弱っちい坊ちゃん勇者。(若様)
誰にも言ってないが私は転生者だ。
でも前世の記憶が時折浮かぶくらいで特別なチートがある訳でも無い。
おまけに超がつく位の虚弱で病弱な体だった。
まあ、早熟で知的だと感じてくれる家臣はいるようだが。
勇者だなんて神託はからかわれているとしか思えなかった。
屋外どころか部屋から出ることも難しい時もあると言うのに。
父上が勇者さまと共に戦死された時の母上は見て居られないくらいだった。
側にいて慰めてさしあげるくらいしかできることが無かった。
父上も勇者さまも戦死されたが彼等の部下は敵を取ってくれたし
戦争も終結した。
私が健康で大人だったとしてももうできることは無い。
そう思ってたんだが・・勇者か・・
どうすればいいんだろう・・
こんな体で何ができると言うんだ・・
普通に健康な体ならたとえ達成できなくても〔勇者〕と成るべく
努力することができるだろうに。
部屋の天井を眺めているしかない・・
周りの皆も分かっているから何も言わない。
ソレはソレでツライんだけどなぁ。
そんなある日母上がこの世界に迷い込んだ〔異世界の勇者〕だ
という一行を連れてきた。
どーもリーダーは私と同じくらいに見える少年らしい。
母上は彼等に私の指導を依頼したんだそうだ。
指導って・・
どんな指導でもこの虚弱な体では・・
と思ったが彼等の指導は変だった。
目の前のタダの紙のボールに木剣(?)を当てるだけなんて。
なかなか当たらなかったけど。
「力は入れなくていいよ。
当てるべくよく狙って。
集中することが大事なんだよ。」
こんなことが何の役に立つんだ?
当てられたとしても威力なんかないだろうし大体私は
剣どころか訓練用の木剣すら振り回せないのに。
まあ、この変な木剣(?)は軽いからできてるけど。
驚いたのは午後だった。
魔力はあってもどうやっても発動しなかったのに彼等の方法で
たった3回のトライで火魔法が!
あとは芋づる式とでも言うようにできて行った。
「モチロン勇者ですから才能は有りますけど午前の訓練で
集中力を上げましたからね。
魔法にはイメージと集中力が大事なんですよ。」
周りの見物していた家臣たちに説明していた。
「何度も練習するのが大事なんだ。
威力と精度が上がって行くから。
君は勇者だから才能はある。
だからほとんどなんでもできるんだ。
でも、できるだけなんだよ。
全部最強というレベルになるのは難しい。
専門職な方々には敵わないことが多いんだ。
下手をすると器用貧乏になりかねない。
なんでもできてなんにもできない、それが勇者なんだよ。」
良く分からない・・なんでもできれば最高だと思うけど。
勇者の一行に居た若い神官は妙な薬を処方してくれた。
味は・・うー・・言いたくない・・
今笑ったヤツ! あとで味見させてやるゾ! 覚えとけ!
だが、効き目はトンデモなかった。
体が軽いと感じる。目覚めも良くなった。
鏡の中の自分が別人に見える。
食事は義務のように感じていたのにもっと食べたいと思った。
母上を安心させるために粘土を食べている気分でも努力して
口に運んでいたのに・・
それでもなかなか入っていかなかったのに。
なんだかメニューも変わったみたいだな。
彼等が居たのはたった4日だった。
それなのに私やココの連中にいろんな影響を残して行った。
私は最初に使ったシナイとかいう木剣を譲っていただいた。
たった4日・・コレはもう必要ない位に進歩できたと思う。
でも最初の気持ちをコレを見れば思い出せると思う。
「やっとスタート地点に立ったようなものだから気を抜かず頑張ってほしい。
オレも昔は病弱だったし今だってこんなチビだ。
それでも勇者ができてるからな。
君にもきっとできる。
自分が勇者なんだということを忘れないようにな。
周りがみんな先生だと思って頑張れ! 」
同じくらいの歳だと思ったら彼は4歳も年上だった。
同じように病弱だったとは信じられない位彼からパワーを感じる。
感じられるようになった。
たった4日だったのに・・
普通の健康な体にあこがれていた。
普通の体なら母上にも心配を掛けずに屋外で遊べるし家臣の皆にも
もっと期待もしてもらえる。
父上の跡継ぎとして誰にも文句をつけられない男に成れる!
勇者達は私の将来を、ココの領地の将来を開いてくれた。
神殿長は〔僥倖〕だったという。
確かにそうだな。
彼等は偶然にココの世界に迷い込んだ。
それは我々には幸運そのものだった。
我々はソレを生かさなければいけない。
騎士や兵士たちが勇者たちが残して行った訓練メニューにトライしていた。
あんなスゴイメニューなんて・・と思ったら別に初心者用のメニューが
同じ封筒に入ってるのに気が付いた。
あー・・いや・・すまない・・
トライする前に気づけば良かった。
まあ、まだ私ではこの(超)初心者用でも早い気はする。
当面の目標は兵士と同じ訓練ができるようにすることだね。
戦争は終わったから今すぐ実戦なんてことは無い。
〔勇者〕になるまでの時間はタップリあるということだ。
努力できる体も彼らが与えてくれた。
あとは頑張って努力するだけだ。
そう・・気を抜かずにね。