勝手だろ」
「これから買うモノなのに。傷付けられるのは困るなぁ」
「じゃあ、さっさと金払って帰んな」
「ん? ボクは二人って言ったよね? もう1人はどこに居るの?」
「ちっ、すぐに他の奴が連れてくる」
「ふぅーん」
子供はつまらなさそうに返事をして、部屋の中が静かになった。自分は痛いのを我慢しながら体を起こす。そして、自分を買うであろう子供を観察をし始めた。白を基調とした長めのコート。少女とも、少年とも取れる中性的か顔。座る姿勢や、お茶を飲む姿を見るとどこかの貴族のボンボンだろうか……。いや、それならこんな自分みたいな男で長く居て、すぐ泣くような処分在庫を買ったりするわけはない。商人の息子っていうことも有り得るか。でも、それなら、尚更自分みたいなのは買わない。どうして、と思うけれど、金を持っている人間の考えなんて自分たちに分かるわけがない。自分は子供の姿を見て、不思議な感覚に包まれながら考えを放棄して、痛みで声が出そうなのを抑えながら、床に座ることにした。
文章変更(2017/04/29)
文字数増。今から順次変更していきます。